真水稔生の『ソフビ大好き!』


第37回 「色違いの妙味」  2007.2

ソフビ怪獣人形を蒐集する醍醐味は、なんといっても色違いを揃える事だろう。
発売時期の違いや
下請工場の都合などによって、
ソフビ怪獣人形には、成形色や塗装色にさまざまなバリエーションが存在する。
これが実に楽しい。
同じ人形でも、
色が違う事によって印象や味わいが異なり、表情が違って見えたりするからである。
時には、全く別の人形に見えたりする事もある。
なんとも不思議で、奥深い魅力なのだ。

また、
この、ソフビ怪獣人形の色違いについては、
何種類あるのか(あったのか)、詳細な資料がないため、
いまだに、初めて見るカラーリングのものと出逢う事もある。
その出逢いは、
ノスタルジックな感情の中に、“新鮮な驚き” という衝撃的な風を突如として吹き込んでくれる、
実に劇的でロマンティックなものである。

本来なら子供の時に出逢うはずのものを何十年と経った今引き合わせる、という、
神様の仕掛けた時間差のいたずらは、実に巧妙だ。
ミステリアスな香りすら漂うその趣は、玩味すればするほど心を酔わせていくし、
気持ちをやさしく和ませてくれる。

しかも、
古いオモチャなので、年月や保存状態によって、本来の色が退色している場合もあり、
その度合いよっては、
下地の色と上から塗装した色のマッチングに微妙な違いが出たりして、
その風雅な味わいは、無限に広がり、永遠に深まっていくのである。
ソフビ怪獣人形の色違いは、
コレクターを夢の底なし沼へ引きずり込む “魔法” のようなものである。


ゴドラ星人のスタンダードサイズ人形。
向かって左から、マルサン1期、2期、3期、そしてブルマァク。

・・・なんだけど、
実は、僕はそのバージョンが第何期か、という知識には明るくない。
言ってしまえば、興味がないのだ。
それが第何期生産分のバージョンだろうが、
型や色などの仕様が違えばそれぞれ味わいが異なり、どれもが甲乙つけ難い魅力を発する。
どれがいちばん好きか、どれがいちばん欲しいか、なんて答えられない。

ただの贅沢な物欲、と言われてしまえばそれまでだが、
僕にとっての “コレクションしたい” という気持ちは、
心の聖域から湧き上がってくる、清らかな“思い”であり、ストレートな感情である。

怪獣が好き。
ソフビが好き。
とにかく、味わいたい。
いつも見つめていたい。
ただそれだけ。それがすべて。
要は、
鑑賞したいのであって、
どっちが1期でどっちが2期で、どっちが珍しくて・・・、なんて、どうでもいい事なのだ。

“第何期か” とか “現存数が少ない” とかは、
骨董屋さんが
その人形に値段をつける時に必要な情報であり、
ソフビ怪獣人形そのものの魅力には直接関係しないものである。
もちろん、
その人形に関わる、自分の子供の頃の思い出とも、何ら結びつかない。
僕のコレクターとしての愛情とは、次元の違う話なのである。


それに、
一般に第1期と言われているものでも、実際はどうだったか怪しいものも多い。
個人の曖昧な記憶や憶測に基づく説がほとんどだ。
そんな事を知っていても、僕にとっては無意味であり、考えるだけ無駄なのである。
真実なんて誰にもわからない。
現に、このゴドラ星人だって、左端の方が2期でその隣が1期、という逆の説もあるのだ。

どちらが1期でどちらが2期だろうが、
両方とも魅力的だから、僕は両方とも好き。
ああでもない、こうでもない、と
生産時期を考える事は楽しい事かもしれないけれど、
それを断言するのはちょっと軽率だし、
ましてや、コレクターがそれを、
人形の評価として自分の好みよりも優先的に位置づけてしまっては、
何が好きでやってる趣味なのかも、わからなくなってしまう。

それより、
せっかくゴドラ星人の人形が何体もあるのなら、
それらひとつひとつを手に取りながら、
色の違いによってそれぞれ異なる印象や味わいを楽しみつつ、
ゴドラ星人の人形で遊んでた子供の頃の思い出に浸ってた方が、
ずっとずっと楽しいし、有意義だと思う。


そういえば、
ゴドラ星人が登場する『ウルトラセブン』第4話「マックス号応答せよ」で、
ダンはアンヌから、

 「これでどんな時でも大丈夫。アンヌがついてるわ」

って、お守りのペンダントをもらうのだが、
あれが子供の頃から羨ましくて羨ましくて仕方なかった。
なんたって、

 「アンヌがついてるわ」

ってセリフがいい。 ドキドキしてしまう。
当時の児童雑誌や怪獣図鑑の類の出版物に
よく載っていた有名な写真で、
近くにペガッサ星人が立ってる事に気づかず鏡の前で髪を梳くアンヌ隊員、ってヤツがあるけど、
あれは、
見事にアンヌ隊員の魅力を物語っていて、
子供の頃からお気に入りの1枚だった。
ポスターにして部屋に飾りたい、ってずっと思ってた。

