真水稔生の『ソフビ大好き!』


第113回 「いろはにほへと」  2013.6

先日、芝居仲間と二人で飲んでいた際、
趣味・道楽の話になり、
僕のソフビコレクションについて、

 「そんなモン、どんだけ集めたって、死んだらおしまいだがや」

と言われました。

まぁ、確かに、
根気とお金を費やし生涯かけて集めたところで、
それがどうなるわけでなし、
まったくもってごもっともな指摘なンですけれど、
シビアで現実的な生き物である女性ではなく、
まさか男性から、
そんな次元の意見を聞かされるとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。

別に僕のようなコレクターでなくても、
同じ男性であるなら、
“モノを集める” という行為に
誰もがある程度の理解は持ち合わせている、と認識していたので、
“男のロマン” とか “少年の夢” とか、 そういう感覚がなんで解らないのか、と
もどかしさも覚えた次第です。


ちなみに、
そいつの趣味はひとり旅で、
しょっちゅういろんな所へ出かけているのですが、
それだって、
生きてなきゃ行けないのだから、死んだらおしまいなンですけどね(笑)。

・・・ん? 待てよ。
あの世へ旅立つ、って解釈で、死んでも続く、って事か?
いやいや、
他人の趣味を自分の価値観だけで否定して馬鹿にするようなヤツの脳で、
そんな深みがあって洒落た思考が働くわけがない(笑)。
要は、
モノに執着する事の虚しさを訴えたかったンでしょう。
形あるものは必ずいつか壊れる(消滅する)、ってのが、自然の法則ですからね。
モノを集めるなんて結局無意味、というわけです。

けれど、
僕に言わせれば、
実に上っ面な物事の考え方ですね、そういうのは。
“諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽” の意訳とされる『いろは歌』だって、
なにも、

 この世のすべての現象は絶えず変化していくものだから
 浅はかな夢なんか見たって無駄だ、

と言っているわけではないと思います。
だって、
いつか散るものだからといって、花の美しさに心が動かない人なんていないでしょ?
永遠に存在するものしか愛する意味が無いというなら、
最初からこの世に生まれてこなければいいンです。極論ですけど。

静かな安らぎの境地である涅槃から見れば、現世そのものが、浅はかな夢の世界。
この世に生まれてきた以上、夢を見なきゃあ。
椎名林檎さんも、

 ♪浅い夢見やしゃんせ さあ見やしゃんせ

って歌っているではありませんか(笑)。
浅はかな夢を大いに見て、
それが壊れた時・醒めた時に「あぁ、夢だったか」と思う事こそ “悟り” であり、
夢を見ない者にその価値が理解出来るとは、到底思えません。

なので、
これからも僕は可能な限りソフビ怪獣人形を蒐集し、夢を見続けます。
今回は、改めて、そんな宣言の巻(笑)。


・・・あ、
んでもって,
その二人の酒の席、

 「そんなンだで、お前は薄っぺらい芝居しか出来ぃへんのだわ!」

と僕が言い返したため、
その後、目クソ対鼻クソの罵り合いになった事は言うまでもありません(恥)。

浅い夢見やしゃんせ。さあ見やしゃんせ。


 イフ
 『ウルトラマンマックス』(平成17年7月〜18年4月)に登場。

 宇宙からやってきた謎の生命体。
 元々は、白いドーム状の物体でしたが、
 あらゆる攻撃を吸収して自分の能力に変える、という性質を持っており、
 地球防衛連合DUSHのミサイルやレーザー攻撃、
 更には、ウルトラマンマックスの必殺光線までをも取り込んで、
 このような、
 毒々しくて邪悪な姿の怪獣に変身してしまいました。

         











バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、
全長約16センチ(番組放映時に発売)。

       
     

 攻撃すればするほど強暴になっていくわけですから、
 手の施しようが無い史上最強の怪獣です。
 地球を滅亡に追い込む勢いで暴れまわりました。
 でも、
 その日が音楽発表会だった少女が、
 瓦礫の中で泣きながらピッコロを奏でると、
 その演奏を吸収し、
 破壊攻撃は止めて少女と同じように美しい音楽を奏で始めました。
 それに併せて姿も、
 女神像がハープやチューバなどいろんな楽器を纏った、
 “音楽の精” とでも言うべき安らかで神々しいものになり、
 ウルトラマンマックスの誘導で宇宙の彼方へと去っていきました。

