真水稔生の『ソフビ大好き!』


第177回 「夢のスリランカ」  2018.10

以前、
外国人の若者も大勢働いている僕のアルバイト先について
述べた事がありましたが
第164回「言葉を超えた愛もあるはず」参照)、
最近、
また新しく1人、
スリランカ人の女の子が入ってきました。

仕事は丁寧だし、
明るくて、品があって、とても感じのいい女の子なので
すぐに仲良くなったのですが、
或る時、ふと、
そんなフツーな好印象とは別に、
僕は彼女に対して、
なんとも心地良い、“和み” や “やすらぎ” みたいなものを
感じている事に気づきました。

まだまだ日本語勉強中、との事ゆえ、
会話が半分くらいしか通じないにもかかわらず、
彼女と話していると、
妙に心が落ち着いて、穏やかな気持ちになるのです。

そこで、

 この生理的にホッとするような感覚は、
 いったい何だろう・・・?
 どこからくるのだろう・・・?

と考えたら、

 男性よりも女性の方が身分が低かったカースト制度のなごりが
 未だ根付いている、
 といわれている国で育ったがゆえの、

  “女性は男性に従うもの”

 という意識が、
 彼女の態度や所作に自然と現れるからだ、

という、勝手な結論(苦笑)に達しました。

もちろん、
差別意識など、
決して良い事ではありませんが、
“女は一歩下がって” 的な彼女の振る舞いには、
やはり、癒されるものがあるのです。

何か一言言ったら
ギャーギャー言い返してくるような女性は、疲れますからね。


・・・ってな事を、
これまた同僚の日本人のおばちゃんに話したら、

 「そんなの、男のエゴじゃん!
  そういう事を言っとるで、あんたはイカんのだわぁ!
  そもそも、
  女と男っていうものはねェ、お互いの・・・」

と、ギャーギャー言い返されました(笑)。


そんな楽しいアルバイト先で、
先日、突然、
そのスリランカ人の女の子が、

 「ワタシ ノ クニ ノ リョウリ デス」

と言って、
これを作って持ってきてくれました。



料理が得意、とは聞いていたのですが、
まさか、僕のために作ってきてくれるなんて思っていなかったので、
驚きました。

“売れない役者” ゆえの満足に食事が摂れていない私生活が、
僕の普段の様子から、
滲み出ていたのでしょうか・・・(笑)。

まぁ、何はともあれ、
スリランカの料理なんて食べた事が無かったので、

 どんな料理だろう?

と楽しみに我が家に持ち帰りました。

そして、
帰宅後さっそく
タッパの蓋を開けてみたところ、
このとおり、
カトレス(日本でいうところのコロッケ)と
パティス(日本でいうところの揚げ餃子)だった次第です。

第157回「愛する君は黄金色」で述べたとおり、
僕は揚げ物が大好きなので、

 なんで僕の好物がわかったのかな?
 体臭から油の匂いでもしてたのだろうか・・・(笑)、

な~んて、
独り、ニタニタしながら、とても嬉しい気持ちになりました。

最初は、
 
 よし、ビールのつまみにしよう、

と思ったのですが、
一口食べたら、これがバカうま。

 おいおい、こりゃ酒なんか飲んでる場合じゃないゾ、

と、
急遽、冷や飯をチンして温め、
晩御飯(夜勤明けだから朝だけど)として、しっかりいただいた次第です。

本当に美味しかった。ゲプッ。


それにしても、
口答えはしないし、
美味しい料理は作ってきてくれるし、
話してないのに好物がわかってくれているし、
なんて気の利く、出来た女性なのでしょう。素晴らしい!

東京に住んでる同じスリランカ人の男性と来年結婚するそうなのですが、
間違いなく、いい奥さんになる事でしょう。

しかも、翌日、

 「すごく美味しかったよ。ごちそうさまでした」

って言ってタッパを返した際に、
スリランカ料理はもっと辛いものだと思ってた旨を伝えたら、
自分たちはもっと辛いのを食べるけど、
日本人の僕に気を遣ってスパイスの量を調節してくれた、
という事もわかり、感動。

