真水稔生の『ソフビ大好き!』



第118回 「力が欲しいと願う時」  2013.11

先月のはじめ、
我が地元球団・中日ドラゴンズは、
今季限りで退任する高木守道監督に替わり、
来季から
谷繁元信捕手が選手と兼任で監督に就任、
更には、
前監督の落合博満氏が
球団初のGM(ゼネラルマネージャー)に就任する事を発表しました。

気に入らないですねぇ、僕は。
・・・いえいえ、
谷繁監督や落合GMが気に入らないのではありません。
第63回「今日もマグマは空を飛ぶ」
第95回「オレ竜・強竜・黄金竜」の中でも述べさせていただいたように、
僕は落合さんのファンだし、
プロの野球人として落合さんを心から尊敬しておりますので、
落合さんがどんな形であれドラゴンズに復帰される事は、大変喜ばしい事だと思っています。

気に入らないのは、球団の姿勢です。
いったい、
どの面下げて、落合さんに頼みに行ったのでしょう?

御存知のとおり、
落合さんは、
平成16年から一昨年の平成23年まで8年間、
中日ドラゴンズの指揮を執り、
全てのシーズンでAクラス入りし、
優勝4回、日本一1回、という素晴らしい成績を残した名将です。
そんな優れた人物を、
組織の中の内ゲバだか何だか知りませんが、
訳の解らない理由で突然切り捨て、
高木新監督を強引に誕生させたのは、つい2年前の事です。

毎年チームを優勝争いに参加させている監督を、
優勝(それも球団史上初の連覇)したシーズンいっぱいで辞めさせるなんて、
常識では考えられない事でした。
あの時、
ドラゴンズを応援するファンの中で、
それを肯定・納得した人は1人としていません。
だけど、
けれどそれでも、
ドラゴンズを信じて前向きに考え、みんな一生懸命応援してきたのです。
だってドラゴンズファンなのですから。
それなのに・・・。
それなのに、です。

何だったのでしょう? この2年間は。

高木監督は、
いろいろ非難されていますが、
ファンが喜ぶような面白い野球をやる(やろうとする)、魅力的な監督です。
昨年は優勝してもおかしくない数字でリーグ2位だったのだし、
今年のたった1シーズンBクラスだった(それも故障者続出によるもの)というだけで
来年以降は契約しないなんて、あまりに浅はかです。
負けゲームの観客席で、
高木監督を無能呼ばわりして罵り、
クビだの、辞めろだの、とヤジっていた酔っ払いと、
たいして思考が変わらないじゃないですか。

結局、球団は、
落合博満という野球人にも
高木守道という野球人にも
なんらリスペクトしていなかった、って事ですよね。
哀しくなります。

名将・落合博満を
無理矢理に切ってまで選んだ監督なら、
最後まで自分たちの判断・主張を貫き、
高木監督の手腕をとことん信じろよ、と言いたいです。

たった2年で高木監督に見切りをつけ、
ついこの間お払い箱にしたばかりの落合さんに
手の平返して泣きつく球団の神経は、
僕には理解出来ません。

無責任、と言うか、
恥知らず、と言うか、
情けないです、ファンとして。

節義を守らないこんな軽薄な球団では、
もし、来季もBクラスのままなら、
すぐまた落合GMを切って新しい体制に変えるような気もして、
信用出来ません。

球団だって商売だから、
勝ち負けや野球の中身だけを考えて運営していくわけにはいかない事は解ります。
観客動員数が減れば放ってはおけないでしょうし、
話題性も必要でしょう。
けれど、
だからといってこれじゃあ、
いくらなんでも薄っぺらすぎますよ、やる事が。

ファンの思いも
落合監督の実績も
一切無視して勝手に監督変えといて、
たった2年で

 「やっぱり落合さんの方がいいンで、元に戻します」

と言われても、
なんだかバカにされているようで、僕は素直に喜ぶ気にはなれないのです。

 なんでもいいから
 高木監督が辞めてくれさえすればいい、
 落合さんが帰ってくるなら尚いい、

なんて人も多いようですが、
そんな単純な問題じゃないと思いますけどねぇ、僕は。

それに、
僕の周りでは、
アンチ落合だった人まで落合さんの復帰に賛成しているので、
余計にシラけます。
ドサクサにまぎれて寝返ってきた軽佻浮薄な似非プロ野球ファンと、
同じ意見を言いたくないのです。

そういえば、
落合さんが監督だった頃、

 「勝つ事だけがファンサービスではない」

などと、
もっともらしい事を言って
落合監督の “勝ちにこだわる野球” に難癖をつけていたあの人たちは、
いったいどこへ行ったのでしょう?

