真水稔生の『ソフビ大好き!』


第187回 「ソフビ怪人散歩」  2019.8

 【出演】

 蜂(ハッチ)・・・蜂女(バンダイ製、全長約26センチ)

 ド(ダリ姐さん)・・・ドクダリアン(バンダイ製、全長約25センチ)

 ア(キメ子)・・・アリキメデス(バンダイ製、全長約27センチ) 


    「♪うちら陽気な怪人娘~
 ♪誰が言ったか知らないが~ 
 ♪女3人寄ったら~ かしましいとは愉快だね~」




     「・・・って、
  若い人は知らないわよね、こんな古い歌」
    「いいの、いいの、知ってる人だけが解かれば。
  そんな事より、
  ダリ姐さん、ついに、この日が来ましたわよ」 

「第140回「ソフビ怪獣散歩」第149回「ソフビ妖怪散歩」
  と来て、
  次は「ソフビ怪人散歩」だろうと
  期待して待つ事3年、
  ようやく私たちソフビ怪人の出番が来た、というわけね。
  嬉しいわ~」
  
    「しかも、今回は、
  御主人様が私たち女怪人だけを選んで下さったのよ。
  女子会よ、女子会。
  楽しくなりそうだわね」 
       
   

「ふふ。
  でも、怪人娘とか女子会とか言いながら、
  お1人だけ、
  “娘” でも “女子” でもない方が
  いらっしゃるような・・・(笑)」

「あら、あなた、失礼ね。
  私が200歳の老婆だからってバカにして・・・。
  心はいつまでも乙女よ。
  それに御覧なさい、この薄桃色の塗装がかかった腕。
  色っぽいでしょ?
  あなたたちより、ずっと “女” してるンだから、私」

    


「そういえば、
  御主人様もお気に入りでしたわね、ダリ姐さんのその腕のピンク。
  
   魅惑的で艶っぽい、

  とか、
  
   火照った人妻の風情だ、

  とかおっしゃって、
  この『ソフビ大好き!』でも、何度も賛美しておられますもの」

   

「あら、御主人様のお気に入りと言えば、なんたって私よ。
  
   ソフビ界一の美人だ、

  とか、
  
   高貴で艶やかな顔と、
   健気さや生活感が滲み出てる脚の造形の、
   そのギャップがたまらない、

  とか、いつも褒めてくれるもの」 

「そうねぇ、
  ハッチは、昔から御主人様の御寵愛を受けてきたものね。
  御主人様の自慢のコレクションとして、
  テレビ出演したり雑誌の特集に取り上げられたり・・・。
  羨ましいわ~」
  
「ふふ」
    「でも、御主人様はキメ子ちゃんの事も大好きなのよ」

「え?」
 
                  「そうよ。
  御主人様のもとへ来たのは、
  ダリ姐さんや私の方がキメ子よりも先だったから、
  事ある毎に、

   あとはアリキメデス、あとはアリキメデス・・・、
 
  って御主人様が呟くの、何度も聞かされたもの」

「そんなの、持ってない人形をただ欲しがってただけでしょ?
  べつに私でなくても・・・」

「いいえ。
  その頃、御主人様は、
  まだ、モグやトドやんなんかも持っていなかったけど、

   あとはモグラング・・・、あとはトドギラー・・・、
  
  とは、呟いていなかったもの。
  誰よりもまず、キメ子が欲しかったのよ、御主人様は」

「そうかしら?」 
    「そうよ。
  知ってのとおり御主人様は昔、サラリーマンだったンだけど、
  いつだったかしら、
  当時勤めてらっしゃった会社の社内報に
  “今年の目標・抱負” っていう企画があって、
  そのアンケートに、

   アリキメデスを手に入れること、

  って答えてたくらいよ」

「えぇ? 初耳です、そんな話
        (・・・ってか、どんな会社やねん!)」 
    「同僚の人たちは、
  御主人様がソフビコレクターである事は知ってたから、
  どうせまたそっち関係の話だろう、と
  黙って読み過ごしたみたいだけど、
  さすがに新人の女の子は、

   アリキメデスって何ですか?

