真水稔生の『ソフビ大好き!』


第123回 「ギロン人はお好み焼きの匂い」  2014.4

先日、
或る後輩から久々に連絡があり、
近くの居酒屋へ飲みに行ったのですが、
何を食べようかとメニューを広げたら、
消費税が8%になった事による値段の修正跡が目に留まり、
思わず溜め息が出てしまいました。

ビールも酎ハイも、
ねぎまも枝豆も、どて煮もホッケも手羽先も、
全部、
消費税8%の値段。

わかっていた事とは言え、
実感する消費税引き上げに
今更ながら怒りが込み上げてきて、
腹立たしい気持ちで “飲み” をスタートさせてしまいました。


 「なんで “今” なンだて!
    所得が上がっとらんのに増税なんかして、
       景気が回復するわけないがや、 アホか!」

 「増税分は本当に
    社会保障に使われるのか? 信用出来ん!」

などと
僕が吐き出す不平不満に、同調の相槌を打つ後輩。
でも、
しばらくすると、
その荒んだ雰囲気を洗い清めようとするかのように、

 「ところで真水さん、
    こないだ、エースとタロウの事、書いてましたよね?」

と唐突に話題を変えてきました。

なんでも、
昨年11月の『ソフビ大好き!』(第118回「力が欲しいと願う時」)を
読んでくれたそうで、
エースやタロウが大好きだった子供の頃の夢が復活した、
との事。

 「実は、真水さんの “ウルトラトーク” が
      無性に聞きたくなったので、電話したンですよォ」

という。

 「嬉しい事、言ってくれるがね〜」

と喜んではみたものの、
なんか、

“ウルトラマンや怪獣の話をさせておけば、この人は上機嫌”

って感じで
体良くなだめすかされている気がしないでもなかったのですが、
愚痴り続ける僕を
悪酔いさせまいと気遣ってくれたのだろうし、
少なくとも、
消費税引き上げを嘆くよりは
ウルトラマンや怪獣の話をした方が楽しい酒になるはずなので、
あえて、
体良くなだめすかされてやる事にしました(笑)。


運ばれてくる料理をビールで喉に流し込みながら、
Q、マン、セブンに始まり、
帰りマン、エース、タロウ、レオ・・・、と
順を追って色々話しましたが、
エースとタロウがいちばん好きだったというその後輩が、

 「兄弟がゲスト出演する回は、やっぱ燃えましたね」

と言ったので、
そのリクエストに応えるべく記憶と知識を振り絞り、
ピンチに陥ったエースやタロウを
ウルトラ兄弟たちが助けにやってくるいくつかのエピソードについては
特に一生懸命語りました(我ながら健気(笑))。

そんな中、
ゾフィーが地球上で初めて闘った回である、
『ウルトラマンA』第5話「大蟻超獣 対 ウルトラ兄弟」に話が及んだ際、
僕はどうしても
お好み焼きが食べたくなってしまい、
最後の 〆(しめ)は、
ラーメンでもお茶漬けでもなくお好み焼き、という事になりました。


なんでお好み焼きが食べたくなったのかというと、
その『ウルトラマンA』第5話「大蟻超獣 対 ウルトラ兄弟」には、
ギロン人” という、
異次元人ヤプールの分身が登場するのですが、
僕には
『ウルトラマンA』放映時(小学2年の時)、
母親と近所の駄菓子屋でお好み焼きを食べた際に
そのギロン人のミドルソフビを買ってもらった、という思い出があるからなのです。

      ←これ。
  ブルマァク製 ミドルサイズ、全長約13センチ。

そこの駄菓子屋へは
ほとんど毎日のように通い、
駄菓子や駄玩具、ライダースナックなどを買って遊んでいたのですが、
店の片隅にある鉄板テーブルで、
よく、学生服を着たお兄さんたちがお好み焼きを食べていました。
そんな時は、
ソースのいい匂いが店内にたちこめて、
めちゃくちゃお好み焼きが食べたくなるのですが、
小学校低学年の僕にはそんなお金は無いので、
ヘラで美味しそうにお好み焼きを食べてるお兄さんたちを、
ちらちら横目で見ながら
とても羨ましく思ったものです。

ところが或る日、
何かの用事の帰りで
夕方に母親と二人でその駄菓子屋の前をたまたま通りかかった際、
「ここでお好み焼きが食べたい」と頼んだら
母親からOKが出て、
大喜びする事態となりました(ホント、嬉しかったなぁ、あの時)。 

 学生服のお兄さんたちがいつも食べているアレを、ついに僕も食べられる!

