真水稔生の『ソフビ大好き!』


第189回 「目」  2019.10

こないだ、
ドラマの撮影の際、
六角精児さんに演技を褒められました。

ワーイ、ワーイ! \(^0^)/

「素晴らしい!」と一言おっしゃって下さっただけですが、
めっちゃ嬉しかったです。

まぁ、
名も知らぬローカル俳優に現場で何気なく発した一言など、
六角さんはすぐに忘れてしまわれるでしょうが、
僕は絶対に忘れません。
永久保存。一生の宝物にします。

なので、
この先、飲みの席でアルコールが入って上機嫌になった際には、
僕、毎回、自慢すると思うので、
役者の飲み仲間(特に後輩諸君)、覚悟しといてね・・・ってか、許してね(笑)。

いやぁ、ホント、嬉しかった。

それにしても、
僕の演技が素晴らしい、
だなんて、
解かる人には解かるモンですよねぇ~、やっぱ(笑)。


・・・けど、
そんな浮かれ気分でいられたのも束の間、
神様が、

 このまま放っておいたら、
 この男、調子こいて増長・慢心するな・・・、

って思ったか、 
或る苦難を僕に与え、戒めてきました。

その撮影から数日後、目に、異変が起こったのです。

1年前、
左目に網膜剥離を患ったのですが(第178回「憧れの人」参照)、
今度は右目。
突然、黒いススが視界全体に広がり、糸くずのようなものが見え出しました。

左目を手術した1年後に今度は右目も、なんて、

 「ウソでしょ?」

と何度も恨めしい独り言をつぶやきながら眼科へ走り、検査・診察を受けたところ、

 網膜の手前にある硝子体膜が剥がれている、

との事。

これは、
擦った肌から垢が出るようなものだから、
網膜剥離ほどの心配は要らないそうなのですが、
それでも、黒いススがかかっているように濁った視界を放ってはおけません。
症状の悪化を防ぐため、
1日4回も点眼しなければならない目薬を2種類も処方され、
1年前と同様、
煩わしい通院生活の始まり、となりました。
はぁ~(ため息)。

ちなみに、
手術した左目も、
視力は回復しているものの、
後遺症で、まだ若干、視界は歪んでいます(円がやや楕円に見える程度)。

つまり、
左目の視界が歪んでいるところへ
右目の視界が濁っちゃったものだから、
もう、物を正しい形や色で見る事が出来なくなっちゃった、というわけ。
・・・憂鬱になります。


まぁ、でも、
性格だって歪んでいるし、決して澄んだきれいな心をしているわけではない僕なのですから、
その精神のとおりに、
世の中が見えるようになっただけの話、かもしれませんけどね(苦笑)。


とはいえ、
この場を借りて
神様には一言、言っておきたい。

 今回のこの仕打ち、
 前述したように、

  演技を褒められて嬉しかったからといって
  調子こいて増長・慢心しないための戒め、

 なんでしょうけど、
 いちいちこんな事しなくても、僕、増長も慢心もしませんから。
 そこまで馬鹿じゃねぇ、っつの!
 やめてほしいです、ホント。

 飛び出てる、とか、
 死んだ魚の目みたい、とか、
 変質者の目だ、とか、
 子供の頃から今日に至るまで
 他人からは散々けなされてきた僕の目ですが(苦笑)、
 僕自身にとっては、
 命と同じくらい大事な大事なものなのです。
 気安く触らないで下さい。おもちゃにしないで下さい。

 毎年、毎年、
 網膜剥がしたり硝子体膜剥がしたり、もう、うんざりです。
 勘弁して下さい。マジで。
 よろしくお願いします。



・・・と、
そんなわけですので、
今回は、“目” をテーマに、
目の表現に特徴があるアンティークソフビを、いくつか紹介させていただきましょう。


まずは、バルゴン
映画『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』に登場した冷凍怪獣です。

日東科学教材製、全長約24センチ。昭和41年発売。

以前、第43回「オモチャの価値とコレクターの情熱」の中でも
紹介したこの人形のセールスポイントは、
なんといっても、
鼻先から伸びた立派な角ですが、
それだけでなく、
僕は、この、黒く塗りつぶしてしまった “目” にも、大いに魅力を感じます。
よく見ると、
眼球の真ん中に小さな丸が彫られており、
その部分を黒目に、
そして周りを白目に、と
フツーに塗装すれば、
実物のバルゴン同様、円らな瞳に仕上がったはずなのに、
なぜか、
眼球丸々、黒で、
こってりと塗りつぶしてしまっているのです。
塗装担当者のセンスなのか、何かの行き違いなのか、
はたまた、
作業現場でつけてたラジオから
当時ヒットしていたローリング・ストーンズの『Paint It,Black(黒くぬれ!)』が流れてて、それに誘導されたのか(笑)・・・。 
まぁ、とにかく、
黒目が大きいと、
目力が強くなり、生命感が増しますので、
この塗装は大正解だった、と僕は思いますね。 