ドラゴンズファンでありながら
ドラゴンズがべつに勝たなくてもいい、という奇怪な意見を持つ、
あの素っ頓狂な人たちからすれば、
Bクラスだろうが、全球団から負け越そうが、
全然構わないわけですから、
今シーズンのような無様な成績でも、とくに不満は無いはず。
わざわざ監督を変えてチームの立て直しを図り、
毎年優勝争いする強いドラゴンズに戻す必要はありません。
しかも、
高木監督は、
“ファンと共に・・・” をスローガンに掲げ、
勝つ事以外のファンサービスにも熱心に取り組み、
キャンプ中、少しでも時間があれば球場の外でサイン会を開いてくれたり、
本当は寡黙な人なのに、
インタビューでは頑張ってウイットに富んだ回答をいっぱいしてくれたりしました。
何より、
球場でヤジを飛ばした観客に逆上して言い返してくれる、なんて、
落合さんじゃあ、絶対やってくれないファンサービスです。

そう考えると、
高木監督退任を惜しむ声や
落合GM就任を嘆く声が、もっと聞かれてもいいはずなンですが・・・。
不思議ですねぇ。


・・・なんか、
さっきからイヤミったらしいですか? 僕(笑)。

スミマセン。
でも、イヤミのひとつも言いたくなるのです。
だって腹が立つじゃないですか。

もし僕が落合さんの立場だったら、絶対断りますけどね。

 「フザけるな、バカ!」

って言って。
期待に応えて余りある結果を出し続けていた自分を
否定した球団ですよ、言い寄ってきた相手は。
いくら首謀者である社長ら幹部を更迭したからといって、許せません。

人が好すぎます、落合さんは。
・・・まぁ、
ドラゴンズファンにとってはありがたい事ですけど。


ところで、
ドラゴンズのこの節操の無い監督人事、何かの記憶に似てるなぁ・・・、と
ずっと気になっていたのですが、
ようやく思い出せました。
それは、
子供の頃の、
『ウルトラマンA』からその後番組『ウルトラマンタロウ』にかけての記憶です。



まず、
『ウルトラマンA』という番組についてですが、
作品の特徴として、
下記の3つがありました。

 ・北斗星司と南夕子の男女合体変身

 ・異次元人ヤプール、という敵キャラクターのレギュラー化

 ・そのヤプールが毎回地球に送り込んでくる形で登場するのは、
  怪獣ではなく超獣(地球上の生物と宇宙怪獣を融合させた生物)で、
  怪獣よりも強い、怪獣を超えている、という存在。

当時、僕は、


 あぁ、こうやって新しいウルトラマンを描くのかぁ・・・、と


制作側の意図を小学2年生という子供ながらに理解し、

それなりの興味を持って、毎週ブラウン管の前に座っていました。
でも、
実はそれほど心惹かれるものではなかった、というのが本音です。

というのも、
男女合体変身は
斬新ではあるけれども、男の単独変身の方がカッコいいと感じていたし、
敵キャラクターのレギュラー化は
『仮面ライダー』におけるショッカーの存在の模倣である事に気づいていたし、
超獣だって、
別に怪獣でいいじゃん、ゴモラとかエレキングとかの方が断然カッコいいンだから・・・、
なんて思っていたからです。

そしてそれは、

僕に限らず多くのチビっ子視聴者が抱いていた思いで、
制作現場のスタッフも
そんなお茶の間の反応を感じ取ったのか、

 南夕子は月の人だった、
 という事にして地球を去らせ、
 北斗星司が1人でエースに変身出来るように変更、

 ヤプールはエースに倒され死滅して降板、

 超獣も、ただ “超獣” と呼ぶだけで、
 従来の怪獣と何ら変わらぬ描き方に定着、

と、途中から作品の独自性を全部取っ払ってしまいました。


ただ、

それほど心惹かれていたわけではないとはいえ、
“男女合体変身”、“敵のレギュラー化”、“超獣” 、
の3つが
番組の新機軸である事は子供心に解っていたわけですから、
あっさりそれらを捨ててしまう制作側の
芯の無さみたいなものには、ガッカリしました。

北斗が1人で変身、

ヤプールもいなければ、
怪獣よりも凄いとは特に思えない超獣、
となれば、

 『ウルトラマンA』って、いったい何だったのか?