と、
興奮気味なテンションで店内へ入ると、
店のおじさんが
異常なまでのニコニコ顔で迎えてくれました。

40代くらいの
おじさんとおばさんが夫婦で経営していたその駄菓子屋は、
主に、
おじさんがお菓子やオモチャを、おばさんがお好み焼きを、
それぞれ担当していたのですが、
おじさんは、
お菓子をひとつ買うか買わないかで
店の中や店の前で半日遊んでいる子供たちを鬱陶しがり、
いつも僕を邪険に扱っていたので、
そのわざとらしい変貌ぶりには、違和感を覚えました。

 親と一緒だと、こんなにコロッと態度を変えるンだぁ・・・、と

おじさんの所作に軽侮の感情を抱いた僕でしたが、
大人なんてそんなモンなのだろう、と自分に言い聞かせ、許してあげました(笑)。
って言うか、
お好み焼きに集中したかったので、それ以外の事はどーでもよかったのです。

おじさんなんか放っておいて、
僕は、
目の前でお好み焼きを焼いてるおばさんの手先とその工程を
ジッと見つめていました。

 「そんなジーッと見られると、緊張しちゃうがね〜」

などと言って笑い、
母親と適当に雑談しながらも手際よく作業を進めていくおばさんに、
僕は “プロフェッショナル” を感じ(笑)、
おじさんの安っぽい接客とは正反対の印象を持ちました。

やがて焼き上がり、
学生服のお兄さんがいつもやっているようにヘラを使って食べたそのお好み焼きは、
念願が叶った嬉しさや
おばさんの鮮やかな仕事ぶりに感服していた事もあいまって、
尋常じゃないくらい美味しく感じられました。
食べている最中に
えらの辺りが痙攣したのを憶えています。
ほっぺたが落ちる、とはこういう事か、って思いました。
月並みな言い方ですが、
あの時のお好み焼きの味は、今も忘れられません。


・・・で、
そんな大満足の中、帰ろうとしかけた時の事です。
店内にいた3人の小学生
(知らない顔だったから、たぶん学区が違う子たち)が、
駄菓子や駄玩具と一緒に売られていたショッカー怪人のミニソフビを
それぞれ1体ずつ、嬉しそうに騒ぎながら買っていて、
その様子を何気なく見ていたら、
母親が、

 「あんたも欲しいの?」

と聞いてきました。
僕は単に、

 あぁ、ミニ怪人買うンだぁ、

と思って見ていただけなのですが、
母親からは羨ましそうな顔に見えて我が子が不憫に思われたのでしょうか、
予想だにしない大チャンスの到来でした(笑)。

その時に売り場にあった怪人は
サラセニアンとか蝙蝠男とかピラザウルスとか、全部持っているヤツだったので、

 くっそ〜、ツイてないなぁ・・・、

って一瞬思ったのですが、
せっかく母親が “買ってあげるモード” になっているのに、
みすみすその機会を逃すわけにはいきません。
僕は、咄嗟に、
ショッカー怪人のミニソフビと一緒に並んでいたギロン人のミドルソフビを
手に取り、それを買ってもらう事にしたのです。

憧れのお好み焼きを食べる事が出来たうえに
更にソフビまで買ってもらえて、信じられないような幸運でした。

第112回「素敵なオモチャ 〜ソフビ怪獣人形は魔女先生の魔法〜」の中でも述べましたが、
僕が小学校に上がってからは、
母親はソフビを “もう卒業しなさい” 的な意味合いで買ってくれなくなりましたので、
たぶん、
その奇跡の(笑)ギロン人人形が、
僕の人生で母親に買ってもらった最後のソフビではないか、と思います。

    今でも、
コレクションケースからこの人形を取り出し見つめると、
その時の
母親の顔や声が思い出され、
なんとも切なく甘いノスタルジックな感情が湧いてくるのと同時に、
駄菓子屋の
あの狭い店内いっぱいにたちこめた、お好み焼きのソースの匂いが甦ってきて、
大量の唾液が溢れ出てきます(笑)。

                あぁ、またお好み焼きが食べたくなってきた。


そういえば、
もう、20年以上昔の話ですが、
『ウルトラマンUSA』というアメリカのアニメ番組が日本で劇場公開された際、
当時付き合っていた彼女と観に行ったら、
その、
『ウルトラマンA』第5話「大蟻超獣 対 ウルトラ兄弟」も同時上映されていて、
その時も僕は、
観終わった際にお好み焼きが食べたくなりました。
どうやら僕は、
ギロン人を見ると、条件反射でお好み焼きが食べたくなるようです(笑)。
“パブロフの犬”状態、ですな。