それに、
ただ塗りつぶしてしまうのではなく、
その真っ黒な眼球と下瞼の間に
白いラインを細く入れて、
チラッと白目の部分も見えるようにしてあるので、
黒一色のただの真っ黒な目よりも、
かえって黒目が強調され、
立派な角と絶妙なコンビネーションで、
人形に力強い印象を与えています。 
実物のバルゴンの目とは、確かに違っちゃってますけど、
僕はこの目に、

 この人形が実物のバルゴン以上に子供たちから愛されるように・・・、

という送り手の思いを感じます。
こういうデフォルメを僕ら当時の子供たちが否定せず受け入れたのは、

 怪獣は怖くて不気味なだけの生き物ではない、

という事を、
物心がつく頃からすでに理解していたから、だと思うンですよね。
なので、
怪獣世代・ソフビ世代である事に、僕は感謝の気持ちと誇りを持っています。
    ありゃりゃ、
歯を塗装した白の塗料が、誤って左腕に付いちゃってますねぇ。
そういえば、
前回紹介したギャオス人形の翼の背面にも、
同じようなミスがありましたけど、
日東の塗装担当者って、不器用で鈍臭い人だったのかな?(笑)
 

お次は、ガルバン
『キャプテンウルトラ』に登場した電磁波怪獣です。

マルサン製、全長約22センチ。昭和40年代前半発売。


人気怪獣だったし、
人形の出来も最高にカッコよかったので、
子供の頃、欲しくて欲しくてたまらなかったソフビのひとつなのですが、

 今度、買ってもらおう、
 次こそ、買ってもらおう、

と思い続けているうち、
ソフビで遊ぶ年頃ではなくなってしまった(苦笑)、っていう悔しい思い出があります。 
   
でも、
近所のお金持ちの1歳年上の友達・モリサダ君は、やっぱり持ってて、
モリサダ君の家に遊びに行くと、
真っ先に触らせてもらった(遊ばせてもらった)人形だったので、
今でも、この人形を見ると、
モリサダ君やモリサダ君の家の風景を思い出します。

ゴチャゴチャとした形状をしていながら、
決して汚らしい印象は受けないこの芸術的な造形に魅入り、

 「この人形を作った人、凄いね」

って、モリサダ君と語り合った事を憶えています。

わずか5歳と6歳で、
マルサンソフビの原型士にリスペクトの念を持っていた僕とモリサダ君、
見識のある子供だったンだなぁ・・・(笑)。

 
    ・・・で、
“目” ですが、
目玉を筆で描くだけでなく、
周りに彫りを入れて、盛り上がっているように造形されてるンですよね。

人形に深い味わいをもたらす施しが、
何の衒いもなく、当たり前のようにさりげなくされている・・・、
こういうところが、
さすがマルサン、なのであります。 
         

「やっぱり、この人形を作った人は凄いね」

って、
またモリサダ君と、
今度は55歳と56歳で、語り合いたいものです。





最後に、ゼロン
『宇宙猿人ゴリ』に登場して、スペクトルマンと闘った怪獣です。

マスダヤ製、全長約19センチ。昭和46年発売。

第37回「色違いの妙味」
第110回「ゴリの嘲笑・その2」でも取り上げた、

 これぞソフビ怪獣人形、

という造形・彩色をした、僕のお気に入りソフビです。 



    この “健全なオモチャ感” が、
ともすれば怪獣の怖さや迫力を弱めてしまうかもしれないところを、
白目(銀色ですが)と黒目の間に
血を連想させる色・赤を入れた “目” の塗装が、
それを食い止めて防ぎ、人形全体の印象を引き締めています。

 
             
                     オレンジ色と黄色の成形色違いがありますが、
       どちらも、
       目の塗装はそうなっていますので、
       現場の塗装担当者が思いつきで勝手に施したものでなく、

        目はこうやって描く事、

       っていう仕様に、予めなっていたンだと思います。
ほんの少し、チョロっと塗ってあるだけの赤ですが、
その効果は絶大で、
生き物としての怪獣の呼吸や痛みが、グッと伝わってきます。

こういうのが嬉しいンですよね、僕は。
愛嬌だけで子供に媚を売らない、怪獣人形のプライドを感じるから。

ソフビ怪獣バトルは、
同じ人形遊びでも、女の子のお人形さんごっことは違いまして、
ヒーローや怪獣の
命をかけた闘いを演出・表現するものゆえ、
その人形には、ピリッとした緊張感も必要なンです。 
              男の子のオモチャである事に誇りを持っています、と
人形自身が
まるでアピールしているような、
そんなこのゼロンの目が、
僕は愛しくてたまらないのであります。
 




・・・いかがでしたでしょうか?

人形は目が命、と言いますから、
僕のコレクションを用いて
こういうソフビ怪獣の “目” の話、前々からしてみたかったンですよね。

優しくて深くてカッコよくて、素敵でしょ? 昔のソフビ、って。

・・・え?
お前の主観なんか、共感も出来ないし参考にもならない?

いやいやいや、
たとえ視界は歪んで濁っていても、僕のソフビを見る “目” は確かです。
僕の演技を褒めてくれた六角精児さんの、役者を見る “目” が、確かなように・・・。(^ ^)




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