 感動的な映像でしたので、
 個人的には “音楽の精” の姿もソフビ化してほしいところですが、
 今のところ、
 バンダイのウルトラ怪獣シリーズには、
 この物騒な姿のイフしか、ラインナップ入りしていないようです。

 下の写真のイエロークリアー成形のものは、
 雑誌HYPER HOBBYの誌上で限定販売された “少女の涙Version” なる商品で、
 光を放ちながらその “音楽の精” へと姿を変える瞬間をイメージしたものです。

       

 型もサイズも同じな、
 ただの色替え商品とは言え、
 “音楽の精” に変身する瞬間の姿を発売したのなら、
 変身した後の姿も商品化していただきませんと、
 こんな寸止めで何年も放っておかれるのは酷というものです(笑)。
 バンダイ、および商品化に携わる全ての関係者各位に、
 よろしくお願いしたいところであります。


 ロボネズ
 『帰ってきたウルトラマン』(昭和46年4月〜47年3月)に登場。

 ネズミの姿をした巨大なロボット。
 メシエ星雲人が、帰りマン抹殺のために地球に送り込んできました。
 通常の怪獣と異なり、
 物語の冒頭で
 早々に現れていきなり帰りマンとバトル、そして早々に敗れ去った、と記憶していますが、
 炎上して骨格だけになる最期も含めて、なかなかインパクトの強い存在でした。

         









ブルマァク製、全長約23センチ。

   

 番組放映時に発売されたこの人形は、
 このようになんだか可愛らしい雰囲気も持っていますが、
 炎を吐いたり、噛みついたり、
 あるいは長い尻尾を巻きつけて電撃を加えたり、という、
 実物のロボネズの凶暴さも絶妙に表現されています。
 抱いて寝ても好し、
 人形同士を闘わせても好し、
 昔のソフビ怪獣人形は、やっぱ優秀な玩具だなぁ・・・。

       
                           


 蜂女
 『仮面ライダー』(昭和46年4月〜48年2月)に登場。

 催眠音波で人々を誘導・拉致し、
 廃ビルの地下にある毒ガス製造工場で奴隷のごとく使役する、恐ろしいショッカー怪人。

            バンダイ製 ライダー怪人シリーズ、
全長約16センチ。

向かって左側の人形が
一般販売で、
右側のクリア成形の人形は
雑誌HYPER HOBBY誌上での
限定販売。
両方とも平成14年の発売。

 子供の頃、
 「蜂女なんて・・・」と
 女性の怪人である事を理由に馬鹿にしていましたが、
 本音では、
 みんな、蜂女の事が好きだったと思います。
 “蜂” というの生き物が
 “女の怪人” というキャラクターに見事にマッチしていてリアリティがあったし、
 よく見ると、結構 “美人” でしたから(笑)。

 男が胸に描く女性のイメージを、
 “蜂” と “美人” を使って見事にモンスター化した結果、
 実に魅力的なキャラクターとなり、
 『仮面ライダー』の敵としてはもちろん、
 ヒーロー番組に登場する女性怪人のパイオニア的存在としても、
 歴史にその名を残す事になりました。

         

 現在の商品(と言っても、発売はもう10年以上前ですが)は、
 このように
 実物の蜂女に忠実な造形・彩色がされていますが、
 下に紹介する番組放映当時のソフビ人形は
 デフォルメ志向の時代の商品ですから、
 オーバーな表現の造形や、あえて実物とは異なるカラーリングで、
 実物の特徴が実物以上に強調されていて、奥深い面白さ・味わいがあります。

         















バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約26センチ。

 第2回「ああ、麗しのソフ美人」の中でも述べたように、
 “よく見ると結構美人” な実物を上回る、
 “気おくれするほどの超美人” な顔に仕上げてあり、
 実に魅力的。
 「女だから」とか「弱いから」とか言って馬鹿にしながらも
 心の底では蜂女に惹かれていた僕ら男の子の感性を見事に刺激した、魅惑の微笑。
 これを超える怪人ソフビはありません(断言)。 最高の一品です。

       

      しかも、
ただ美人な顔の人形にしただけではありません。
見て下さい、この生活感のある脚。
近所のスーパーで買い物している主婦のような風体です(笑)。
高貴な女王様のような顔の造形とは異なる、この庶民的な味わいが、
蜂女が美人である事を、
漠然としたイメージではなく生々しい事実として、伝えているのです。
素晴らしい!

 一方、こちらは
 当時、駄菓子屋さんでも売られていたミニサイズのソフビ。これまた素敵。

            バンダイ製 ミニサイズ、
全長約11センチ。
           

 廉価版人形ゆえ、
 チープな造形である事は否めませんが、
 それでも、
 ちゃんと “怖い女” を感じさせる顔の表情をしているし、
 赤やオレンジ色の成形色で、
 “女性の怪人である事” を意識して商品化がされているところに、好感が持てるのです。

         
         やっぱ、蜂女って魅力的な怪人だなぁ・・・(改めてしみじみ)。


 にせウルトラマン
 『ウルトラマン』(昭和41年7月〜42年4月)に登場。

 ザラブ星人が、人類を欺くために変身した姿。
 本物のウルトラマンとは明らかに異なる目つきの悪さ(笑)が、
 偽者である事を僕ら子供たちにわかりやすく、そして楽しく物語っていました。

        バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、
全長約17センチ。
        向かって左側の人形が
平成7年に
ウルトラマンフェスティバルの会場で限定販売されたもので、
右側の人形は
平成10年に一般販売されたもの。
型は同じですが、
赤の色味が若干異なるのと、踵が追加されています。 
 
        目の色が違うのは、
経年で、右側の人形の顔料の銅成分が酸化して、変色してしまったためです。 
           
        気をつけて管理してたンだけどなぁ・・・。
まぁ、これもソフビ人形の味わいのひとつだから、別にいいンですけどね(半分強がり)。
   



この人形は、
新たに型が作られ、
ザラブ星人の人形とセットで
平成12年に
またまたウルトラマンフェスティバルの会場で限定販売されたものです。

バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約17センチ。

翌年には、
単品で一般販売もされ、
更には
その8年後の平成21年、今度は目の色を替えて、
『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル
   NEVER ENDING ODYSSEY』
        (平成20年12月〜21年3月)に
再登場したニセウルトラマン、として発売されました。
その人形が下の写真。

                     
この塗装色なら、
経年で緑青が生成される心配無し(笑)。 

       


 ホー
 『ウルトラマン80』(昭和55年4月〜56年3月)に登場。

 失恋した少年の、
 悲しみや憎しみが生み出した、男の女々しい感情の権化(笑)。

         









ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約17センチ。 

番組放映当時の商品ですが、
直立不動な体勢のため、戦意があまり感じられない人形です。
この、
何もせずただ泣いてる雰囲気が、
リアルな造形以上に、
ホーという情けない怪獣の “存在” を実感させてくれます。
                ホーは硫酸の涙を流して泣きます。
この人形は、
白目の部分が黄色になっているので、
粘り気のあるそんな危険な薬品が、
目から流れ出ているようで、
痛々しい雰囲気がうまく出ています。
(硫酸は黄色ではありませんが)
 

       









この人形は、
ウルトラマン80の人形とセットで、
平成20年に発売されたバンダイ製の食玩。
全長約10センチ。

 以前、
 ウルトラマン80怪獣のソフビを紹介した第105回「夢物語 〜幻のウルトラマン先生〜」で、
 この人形を紹介しなかったのは、
 『ウルトラマン80』に登場したホーではなくて
 『ウルトラマンメビウス』に再登場したホーの人形だ、と
 勝手に思い込んでいたからなのですが、
 ふと調べてみたら、
 商品として別にそんな事は謳っていませんでした。ゴメンナサイ。
 なので、
 改めて今回紹介させていただきます。
      商品名が “対決セット” というだけあって、
前出のキングザウルスシリーズの人形とは違い、
戦意が多分に感じられる表現となっています。