って事になってしまうからです。

僕は年齢的な問題で『ウルトラマンタロウ』でウルトラシリーズから離れた、と

これまでにも何度か述べていますが、
新しい試みがこのように簡単に潰れていった『ウルトラマンA』の後半くらいから、
すでに熱が冷めていたのかもしれません。

そして、

新時代の怪獣であったはずの “超獣” を円谷プロはたった1年で見限り、
後番組の『ウルトラマンタロウ』では、
ウルトラ兄弟が闘う相手を
あっさり “怪獣” に戻してしまうのです。

戻すといっても、

超獣は、
怪獣よりも強い、怪獣を超えている、という設定だったわけですから、
簡単に出来る事ではありません。
そこで円谷プロはどうしたかというと、 
超獣よりも強い、という怪獣を第1話で登場させました。
簡単に出来ました(笑)。

相手が子供だと思って馬鹿にしてるなぁ・・・、って感じたものです。


この御都合主義のような展開が、

今回のドラゴンズの監督人事と似ているように思うのです。

『ウルトラマンA』後半の、
新機軸がすべて企画倒れかのごとく次々に頓挫していった様は、
まさに、
ファンの支持を得ず空回りしていた今季のドラゴンズのよう。

高木監督のこの2年間が無駄で無意味だったように、

“超獣” という設定やネーミングは、
一般に浸透する事なく、虚しく封印されました。 
そして、
恥も外聞もなく再び落合さんに頭を下げに行った球団の浅薄さは、
やっぱり “怪獣” に戻そう、
というのと同じ種類の発想だし、
“監督” ではなく “GM” としているのも、

 “怪獣よりも強い超獣” よりも強い怪獣、


という設定に近いものがあり、
単なる言い訳のようにしか、現段階では思えません。


あんまり悪く言うと好きな人に悪いですが、

これが、
その言い訳、アストロモンスです。

       
     ブルマァク製、全長約10センチ。

    ポピー製 キングザウルスシリーズ、
全長約16センチ。

         
         
     バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約16センチ。


      バンダイ製、全長約10センチ。 



“怪獣よりも強い超獣” よりも強い怪獣、である事を

アピールしなければならない、
つまり、
言い訳しなければいけない、というその宿命ゆえ、
このアストロモンス、
どうにも無理矢理な印象の、違和感のある怪獣でした。

まず、
アーストロンやブラックキングのような本格派怪獣のオーソドックスな容姿をベースに、
グドンみたくムチ状になった腕、
ベムスターみたく第二の口があるお腹、と
異端な強敵怪獣の特長をも、あれもこれもと取り入れた、デザインの安易なアイディアに哀感。

             


『帰ってきたウルトラマン』に登場した人気怪獣、

つまり、
超獣が誕生する以前の番組の人気怪獣の要素を、
言ってみれば “イイとこ取り” して
ゴリ押しで持たせた “強敵感” が、
不自然でわざとらしいものにしか思えなかったのです。
しかも、
飛行形態に変形するわけでも
ジェット噴射したりするわけでもないのに、
翼も飛膜も無いこの姿でそのまま空も飛べるというのですから、
リアリティがまったく感じられませんでした。

『ウルトラQ』からウルトラシリーズを観てきた生意気盛りな小学3年生には、

ちょっと感情移入しづらい怪獣だったのです。

     今見ると、なかなか魅力的な造形の怪獣なンですが・・・(苦笑)。
   

また、
そんな、姿形や能力の設定だけでなく、
演出においても、
アスロトモンスが超獣よりも強い怪獣である事を印象付けるため、
強引なシーンが用意されていました。
超獣オイルドリンカーを、
怪獣であるアストロモンスが、
腹にある花弁(第2の口)から一呑みにしてしまい、
超獣と怪獣の、その新たな力関係を、
派手に見せつけるのです。

『ウルトラマンA』や『ウルトラマンタロウ』から
ウルトラシリーズを見始めた当時の幼児には、
わかりやすくて、かつ、強烈なインパクトのあるシーンだったかもしれませんが、
僕は、
単純すぎる展開の面白味の無さと、
見捨てられてどーでもいい扱いをされる超獣の哀しさを感じて、
全然熱くなれませんでした。

    オイルドリンカー
ブルマァク製、全長約10センチ。

アストロモンスを強く見せるためだけの哀しい存在。
石油が好物であるがゆえのネーミングも
なんだか雑で、愛が感じられません。
『ウルトラマンA』が始まった頃の超獣は、
バキシムだとかドラゴリーだとかブロッケンだとか、
みんなカッコいい名前が付けられていたのになぁ・・・。
       
   