ただ、その時は、
お好み焼き屋へ行こうとしたら、
なんと、
その彼女がお好み焼きを嫌いで、「イヤだ」と断られてしまいました。

お腹も空いていたし、
この世にお好み焼きが嫌いな人がいる事にも驚いたので、

 「なんで “好き” って字が名前に入っとる食べ物が “嫌い” なんだてぇ〜!」

と怒ってしまいましたが(笑)、
今考えると、
デートでウルトラマンの映画に付き合ってくれるだけでも、いい彼女でしたね(苦笑)。


・・・ん? 何の話だったっけ?
あ、そうだ、そうだ、
ギロン人のソフビね、ギロン人のソフビ。

子供の時に持ってたのは
そのブルマァクのミドルサイズだけですが、
スタンダードサイズや、
あと、
マルサン(一度倒産後、事業を再開したマルサン)からも、
ギロン人のソフビは発売されていました。

         
      ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約27センチ。 


       






マルサン製 全長約14センチ。


ちなみに、
ギロン人が操る大蟻超獣アリブンタも、
同じくブルマァクとマルサンから、下記のような種類のソフビ人形が発売されていました。

   
























ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約18センチ。
     


          ブルマァク製 ミニサイズ、
←全長約10センチ
    全長約12センチ→
 


   











マルサン製、全長約14センチ。 


月日が流れ、時代が平成になってからは、
バンダイから、
アリブンタの方だけ、
下記のようなソフビが発売されております。

       
    バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約16センチ。 


   







バンダイ製 プレイヒーロー ウルトラマン対決セット(食玩)、
全長約10センチ。


   

ウルトラ怪獣シリーズでも食玩でもどちらでも構わないので、
バンダイには、ギロン人のソフビも早く発売してもらいたいものです。
僕らコレクターのためではなく、
ソフビ怪獣で遊ぶ子供たちのために。

足りないものは子供の無限大の空想力で補う、とは言っても、
ペアの怪獣が
そろって立体化されているのと
されていないのでは、
ソフビバトルで夢見る際の充実度が全然違ってきますからね。
これは、
怪獣ブームの中をソフビ怪獣で遊んで育った僕らの世代が
実体験から証言出来る “需要” です。

今とは、
時代も違うし、
怪獣やソフビ玩具に対する温度差も違うでしょうが、
ギロン人とアリブンタが
ちゃんと両方ともソフビ人形化されていた僕らの子供の頃は
幸せだったと思います。

ただ、
同じメーカーの同じスタンダードサイズでありながら、
両者の大きさが
このように
とんでもなく違ってはいましたが・・・。

共演怪獣を同じスタンダードサイズで商品化しながら
大きさを揃える事を一切気にしていない、この大胆なまでの無神経さ(笑)、

「さすが、大味な社風のブルマァク!」

と唸らずにはいられません。
アリブンタしかソフビ化してくれていない現在のバンダイと、どちらが不親切かな?

・・・あ、でも、
スタンダード以外のサイズで
こんなふうにブルマァクとマルサンを駆使すれば劇中の再現が可能でしたから、
やっぱり昔の方がいい時代だったな。



・・・まぁ、
そんなわけで、
聞き上手な後輩におだてられ、
夢見る頃の思い出話からマニアックなソフビの話まで気持ちよく語り、
楽しいお酒を飲む事が出来た僕でしたが、
会計の際、伝票を見て、
すっかり忘れていた消費税8%の不満と怒りが再発。


結局、腹立たしい気持ちで “飲み” を終えてしまいましたが、

 「でも真水さん、
  8%で怒ってたら、身がもちませんよ。 
  来年の秋には10%に、また上がるンですから」

と、最後まで後輩になだめすかされる始末でした(苦笑)。


・・・でも、確かになぁ。
“10%に引き上げ” は、あくまでも予定であって、

「経済状況などを勘案して適切に判断する」

って安倍首相は言ってますけど、
こんなデフレの中、国民を無視して8%に上げちゃうンですから、
結局は官僚の言いなり。
消費税10%は決定しているも同然ですよね。

 本当にアベノミクスはうまくいくのでしょうか?


・・・と、
日本経済の先行きを案じつつ、今回はこのへんで。
今から、
また、お好み焼きを食べに行こうと思います。
消費税を8%も取られるのは痛いけど、
頑張って少しずつでもお金を使わないと、いつまでたっても景気はよくならないですから。

・・・って、
ただ無性にお好み焼きが食べたいだけなンですけどね(笑)。
もう、さっきから限界なのです。
ギロン人のせいで、
お好み焼きが食べたくて食べたくて仕方ありません。

肉玉、イカ玉、もちチーズ、豚キムチ、モダン焼き・・・、
今日は何を食べようかなぁ・・・。

あ、そうだ。
こないだの後輩を、今度は僕が誘ってやろう。

違う意味で「もうお腹いっぱいです」って断られるかもしれないけど・・・(笑)。



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