アンヌ隊員ほど、
キュートで存在感のある女性隊員はいない。
ウルトラシリーズがどれだけ続こうが、彼女を超えるキャラクターはいっこうに現れない。

そもそもアンヌ隊員を演じた菱見百合子(現・ひし美ゆり子)さんは、
東宝に入社して女優になられる前から、準ミス東京に選ばれたりしてた美人なのだから、
綺麗で魅力的なのは当たり前なんだけど、
“アンヌ隊員”という役柄は彼女の魅力を120%引き出した、と言っても過言ではない。

いじわるっぽい口元から発せられる、
ややハスキーな声(酒焼けした声という噂も・・・(笑))は、
あのカッコいい隊員服をちょっと窮屈そうに着こなす魅惑的スタイルと同様、
明らかにエッチで男を誘うような性的魅力があるのだけれど、
ダンに恋心を抱いている健気な女性の設定と、
結ばれなかったけど美しく確かな愛、というロマンティックな恋物語が、
彼女を永遠のマドンナとして、
僕らの心に清く美しく生き続かせている。
色気と清純さがバランスよく滲み出ていて、実に素敵な女性なのである。

現在40代の男性なら、
特撮ファンに限らず、“アンヌ隊員”と聞けば誰もが甘酸っぱい郷愁を感じるだろう。
初恋の女性だ、と断言する人も少なくない。
それほど素敵で印象的なキャラクターなのだ。
それに、
ウルトラシリーズ随一の名場面と言われる、
『ウルトラセブン』の最終回のダンが自分の正体を告げるシーンで、アンヌ隊員は・・・、

あれ?
なんでアンヌ隊員の話してるンだろう。
ソフビの色違い、についてですよね。失敬、失敬。

そういうわけで(笑)、
「この色は何期か」ではなく、「この色の魅力は」って観点で
懐かしいソフビ怪獣人形と接したいのが、
僕の気持ちであり、
コレクターとしての方針でもあるのです。

生産時期・発売時期についての知識は、
あくまでも参考程度に止めておき、
自分の目で見て心で感じた事で評価しなければ、楽しくないし、無意味だ。

アンティークとはいえ、ソフビ怪獣人形というものは、
何百年も昔の骨董品ではなく、自分が子供の頃のものである。
しかもオモチャである。
その価値を決めるものさしは、
世間一般の評価や能書きではなくて、
それにまつわる思い出を持ってる自分自身の感性だろう。
第何期だろうが、
珍しかろうが珍しくなかろうが、
持ち主が愛して大切にしていれば、そのソフビ怪獣人形の価値は光り輝く。 宝物になる。
僕のコレクションの価値は僕が決めるのだ。



 マルサンのメタリノーム人形。
 向かって左側の人形の、
 フォンダンでコーティングした洋菓子のような
 頭部の白い塗装が好き。
 また、右側の人形も、
 成形色のオレンジ色がもたらすカラフルで明るい印象が、
 “金属人間”という実物の不気味なイメージを
 意図的に和らげていると思うので、
 当時の玩具業界独特の意識や配慮が感じられて興味深い。
 ちなみに、
 左側が1期で、右側が2期(もしくはブルマァク製(※))、
 とされている。

           ※ブルマァクソフビには、マルサンの金型を使ったものも多数あるが、
             その中には、ブルマァクの刻印が無く、
             マルサンソフビをそのままブルマァクソフビとして発売したものもあるようだ。
             このオレンジ色のメタリノーム人形をはじめ、
             まつ毛の無いチャメゴン人形や髭が前向きのエビラ人形などが
             おそらくそうではないかと言われているが、
             ほかにも、
             俗に “移行期” と呼ばれている、マルサンのロゴもブルマァクのロゴも
             入っていない人形(ひとまわり小さいキングジョー人形など)もあり、
             マルサン後期の発売とブルマァク発売の区別は、明確にはわからない。
             明確にわかるのは、
             いろんなバージョン違いがあって楽しい、という事だけである。



あの「クワァ〜」という頭の悪そうな鳴き声が
今にも聞こえてきそうなオコゼルゲ人形。
バンダイ製スタンダードサイズ。
向かって左側の人形は、
口の中が丁寧にくりぬかれており、
右側の人形はその手間が省かれている。
おそらく、
手間がかけてある左側の人形が1期で、
手間が省かれている右側の人形が2期、
ではないかと思うが、
塗装色の
レモンティーとアップルティーのような違いが
なんとも優雅な味わいで、両方とも魅力的。
今日のティータイムは、
どちらのオコゼルゲと過ごそうかな。
  マスダヤのゼロン人形。
  ゼロンは、
  スペクトルマンと初めて本格的格闘をした、
  言わば第2次怪獣ブームの到来を告げる
  記念すべき存在。その大役にふさわしく、
  破壊力に長けた正統派怪獣であった。
  そんな、
  実物のいかにも怪獣らしい力強いイメージが、
  太い尻尾と足の造形から明快に伝わってくる、
  スカッと気持ちの良い人形である。
  また、成形色も、明るく健全な印象で、
  オレンジ色の方は甘い果実、
  黄色の方は酸っぱい果実、
  と、それぞれ爽やかな雰囲気を醸し出しながら、
  オモチャとしての好感度を上げている。 




