真水稔生の『ソフビ大好き!』


第222回 「真夏の象徴」  2022.7

ジャーン!

空をガラス板の如く割り砕き異次元より現れる、一角超獣バキシムのTシャツ・・・。

在京の先輩ソフビコレクター
(以前、第172回「お江戸の空に春を呼ぶ」で述べた、あの人です)から、

  【陣中見舞い】 猛暑にめげず頑張りましょう。

というメッセージカードと一緒に、いただきました。

今どきの夏は、
もはや “暑中” ではなく “陣中” になってしまう程の、激しい暑さとの闘い、なンですよね。

そういう意味でTシャツに描かれている絵に目を向けますと、
バキシムが割り砕いた空の破片が “かち割り氷” にも見えて、なんだか涼が取れそうで(笑)、
暑さと闘うにはピッタリのデザインだと思いました。
 
・・・ってか、
ただ “暑い” というだけでバキシムのTシャツがもらえるなんて、僕はなんて幸せ者なのでしょう(笑)。

いやぁ、嬉しい・・・。

僕よりも1歳年上の方なのですが
ただソフビコレクター同士というだけでなく、
誕生日が同じ(・・・って事は、そう、“ウルトラマンの日” に生まれた者同士なのです)だったり、
仮面ライダーは “2号派” だったり、
運命を感じるような(笑)共通点が多くて、4年前の初対面以来、親しくさせていただいているのですが、
ホント、何かと僕に気をかけて下さっていて、
応援・励ましのメールやこうしたプレゼントをよく送って下さるンですよね。
映画『ノイズ』も、
職場の部下の方を引き連れて劇場まで観に行って下さったとか。
ありがたい話です、本当に。

・・・それにしてもカッコいいなぁ、このTシャツ。

実は、僕、
バキシムが大好きなンですよねぇ。
ウルトラ怪獣の中でもトップ10に入るくらい・・・。

御存知のとおり、
バキシムは『ウルトラマンA』の第3話に登場した超獣ですが、
そのデザイン・造形が、

 いかにも異次元(ヤプールの棲む世界)の生き物、
 いかにも超獣(怪獣を超えている・怪獣よりも強敵)、

って感じがして、
圧倒的にカッコいいですからね。

 “バルタン星人でもレッドキングでもなくバキシム”

というチョイスに、

 さすが、解ってらっしゃる!

と唸ってしまい、喜びもひとしおでした。

だって、
たまたま偶然選んだのだとしても、
なんかテレパシーで通じ合ってるみたいで感動しちゃうし、
僕が忘れてしまってるだけで、“バキシム好き” って事を話した事があって、それを憶えて下さっていて・・・、って事でしたら、
もう、泣けちゃうくらい感激だし・・・。

とにかく、シビれる暑中・・・いや、陣中見舞いだったのです。


なので、
今回のソフビコレクションの紹介は、この嬉しさの勢いで、バキシムにさせていただきます。


まずは、
僕が子供の頃(『ウルトラマンA』本放送時)のソフビから・・・。
   





ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約20センチ。
この造形、このボリューム感・・・、
もう、文句の付け所がありません。
最高です。
    怪獣(超獣)としての迫力に満ちていながらも、
オモチャとしての温かみも失われておらず、
子供が夢見る気持ちで安心して遊べる、
これぞ怪獣玩具、これぞソフビ怪獣人形ではないか・・・と思います。素晴らしい。
   
  鉱物の結晶を思い起こさせるバキシムの背中を、
見事なまでに美しく再現しているこのカッコよさは、
まさに、造形力でピークに達したブルマァク全盛期を象徴するものですが、
大きな突起の部分に無数に付けられた傷の、
この自由奔放な描かれ方に、
マルサンイズムの残り香も感じられます。

実物のバキシムが “地球の生物” と “宇宙怪獣” の合成なら、
ソフビのバキシムは、“マルサンイズム” と “ブルマァク魂” の合成。
ただ実物を忠実に再現しただけの現在のソフビ人形では、
絶対に太刀打ち出来ない魅惑の奥深さが、昭和のソフビにはあります。 
     

このバキシム人形、
間違いなく、昭和の傑作ソフビのひとつ、ですね。


こちらは、
同じくブルマァク製で、全長約11センチのミニサイズ人形。

先述のスタンダードサイズ人形と同じメーカーの商品とは思えない、チープな仕上がりですが(笑)、
“昭和” 感は、
こちらの方が、僕個人としては強く生々しく感じられ、
思い出す子供の頃の町や家の風景にすんなり馴染む、心地良い懐かしさがあります。
 
             

以前、中学校で美術を教えていた知人が
僕のコレクションルームに遊びに来た際、この人形を見て、

 なんで、ここだけ青く塗ったンだ・・・?