  って聞いてきたそうで、
  御主人様は、
  よくぞ聞いてくれたとばかりに、
  目を輝かせてそれはそれは熱心に語った挙句、 

   その人形の目が、
   円らで、でぇら可愛いンだわ~
         (名古屋弁で “すごく可愛いンだよ~” の意)、

  なんて言って、
  キモチ悪い笑顔を見せたものだから、ドン引きされたらしくてよ」 
       
    「えぇーっ、そうなンですかぁ・・・?」

「おまけに、
  奥様がお小遣いの前借りを許してくれなかったから、
  どこどこのショップで売ってたそのアリキメデス人形を買い逃した、
  なんていう嘆きの愚痴までこぼされて、
  その女の子、
  困惑してたらしいわ」

「知らなかったわ~、私が御主人様にそんなに想われてたなんて・・・」


 
   

「だから、結局、
  私たち女怪人は、3人ともみんな、御主人様の “お気に入り” なのよ」

「感激だわ~。
  とってもハッピーな気分!」 
              「では、
  そんな、御主人様のお気に入りである私たち怪人娘3人の、
  ソフビ怪人散歩、早速始めましょう。
  ダリ姐さん、お願いします」 
       
       

    「はい。
  ここは、名古屋市港区にある、稲永(いなえ)公園。
  海に面したとっても大きな都市公園で、
  敷地内には、
  野球場やテニスコートや体育館など、スポーツ施設がたくさんあるのよ」
     
   
「特に、野球場は6つもあるのよ」

「6つ!? それは凄いわ~」

「その6つの野球場はどれも、
  御主人様が、
  キメ子はもちろん、私やダリ姐さんとも出会うずっと前から
  野球の試合をしてきた球場なの。
  今年で
  結成33周年を迎えた御主人様の草野球チーム・マミーズの、
  思い出がいっぱい詰まった場所なのよ」
 
    「その中のひとつであるこの球場で、
  なんと、
  今日、マミーズの試合があるの」 
    「まぁ!
  じゃあ、私たちがチアガールになって応援しましょうよ!」
    「いいけど、ダリ姐さんのチアガール姿は・・・」
 
    「おだまり!」

「ふふ。
  でも、2時プレイボールだから、
  まだだいぶ時間があるわ。
  今からこの公園の中をいろいろ散歩して、  
  最後に
  この球場へ戻ってきましょうよ」

「わぁ~、楽しみ!」 
    「・・・あ、そうそう、あの人道橋、知ってる?」

「まぁ、可愛い形!」

「“ゆりかもめ橋”、っていうのよ。
  向こう側は海なンだけど、
  御主人様は、
  チームが勝ったり
  自分が活躍出来たりした試合の後には、
  決まって、
  あの上で海を見ながら、独り、祝杯の缶ビールを飲むの。
  そういった意味でも、
  この公園は最高のロケーションなのよね」
 
    「へぇ~、そうなンだ~。
  ねぇねぇ、
  その景色、私も見てみたいわ」

「行ってみる?」

「うん!」   
       
                       
                     
                       
 
    「わぁ~、素敵ぃ~。
  ここで勝利の美酒を味わう御主人様の気持ち、
  解かるわ~」
    「その時の御主人様の頭の中には、
  いつも、
  岡村孝子さんの『そよ風の季節』が流れてるそうよ」

「へぇ~。詳しいわね、ハッチ・・・」 
 
    「付き合い、長いから・・・。ふふ。
  さぁ、行きましょう」 
    「あら? そういえば、ダリ姐さんは?」

「下で待ってらっしゃると思うわ。
  お歳がお歳なんで、
  ここまで上がってくるのは、ちょっと億劫だったンじゃない?」

「なんか、悪いことしちゃったかな」

「気にしなくていいわよ、そんなこと。
  元気にはしゃぐ私たちを、きっと微笑ましく思ってるわよ」
  
「孫を見るおばあちゃんの境地ね(笑)」 
    「ダリ姐さん、お待たせ」

「どう? 素敵な景色だった?」

「ええ、とっても」
       
 
 
