第38回 「Z−TON 〜ウルトラマンが敗れた日〜」 2007.3
ウルトラマンが怪獣に負ける、・・・そんなありえない事が、あの日起きた。
当時の子供たちは夢にも思っていなかった事だろう。
もちろん僕もその一人だ。
あれから40年の月日が流れ、
『ウルトラマン』以外にも数え切れないくらいのヒーロー番組が存在する今日では、
さほど驚くべき事でもないが、
主役のヒーローが敵に負ける、などという事態は、
当時の幼い心にはあまりに衝撃的で驚愕すべき出来事であった。大事件だった。
『ウルトラマン』の最終回を目撃した日は、常識が覆った日なのである。
我らがウルトラマンを倒したその恐るべき怪獣の名は、
御存知“ゼットン”(英語では“Z−TON”と表記するらしい)。
もう、ネーミングからして今までの怪獣とは違っていて、別格な感じである。
肩書きは宇宙恐竜。
だが、僕らが認識している古代の恐竜とは似ても似つかぬ不思議な姿で、
宇宙人のようでもあり、ロボットのようでもあり、
この怪獣を“恐竜”と呼ぶ事によって、
宇宙が僕らには想像もつかない未知なる空間である印象が、更に強くなった。
また、不気味で真っ黒なボディが“悪”をストレートに表現していて、
現れた瞬間に強敵だとわかるくらいの、恐ろしい雰囲気を持っていた。
ウルトラマンより強い、という設定に、そのデザインや造形が決して負けておらず、
最終回を飾るに相応しい、とってもカッコいい怪獣であった。
好きなウルトラマン怪獣は何かと聞かれて、当時の多くの子供は、
バルタン星人やレッドキング、あるいはゴモラあたりを挙げた。
「ゼットン」と真っ先に答える子供は、なかなかいなかった。
でも、ゼットンが好きじゃないわけではない。
自分はどの怪獣が好きかなぁ、と考える時に、
ゼットンはすでにその選択群の中にいなかった。
殿堂入りしていたのだ。
キムタクがもうベストジーニスト賞に選ばれないのと同じである。
ゼットンが好きなのは当たり前の事であり、わざわざ口に出して言う必要がなかったのだ。
子供は強い怪獣が好き。ウルトラマンを倒したのだから、これ以上のものはない。
前田日明さんが、
少年時代の“ゼットンを倒したい”という思いから、
プロレスラー・格闘家としての道を歩んできたのは有名な話だが、
その人の人生を決めてしまう、あるいは、変えてしまう、
それくらいのインパクトがゼットンにはあったわけである。
ゼットンは、『ウルトラマン』で育った世代にとって、
究極のスター怪獣であり、ある意味“憧れ”であった。
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子供の頃の、お祭りの時の写真。
僕が着ているのはゼットンのTシャツ。
記憶が正しければ、
エルムというメーカーの“怪獣シャツ”という商品だったと思う。
今見ても、色使いがなかなかお洒落でカッコいいデザインだと思う。
ほかにもいろんな怪獣があったが、
僕が買ってもらったのは、このゼットンとウルトラセブンだった。
ヒーロー・ウルトラセブンと同等のレベルで、僕はゼットンに憧れていたのである。
ところで、
僕が『ウルトラマン』のソフビ怪獣人形をコレクションしていく中で、
いちばん最後に手に入れたスタンダードサイズの人形は、実はゼットン。
ブルマァクのゼットン人形である。

別に最終回の怪獣だから最後にとっておいたわけでもないし、
ほかの怪獣人形と比べてなかなか出逢えなかったわけでもない。
どうにも買う気がしなかったのだ。
コレクションとしていつかは手に入れたい、とは思っていたが、
人形自体に、あまり魅力を感じなかった。
その原因はコレ。無神経に描かれた目ン玉。

おそらく何も考えず、なんとなくスペースがあったから描き込んでしまったのだろうが、
これだけで全て台無しである。
当時の玩具業界の常識ゆえの、愛嬌を持たすためのデフォルメだとしても、
これは間違いである。
ゼットン、という怪獣をまるで理解していない。
子供の夢や気持ちに応えよう、などという意識は微塵も無い。
その怪獣の魅力を表現するためのデフォルメであってほしいのに、
ウルトラマンよりも強い怪獣にこのアレンジはないだろう。ひど過ぎる。
アンティークTOYショップやフリーマケットなどでこの人形を見つけるたび、
買おうかなと手には取るものの、
この、まるで水中メガネをかけたオッサンが