当時のブルマァクの技術の高さを物語るケンドロス人形。
前面に、弧を描くように吹きつけられた塗装の色が、
向かって左側の人形は銀で、右側はメタリックブルー。
コレクターの間でも軽視する人がいるレベルの
些細な違いではあるが、
見た目がそっくりだからといって、
どちらか片方だけでいい、なんて考えには
僕はならない。
双子の子供を持った親が、どちらか一人だけを愛する、
なんて事が出来ないのと同じ、だと思う。

  ブルマァク製メシエ星雲人の人形。
  顔面の部分の黄色の塗装に
  “吹きつけ”と“手塗り”の違いがあり、
  微妙な色違いのような印象を受ける。
  これも、さほど気にしない人の方が多いが、
  僕にとっては、
  松屋で豚めしを食べる時に
  “生たまご”をつけるか
  “温泉たまご”をつけるか、
  くらいの、重大な違いである(笑)。





      ポピーキングザウルスシリーズのバキシム人形。
      手の平のショッキングピンクも異次元の生物っぽくておしゃれだが、
      顔や尻尾等に塗装されたオレンジ色の、このバージョン違いがなんといっても素敵。
      向かって左端の濃厚なタイプは、天然果汁100%の本物のオレンジジュース、
      真ん中はちょっと薄いから、果汁が少な目で止渇感が心地良いオレンジジュース、
      右端のメタリックオレンジのタイプは、清涼感が爽快な炭酸入りオレンジジュース、
      といったイメージか。
      いや、見る者を心地良く酔わせてくれるこの味わいは、
      3体とも、口当たりのいいオレンジカクテル、といった方がピッタリかも。
      スクリュードライバーはレディーキラーだけど、
      ポピーのバキシム人形は、大人になった怪獣少年を酔わすコレクターキラーだ。




そういえば、或るコレクター仲間が、
自分のソフビ怪獣人形の棚を、幼い甥っ子に見せたら、

「虹みたいだね」

って言われた、って話を以前してくれた事がある。
色鮮やかに並んだソフビ怪獣人形を見て虹を連想する、なんて、
いかにも純粋な子供の感覚であり、素敵な話だなぁ、と感心した。
そこで、
改めて自分のコレクションを見渡してみて、気づいた。
昔のソフビ怪獣人形には、
虹とか夕焼けとか、自然の美しさに触れた時の感動や心のやすらぎがあるのだ。
ソフビ怪獣人形をぼんやり眺めていると、
なんだか幸せな気分になったり、心が落ち着いたりするのは、
そんなところにも理由があるのかもしれない。


 マルサンのドドンゴ人形。
 まるでペガサスが空へ飛び立つ瞬間のような、
 実に素晴らしい造形である。
 このしなやかな美しさは、
 例えるなら、
 アグレッシヴな躍動感の中に匂うような色香を持つ、
 安藤美姫さんの華麗なスケーティングのよう。
 つま先立ちした左前足の辺りなど、
 いきいきとしていて、感情豊かで、どことなくエッチで、
 まさに、銀盤のミキティの美しさを彷彿とさせる。
 ちなみに、この人形の塗装色は金色。
 塗料の成分が長い年月の中で酸化した事により、
 このような、いかにもアンティーク、といった趣の、
 味わい深い色様になっている。

 
 そして更に、そんなドドンゴ人形の色違い各種。
 向かって左から4体がマルサン製、後はブルマァク製。
 成形色や塗装色の違いで、こんなにも印象が異なる。
 それぞれが美しく、それぞれが愛しい。
 どれが何期かは知らないが、
 これらとは異なるカラーリングも
 まだまだ存在するようなので、
 感動は更に広がり、深まり、増えていく予定。
 でも、現時点で8色だから、虹より1色多いわけで、
 僕のドドンゴコレクションは
 すでに虹をも超えた美しさなのだ(笑)。 あぁ、幸せ。


美しい造形や美しい色を素直に味わい、
子供の頃を思い出して懐かしんだり、それによって現在の状況に改めて感謝したり、
時には未来を見つめたり・・・、
ソフビ怪獣人形のコレクターとそのコレクションの関係で、
いちばん大切な事はそういう事ではないだろうか。

この、美しくてカッコよくてちょっと色っぽいドドンゴ人形を見れば、
どの色がいちばん先に発売されたか、とか、
どの色がいちばん現存数が少ないか、とか、
そんな知識や興味は二の次でいい、という僕の気持ちが
コレクターでない人にも容易にわかっていただけると思う。

これからも僕は、
深く深くのめり込んでいくだろう。
ソフビ怪獣人形の色違いが生み出す夢の底なし沼の、鮮やかで雅やかな心地良い世界へ。


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