 
    「・・・あら?
  あれは? あれも野球場?」

「あれはサッカー場よ」

「ふ~ん、サッカー場もあるンだぁ・・・。
  ホント、大きな公園なのね」
 
            「このサッカー場では、Jリーグの公式戦が行なわれた事もあるのよ」

「ふ~ん、本格的ね。
  ・・・って、
  ちょっとハッチぃ~、いつのまにそこまで飛んでいったの?
  いくら羽があるからって、飛ぶのはズルいわよ。
  “散歩” なのだから、歩かなきゃあ」

「ちゃんと歩いてきたわよぉ。
  第一、飛べないでしょ、この羽じゃあ。
  フニャフニャのビニール製なンだから・・・(笑)」


 
               
                 
               
                   
                                  「あ、ショッカーのアジト!」 
        「そんなわけないでしょ。
  もぉ~、キメ子、ったら・・・。
  この建物は、
  渡り鳥の飛来地として有名な藤前干潟を臨む、名古屋市野鳥観察館。  
  館内に設置されてるフィールドスコープで、
  干潟へ飛来する野鳥たちを、観察する事が出来るのよ」

 
                    「ふ~ん、そうなンだぁ・・・。
  あるのはスポーツ施設だけじゃないのね。
  素敵な公園だわ~」
 
    「隣には遊具もあるのね」

「昔は御主人様も、
  まだ小さかったお子さんたちと、
  試合の前や後に、ここでよく遊んでたのよ」

「野球場だけじゃないのね、思い出の場所は・・・」
       
                           
                           
                           
                           
    「それにしても暑いわね」

「大丈夫? ダリ姐さん・・・」
 
          「ええ、大丈夫・・・じゃ、な、い、かも・・・」
 
    「キャッ!」

「ダ、ダリ姐さんっ!」
       
       
    「大袈裟よぉ、2人して負んぶなんかしてくれなくても・・・」

「体育館のロビーで
  横になって休みましょう、ダリ姐さん。
  冷房が効いてるだろうから、きっとすぐに楽になりますわ」

「でも、ハッチ、なんか改修工事してるわよ」

「大丈夫、大丈夫。
  工事中でも平常どおり開館してるみたいだから。
  さっき、バレーボールする人たちが出入りしてたもの」  
       
    「ごめんね、迷惑かけて・・・」

「いいのよ、そんな事。
  それより気分はどう?」

「たいしたことないわ。心配しないで」

「急にバタッって倒れちゃうンだもん、
  びっくりしちゃった」

「マミーズの試合、もう始まってる時間よ。
  私のことはいいから、
  2人で御主人様の応援に行ってきて」

「でも・・・」

「少し休んで、後から私も行くから・・・」 
    「そうね。
  ダリ姐さんも心配だけど、御主人様の方がもっと心配だわ。
  なにしろ、今日は先発投手らしいから(笑)。
  行きましょ、キメ子」
  
「うん」 
                        「じゃあ、ダリ姐さん、後でね」
 
                           
    「本当に大丈夫かしら? ダリ姐さん・・・」


「だから、言ったのよね~。
  1人だけ、“娘” でも “女子” でもない方がいらっしゃる、って。
  高齢者は熱中症になりやすいのよぉ~」

「心配だわ~。
  熱中症だったら、命の危険だってあるでしょ?」

「大丈夫よ。ショッカー怪人は不死身だから」

「ダメよぉ~。
  ハッチと違って、
  ダリ姐さんや私は、一度死ぬと、
  再生される時には男になっちゃうンだから・・・」
   
「劇場作品『仮面ライダー対ショッカー』や『仮面ライダーⅤ3』第28話で
  再生怪人として登場した時の事ね。

   あれは酷いわよね~。
   番組スタッフがその怪人の性別まで把握していない、って事でしょ?
   “愛“ が無いのよねぇ、キャラクターに対しても、作品に対しても。