って、めちゃくちゃ真剣に考えていたのを憶えています。
 
僕のようなアンティークソフビの愛好家なら、
昭和のソフビだし、ブルマァクだし、ミニサイズだし、
そんな事をいちいち悩んだりしませんが、
アンティークソフビに愛も知識も無い一般人(笑)であるその知人からしてみれば、
美術教師としての立場や専門的観点から、とても気になる事だったのでしょう。

 「芸術は理屈じゃないのよ、先生」

って言ってやりました(笑)。


これは、
マルサン製で全長約12センチ。

マルサン、と言っても、
倒産した翌年の昭和44年に再建されたマルサン、ですね。
第220回「イクラのプール」の中で述べた、
『帰ってきたウルトラマン』の放映時には円谷プロの版権が取得出来ず、
オリジナル怪獣のソフビを生産・販売していた、マルサンです。

『ウルトラマンA』の放映時には円谷プロの版権が取得出来て、
この小さいサイズのみでしたが、
バキシムをはじめとするA関連のソフビ人形を数種、発売していました。 
    ちなみに、
僕らソフビコレクターが「マルサン」と呼ぶマルサンは、
この世で初めて怪獣ソフビを作ったマルサン
(社名はマルサン商店からマルサン、そしてマルザンへと変更)の事であり、
倒産した翌年に事業を再開したこのマルサンは、
言ってみれば、
別会社扱い、なンですよね。
現に、マルサンソフビの金型を引き継いでいるのはブルマァクですし・・・。

そういった経緯・事情もあって、
オリジナル怪獣人形にしろ、このバキシム人形をはじめとする超獣人形たちにしろ、
マルサンとは別会社のマルサン(笑)が作ったソフビ人形たちは、
ソフビ史における立ち位置が、
地味というか中途半端というか、今ひとつ存在感に欠けるため、
魅力的な造形をしていながら、
正当な評価をされておらず不人気で、ちょっと可哀想なアイテムなのです。
  
    そう思って見るからか、
なんだか淋しくて泣いているようで、
僕はいつも、

 「いやいや、いいソフビだよ、お前は・・・。僕は大好きだからね」

と心の中で話しかけながら、
そっと撫でてあげたり
やさしく胸に当てたりして、温もりを伝えています。

・・・え? 気色悪い? 放っといて!(笑)

   
安易にこういう表現で片づけたくないのですが、
ホント、

 味がありますよねぇ・・・、

昭和のソフビ、って。 


これは、
ポピー製 キングザウルスシリーズで、全長約18センチ。

『ウルトラマンA』本放送時から約10年後の商品です。

第37回「色違いの妙味」
第169「忘れじのソフビ通販」でも紹介してますが、
僕、このキングザウルスシリーズのバキシムが大好きなンですよねぇ・・・。

  現在のバンダイの人形ほど実物に忠実な造形ではないものの、
異次元の生物っぽい雰囲気はしっかりと表現されており、
きちんと “バキシム” していて、
ソフビ化・商品化に対するメーカーの誠実な姿勢を感じますし、
なんといっても、
カラーリングの “妙” に惹かれます。
   
    手の平と背中・・・つまり、瞥見では気づきにくい箇所に、
ショッキングピンクというド派手な色が吹いてあるセンスがオシャレだし、
また、
将来、マニアにコレクションされる事を見越していたかのような、
顔や尻尾等のオレンジ色による、胸躍るバージョン違いが存在します。

天然果汁100%のオレンジジュースを思わせる、
濃厚なオレンジ色。

その美しい色加減がイメージさせる、嫌味のない自然な甘さが、
まるでふわっと香るかのように、
心を夢の世界へ気持ちよくいざなってくれます。

果汁が少なめで、止渇感が心地良いオレンジジュースを思わせる、
やや薄めのオレンジ色。

その美しい色加減がイメージさせる、優しく懐かしい甘さが、
心潤う癒しの時間を提供してくれます。

清涼感に満ちた炭酸入りオレンジジュースを思わせる、
メタリックなオレンジ色。

その美しい色加減がイメージさせる、活き活きと弾ける爽やかな甘さが、
疲れた心を刺激して、夢見る力のエネルギーを供給してくれます。
   
どのバージョンも、生気を与えてくれる鮮やかさ。
この季節には、
特にピッタリの色使いですね。

この塗装なら、美術教師を悩ます事も無いでしょう(笑)。 



最後に、平成ソフビを・・・。

3体とも、バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズで、全長約16センチ。
向かって左から、
平成2年、平成4年、平成6年、の発売。