         ところで、
     何をもって
     あれは超獣、これは怪獣、と見分けるのかというと、
     それは、
     円谷プロが、
     超獣だと言えば超獣だし、
     怪獣だと言えば怪獣なのであります(笑)。 
     
             


そして更に、
続く第2話と第3話の前後編では、
そんなアストロモンスよりも感情移入しづらい怪獣が登場します。
ライブキングです。

         
     ブルマァク製、全長約10センチ。 


   

ポピー製 キングザウルスシリーズ、
全長約16センチ。


ライブキング、などというシャープでカッコいい名前で、
しかも、
体をバラバラにされても再生する能力を持つ、という恐るべき強敵怪獣なのに、
何でしょう、
この、マヌケでなんともだらしのない容姿は・・・(笑)。
名前と姿形が、
あまりにも一致していないのです。
加えて、
鳴き声には「ウヒャヒャヒャヒャ」という人間の笑い声が使われていて、
マジなのか、ギャグなのか、意味が解らず困惑しました。


      ライブキングに呑みこまれた東光太郎を救出するため、
ZATは、
空から大量のコショウを撒き散らします。

それを吸ったライブキングは、「ハックション!」と大くしやみ。

と同時に東光太郎が口から飛び出し、
作戦は大成功。


こんな番組、真剣に見てたら損だ、


って思いました(笑)。


     



今にして思えば、
『ウルトラマンA』の後半からなんとなく退屈に感じていた僕の心は、
この『ウルトラマンタロウ』の第1話〜第3話をとても幼稚に思った事で、
決定的な一撃を喰らった気がします。

小学3年生、という、
もうソフビ怪獣を買ってもらえない年頃になった僕に
引導を渡すかのごとく、
アストロモンスとライブキングが、“怪獣” からの卒業を強く促してきたわけです。

当時の僕は、

大好きで毎週観て応援していた気持ちを円谷プロに裏切られた気がして、
その落胆から、
この2匹の怪獣には、
敵視に限りなく近い蔑視の感情を抱いていました。


でも、
大人になった今では、
『ウルトラマンタロウ』を面白いと思いますし、
そういった子供の頃のガッカリした記憶を含めて、
アストロモンスの事もライブキングの事も、
こうやってソフビをコレクションしながら深く深く愛しています。
だいたい、
失望したり馬鹿にしたりしながらも、
その怪獣の、姿形や名前、暴れっぷりや鳴き声などを
ずっと忘れずに憶えていたのですから、
どんなヤツだろうが、結局、僕は夢の生き物である “怪獣” が好きで、
そこからは離れられなかった、というわけです。 

昔、幼かった息子たちとウルトラマンごっこをして遊ぶ際も、
こうやって

 「ライブキングだぞォ〜」

って言って、
チビエースやチビタロウと闘ってましたし・・・(笑)。

       



GM就任の記者会見で、落合さんは、

 「一度離れたファンは、簡単には戻ってきてくれない」


とドラゴンズの現状をシビアに語っておられましたが、
落合さんの復帰が決まった時点で、かなりのファンが戻ってきた気がします(笑)。
それに、
真のドラゴンズファンは、そもそも離れたりなんかしていません。
熱い思いを持っているからこそ、
強く愛しているからこそ、
不甲斐無い姿を、我が事のように嘆いたり悔しがったりするのであって、
本当に好きなものからは、人間、離れられないものなのです。

もちろん僕も、ドラゴンズからは離れられません。

来季以降も全身全霊で応援していきます。

『ウルトラマンA』の後半と新番組の『ウルトラマンタロウ』を不満に思いながらも
結局ずっとウルトラシリーズのファンでい続けているのと同じように、
ここ数年の球団フロントの所業には不満でも、
僕のドラゴンズ愛の濃度は変わりません。
なので、
優勝争いをする強いチームに戻る事はもちろん、
今度こそ、
ファンが恥をかかなくて済む、まともなフロントの球団になってほしい、と
切に願っています。


ところで、

現役時代の背番号は、
高木さんが “1” で、落合さんが“6”。
“A” はトランプでは “1”、
主題歌でも歌われているように、タロウはウルトラマンナンバー“6”。
来季のドラゴンズは、
まさに、
“1” から “6”、
“A” から “タロウ” へのバトンタッチです(笑)。

地球がピンチに陥り、力が欲しいと願う時、

ウルトラマンタロウは現れ、人類を救ってくれます。
ドラゴンズがピンチに陥った今、力が欲しいと願ったら、
落合さんが現れました。
なんとか、
我々ドラゴンズファンを救ってもらいたい、と強く思う次第であります。




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