         女にふられたからといって、
 泣くのもみっともないが、
 怒って暴れるのはもっとみっともないぞ。
 男なら潔くあきらめよう。

 ・・・出来ンけどね(苦笑)。


 
 兵士チャップ
 『仮面ライダーBLACK RX』(昭和63年10月〜平成元年9月)に登場。

 クライシス帝国の地球侵略兵団の兵士、いわゆる “戦闘員” です。

          バンダイ製、全長約12センチ。 

高畑淳子さんが演じたマリバロンの人形などとセットで、
番組放映当時に販売されていたミニソフビ。
主人公のヒーローとメインの敵キャラだけでなく、
戦闘員、という地味な脇役も
こうやって人形として商品化されている事は、
ソフビファンにとっては嬉しいものです。



 ずいぶん昔の話ですが、
 3歳の長男と生まれたばかりの次男を連れて、
 地元のハウジングセンターへ “仮面ライダーショー” を観に行った際、
 その日はちょうど “こどもの日” で、
 現われた兵士チャップが客席に下りてきて、
 紙製の小さな鯉のぼりを長男に手渡しでプレゼントしてくれました。
 長男は
 兵士チャップを優しい人だと思い込んでしまったようでしたが、
 ショーの内容や、後日見せてあげた『仮面ライダーBLACK RX』のビデオで、
 それが悪者である事を認識し、困惑していました(笑)。

 そんな長男も、今年、成人式を迎えたのですが、
 先日、一緒に食事をした際、

  「兵士チャップに小さい鯉のぼりもらったの憶えとるか?」

 って聞いたら、

  「屁しちゃったプー? 」

 などと聞き返されたので(イラッ)、

  「誰が屁しちゃったプーだ? アホか! 兵士チャップだわ! RXの!」

 と説明しましたが、
 兵士チャップどころか、そのショーを観に行った事自体、憶えていない、との事(哀)。
 僕が子供の時に
 ショッカーの戦闘員からそんな事してもらったら、絶対忘れないけどなぁ・・・。
 近頃の若い者は情が薄い(笑)。


 トリカブト
 『仮面ライダー』(昭和46年4月〜48年2月)に登場。

 毒ガスを噴出する殺人植物を、
 一般大衆が集まる劇場やホールに設置して大量殺人をはかる事が使命で、
 自身も人間を溶かす毒液を発する、恐ろしいショッカー怪人です。

         















バンダイ製 スタンダードサイズ、
全長約26センチ。 

         






















バンダイ製 キングサイズ、
全長約37センチ。

        ポピー製 ミニサイズ、
全長約11センチ。 

 トリカブト、っていう有毒植物の存在を、
 僕はこれで知ったのですが、
 この怪人、
 ライダーキックを喰らって爆死、ではなく、
 ライダーキックの後にライダーパンチも喰らって果てる、
 という、いつもの怪人とはちょっと違う最期を遂げたのが印象的でした。
 ライダーキックでは死ななかった、という事で、
 他の怪人よりも強い怪人、として認識させてくれたし、
 この回に、
 カニバブラー、ムカデラス、モグラング、アルマジロングの4怪人が再生されて登場した事も、
 メイン怪人トリカブトの特別感をアシスト。
 まさに、
 “ワンランク上” のショッカー怪人でした。
         




僕が子供の頃に誕生した “ウルトラマン” と “仮面ライダー” は、
僕が大人になり、
更には、
僕の子供までもが大人になった現在でも、どんどん新作が作られ続けています。
世界に誇るべき、日本の素晴らしき児童文化です。

この国の、この時代に、
ありがたく “生” を享けた以上、
その “生き証人” という立場から、僕は離れたくありません。
離れられません。
命ある限り、ヒーローや怪獣・怪人たちを愛し続けます。
これからも、
彼らの分身であるソフビ人形を抱きしめて、浅はかな夢に酔いながら・・・。



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