昭和のデフォルメ造形からリアルな造形へと進化し、
実物の着ぐるみを忠実に再現した、カッコいい平成ソフビ・・・のはずですが、
何なンですかね? これ・・・。
口は塞がっちゃってるし、塗装は明らかに手抜きだし、
昔のブルマァクやポピーのソフビの方が断然カッコよく感じてしまいます。

 なんで、こんな “やっつけ仕事” をするのか・・・?
 それも、よりによってウルトラ怪獣の中でトップクラスのカッコ良さを誇るバキシムの人形で・・・、

って、ずっと不満でした。

確か、もう1度か2度、カラーリングの微妙なリニューアルがされていたと思いますが、
塗装のやる気の無さに一切の改善が見られませんでしたので、
バカらしく感じてしまい、もう、買いませんでした。

・・・え? コレクターなら買っておかなきゃダメ?

いやいや、バキシム好きな僕としては、せめてもの抵抗だったのです(笑)。
めっちゃカッコいい怪獣なのですから、
ちゃんとマジメに作れば、素晴らしいソフビ人形になるはずなのに、
どういう事情なのか、こんな愛の無い仕上がりで、
ホント、ずっと腹立ってたので・・・。

 こんなにもバキシムを愛し、
 ソフビ蒐集に人生を賭けている僕ですら、買わないレベルだぞ!

って、怒りのアピールをしていたのです(誰に?(笑))。

・・・で、
平成元年に生まれた赤ちゃんが大人になる頃、
ようやく、まともな平成ソフビのバキシムが世に放たれました。
2体とも、
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズで、全長約16センチ。

向かって左から、
平成18年、平成19年、の発売。


・・・こうでなくちゃ、ね。


こちらは食玩。
バンダイ製 プレイヒーローモンスター ウルトラマンモンスターズ。全長約10センチ。 
平成19年の発売です。
 
   
平成ソフビのバキシム御一行様。

こうして集合写真を撮ると、

 どんなに気に入らなくても、
 やはり、リニューアルの度にちゃんと購入し、
 コンプリートしておくべきだったなぁ・・・、

って思いますね。・・・未熟でした(苦笑)。



・・・いやぁ、やっぱ、バキシムはカッコいいですねぇ~。

こんなにも魅力的なキャラクターが、
毎週放送される番組のたった1週にだけ登場し、
主役のウルトラマンに倒されて潔く散っていったなんて、
ウルトラシリーズ、って、なんて贅沢なテレビ番組だったのでしょう・・・、
って、
つくづく思います。

ただ、御存知のように、
そんな贅沢が続いたのも、この『ウルトラマンA』の最初の頃までで、
番組後半から次番組『ウルトラマンタロウ』には、
贅沢を感じるような魅力的な敵怪獣は、ほとんど出てこなくなります。
怪獣ブームが陰りを見せ、特撮作品が、淋しい “冬の時代” を迎えるわけですね。

そう考えると、
この猛暑も、2~3ヶ月後には治まり、まさしく “冬” を迎えるわけですから、
バキシムは、怪獣ブームの中における “真夏の象徴” だった・・・、と言えるのではないでしょうか。

・・・そうなンです。
夏というのは、隆盛の極み。
生命力に満ちた、最も明るく元気な季節なのです。
バキシムが改めて気づかせてくれました。

なので、
暑さを嘆いたり、暑さに萎れたり・・・、なんてのは、
この世に生を享けた事に対する感謝に、言わば逆行した行為。
そんな罰当たりな事、してはいけません。

なので、僕は、
生きてる幸せを噛みしめて、今年も暑い夏を過ごしていこうと思います。
かち割り氷に見立てた、
Tシャツのバキシムが割り砕いた空の欠片を、
ソフビのバキシムがイメージさせてくれるオレンジジュースの中に投げ入れて、
それをゴクゴク心の喉に流し込み、猛暑をあえて楽しみながら・・・。








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