オモチャのある風景

  〜 第12景 「涙のこけし」 〜

=投稿=




このこけしは、昔、私が出張先で買った娘へのお土産です。

実は、当時、まだ小さかった娘と遊園地へ行く約束をしてた日に、

急にその出張が入ってしまったのです。

娘に泣かれたのも辛かったのですが、

いつまでも泣いてる娘を、

聞きわけがない、と妻が叱っている光景を見るのも、

とても辛いものでした。

こんなこけしなど娘が喜ぶはずはないとわかっていましたが、

娘がピンクが好きだった事を思い出したので、

せめてもの罪滅ぼしのつもりで、買って帰りました。

娘は「ありがとう」とは言ってくれましたが、

案の定、特に興味をしめしているようではありませんでした。

月日は流れ、その娘も昨年末、嫁いでいきました。

先日、妻と二人で娘夫婦の家に遊びに行った際、

私は、台所の食器棚にこのこけしを発見し、驚いたのです。

 「私がピンクが好きなの憶えててくれて、
    お父さんが仕事先で買ってきてくれたものなの」

って言ってました、と婿が教えてくれました。

娘が今でも大事に持っていてくれた事も嬉しかったですが、

私の気持ちを娘がちゃんと理解していてくれた事に感動しました。

帰りの車の中、私は涙が止まらず、

妻に運転を代わってもらいました。


数年前に、テレビのコマーシャルで、

“モノより思い出”

ってのがありましたが、

私はあのキャッチコピーが大嫌いでした。

確か車のコマーシャルだったと記憶していますが、

モノを買ってやるよりも、

車で何処かへ連れて行ってやって思い出をつくってあげた方が、

子供にはいい、

というメッセージだと解釈していましたが、

モノには思いが込められているのだから、

モノを大切に思えない子供が思い出を大切になどするわけがない、

という気持ちが私にはあり、

あのコマーシャルとあのキャッチコピーは、

もっともらしい事を言って気取っているけど、実に薄っぺらい気がしていたのです。

我が娘が、そんな私の主張が間違っていない事を証明してくれるなんて、

夢にも思っていませんでしたが、

モノに込められた思いを理解出来る、気持ちの温かい人間に育ってくれたのだと、

非常に嬉しい、幸せな気持ちでいっぱいです。

そんな娘を私は誇りに思います。

今更ながら、嫁になどやって惜しい事をした、と後悔しています(笑)。


                                 たそがれオヤジ(49歳 愛知県名古屋市)


【掲載日:平成19年5月26日】



                        戻る