海へ潜ってはみたものの息が苦しくてもがいているような、
どうにもマヌケでしまらない顔に、
毎回、怪獣少年としての僕の気持ちは踏みにじられた。
側面から見たフォルムの美しさや
“冷淡さ”を黒ではなく水色で味わう面白さなど、その魅力に気づいたのは、
恥ずかしながら、コレクターになってかなり月日が経ってからだった。
まぁ、軽率なデフォルメを頑なに許せぬほど、
“ウルトラマンより強い”というこの怪獣の形容には敬意を抱いていて、
その尊厳を守りたいという意志が胸の奥にしっかりと根付いていたのだろう。
それほど、子供の時に見た『ウルトラマン』の最終回は強烈だったのだ。
だが、目ン玉を勝手に描き込んでしまったダサい人形はスタンダードサイズのみで、
他のサイズのゼットン人形は、
実物の怪獣の着ぐるみがリアルに再現された、綺麗でカッコいいものばかりで、
ブルマァク“らしさ”がよく出ている。
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特大サイズ スマートなフォルムなので、 一見、実物とはイメージが異なるかと思いきや、 よく見ると、 体のラインは実物の特徴をよく捉えている。 それでいて、プロポーションをカッコよくアレンジ。 そしてこのカラーリング。 造形といい、色といい、アートを感じる。 あのゼットンをこう表現するかぁ〜、と思わず感心してしまう。 ただ、成形色のシャーベットグリーンは素敵な色だとは思うが、 僕はやはり“黒”、もしくはそれに近い暗く濃い色で 商品化して欲しかった。 細身なうえにこのお洒落なカラーリングでは、 ウルトラマンを倒した、という迫力と恐怖が 充分に伝わってこない気がするので。 |
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ミニサイズ すべてのサイズの中で、 最も着ぐるみに忠実な表現がなされた造形だと思う。 秤で重さを量ってみたら14グラムしかなかったが、 重量感を感じるたたずまいだ。 最も小さく最も軽い人形が、 最も力強い雰囲気を出したりするところが、 アンティークソフビのおもしろさのひとつでもある。 |
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ミドルサイズ これは『ウルトラマン』の最終回に 登場したゼットンではなく、 『帰ってきたウルトラマン』の最終回に 登場した2代目ゼットンの人形なので、番外として紹介する。 ずいぶんブサイクな体形の人形だが、 実物の着ぐるみの拙い出来を 馬鹿正直に再現してしまっただけで、 軽率なデフォルメがされているわけではない。 見てすぐ2代目だとわかる、リアルな造形である。 それにしても、 最終回と言えばゼットン、という発想で 『帰ってきたウルトラマン』の最終回にも登場してしまうほど、 ゼットンという怪獣の印象は強烈だったというわけである。 |
ゼットンの強さは異常である。
ウルトラマンに勝利したのも、激しい格闘の末ではなく、
まるで赤子の手を捻るかのように簡単に倒してしまった。
あのウルトラマンがまったく歯が立たなかったのである。
スペシウム光線を浴びせられても、痛くも痒くもない様子だったし、
八つ裂き光輪にいたっては、一瞬にして粉々に砕いてしまった。
もう、圧倒的に強いのである。
しかも、ギャーギャー吠えない。黙々と迫ってくるだけなのだ。実に恐い。
黒くて、強くて、恐ろしい、という究極の悪者怪獣である。
ウルトラマンが勝つ事が当たり前だと思っていた子供たちは、
このゼットンに敗れたウルトラマンを見て、初めて、
ウルトラマンと怪獣の戦いがプロレスごっこじゃなかった事を実感したのではないだろうか。
今までの怪獣との戦いにも、
ウルトラマンは簡単に勝利してきたわけではなく、
その都度、命をかけて、必死に戦って、ギリギリの所で勝利してきた事に改めて気づき、
作品の世界観に、リアリティと緊張感を強く感じたのではないだろうか。
だからこそ、
ウルトラマンがゾフィーに連れられ光の国へ帰るラストシーンの時に
多くの子供たちが自宅の窓を開けて空を眺めた、なんてエピソードが残っているのだと思う。
ゼットンに負けた事によって、ウルトラマンは、
テレビの子供番組という空想の世界に描かれた架空の存在ではなく、
僕らの心の宇宙を永遠に飛び続ける、実在するヒーローとなったのである。