  だいたい、
  “200年も生きてる人喰い花” なんて、
  女性だからこそ説得力があるのに、
  性別が変わっちゃったら、魅力半減じゃない。
  ましてや、
  “女王蟻の怪人” を男性の素体で作るなんて、もうムチャクチャだわ。
  意味、解かンない。 
  失礼よね、初代の怪人にも、観ている子供たちにも・・・」
    「哀しい思い出だわ」

「けど、心配は無用よ。
  ダリ姐さんは実物のドクダリアンと違って、ソフビ人形だから。
  死んだりなんかしないもの、永久に。
  だから、
  性別が変わって再生、なんて事態も、絶対に起こらないの」

「あ、そっか。そういえば、そうね。
  ソフビ人形だから、
  この暑さで素材が少し柔らかくなっちゃって、立ってられなくなっただけよね。
  そう、死んだりなんかしない」 
    「という事は、つまり・・・?」

「ダリ姐さんも私も、永遠に女性でいられる!」

「そう。そういう事」

「あぁ、よかった~」

「ふふ」 
    「・・・あら?
  向こうから歩いてくるの、御主人様じゃない?」

「チームの人たちもいるわねぇ。
  もう試合終わっちゃったのかしら?」

「早くない?
  2時プレイボールなンでしょ?
  まだ3時前よ。1時間も経ってないわ」 
    「負けちゃったのね、コールドで・・・」  
    「あら、ダリ姐さん、もう大丈夫ですの?」

「ごめんなさいね、心配かけて。
  涼しくてとっても気持ちの良いところだったから、
  すぐに元気になれたわ」

「よかった~」

「さすが、200年も生きてる生命力は伊達じゃないわね」 
    「でも、
  私じゃなくて御主人様の方が、大丈夫じゃないみたい。
  あの顔は、
  相手打線にメッタ打ち喰らった顔よ。
  御主人様のせいで負けちゃったのよ、きっと。
  ずいぶん、落ち込んでるわ」  
   
     
    「あ~あ、
  じゃあ、今日は、
  御主人様、
  ゆりかもめ橋の上であの景色を見ながらのビール、飲めないのね。
  可哀想だわ~」

 
    「しょうがないわねぇ~、もぉ~。
  早く帰って私たちで慰めてあげましょ。
  御主人様の傷ついた心を癒すのが、私たちの役目でもあるから」 
    「コレクションルームで
  ロッキングチェアに揺られながら寛ぐ御主人様にそっと寄り添い、
  ジッと見つめられたり、やさしく撫でられたり・・・」
  
「・・・なんか、
  試合のたびに、私たち、それ、してない?」

「御主人様が野球の試合でしくじってヘコむのは、
  しょっちゅうだからね。ふふ」
 
    「どうして御主人様は、
  悔しい思いをしてばっかりの、そんな不得意な野球を、
  ずっと続けてるのかしら?
  
   子供の頃から野球に関してはろくな思い出がない、

  っておっしゃってるくらいなのに・・・」 
              「たとえ不得意でろくな思い出がなくても、
  結局、やっぱり、“野球が好き” って事なンじゃない?
  自分の好きな事は、
  誰に否定されても、どんなにバカにされても続ける、
  意地っ張りな性格なのよ」 
    「でも、こないだ、
  それほど好きな野球より、私たちソフビ人形の方がもっと好きだ、
  っておっしゃってたわよ」

「まぁ、そうなの? 光栄だわね」 
    「そうなのよ。

   女や野球は裏切るけど、ソフビは僕を裏切らない、
  
  ですって」


「出た、名言!」

「名言なの? それ・・・」
 
                             
「キャーハッハッハ!」

 
       
       
       
    「・・・というわけで」
 
       
       
   
「♪これでおしまい怪人娘~」
 
   
「♪またの会う日を楽しみに~」
 
                   
「それでは、みなさま・・・」
  
 
「♪ご~き~げ~ん~よ~~う」




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