しかもしかも、

 「ありがとう。
  けど、辛いの、僕、大丈夫だよ」

って言ったら、

 「Oh! デワ マタ コンド カライノ ツクッテキマス」

と、
めちゃくちゃ可愛い笑顔を返してくれました。

 スリランカ、って、
 行った事無いし、何も知らないけど、
 こんな素敵な女性が生まれ育ったンだから、
 きっと、いい国なンだろうなぁ・・・、

そう思いました。


ところで、
その彼女、フルネームがめっちゃ長いンです。
片仮名で書くと32文字もあります。

彼女の初出勤日に自己紹介された際、
思わず、

 「長っ!」

ってツッコんでしまいました(笑)。

でも、
スリランカの人、って、みんなそうらしいですね。
初めて知りました。


そこで思い出したのが、こちら・・・、



『チビラくん』は、
主人公のチビラくんをはじめとする
愉快な快獣たちが巻き起こす、
ドタバタな騒動を描いた作品で、
大好きなテレビ番組のひとつでした。

ゴルバ
です。
昭和40年代半ばに
日本テレビ系列で放送されていた、
円谷プロ製作の、
コメディドラマ『チビラくん』に登場するキャラクターで、  
フルネームが、

 ゴルバ・フォン・メジラバッハ・スタリンコチャン・アクラズルメ、

と26文字もあり、
まさに、スリランカ人並みの長さ、なンですよね。

カイジュウ星という惑星に棲む怪獣・・・、
いや快獣(要は、人間の言葉をしゃべるブースカ的なヤツ)で、
貴族(もちろん快獣界の)の末裔、という設定なので、
その高貴な出自ゆえ、こんな長い名前を持つのでしょう。 
 

そして、
登場人物の1人(登場快獣の1匹)であったこのゴルバには、
子供の頃よりも深い愛情を、今、抱いています。

だって、
人間臭い、というか、
情味が有る、というか、
なんとも共感を覚えるキャラクターなンですから。

元々はゴルバ家の家来であったハッタル家(チビラくん一家)が
現在では自分より裕福な生活を送っている事に嫉妬していたり、
最愛の妻と死別している身で、
ママゴン(チビラくんの母)に恋心を抱いていたり・・・、
そんな、
切ない境遇における女々しくも頷ける心理が、
幼稚園の年長~小学1年生、という放映当時の僕の幼さでは
到底理解出来るはずのないものだっただけに、
大人になった胸には、
余計に深く沁みるのです。

ブルマァク製、全長約21センチ。

このソフビは、
雑で無責任な造形ゆえ、実物にあまり似ておらず、
お世辞にも素晴らしいとは言えない仕上がりでありますが、
僕は、それを、
単なる “残念な出来” としては、片づけられないンですよねぇ・・・。

前述した、
ハッタル家に対する屈折した感情や横恋慕、といったゴルバ自身の心の葛藤が、
分身である人形を
こんな捨て鉢な表現に導いた気もして、なんだか“味わい” を感じてしまうのです。
            なんといっても、
この、
悲劇に直面して呆然としているような、
世にも哀れな顔の表情が堪りません。

白目の部分も黒で塗りつぶしちゃってる目は、
なんだか涙を浮べているように見えますし、
上の歯(牙)の、
“真横” という、ありえない向きや、
微妙にズレて、口じゃない位置から生えちゃってる様なんて、
まるで、荒んでヤケクソになってる心情を表すかのようで、

 「その苦しみや痛み、
    子供の頃、解ってあげられなくて、ごめんねーっ!」

って、人形を抱しめてあげたくなってしまうのです。
    でも、
こうやって、少し上から見ると、
その哀しい表情が一転、嬉しそうな表情に見えます。

抱しめてあげたくなったら、
この角度で見て、

 人形に僕の思いが通じて喜んでもらえた!

と錯角して(笑)、楽しんでます。


いやぁ、ホント、ソフビ大好き!


 アンティークソフビを
 それで遊んでいた子供の頃に負けないくらい増幅させたイマジネーションで
 今もなお強く激しく愛する・・・、

こういう僕の感覚や気持ち、
別にマニアとかコレクターとかじゃなくても、
僕と同世代の人なら、理解してもらえますよね。

だって、
『チビラくん』という番組や
マルサンやブルマァクのソフビ怪獣人形を、
あの時代のあの空気の中、無垢な幼心で受け止めた経験があるなら、

 あの頃のゴルバのソフビが、今、ここにある、

って事に、
まず感動を覚えるでしょうから、
そこから、
“郷愁の念” や “夢の復活” といったものが
猛烈な勢いで心を動かし、
その熱が新たなエネルギーと化すのは、ごくごく自然な流れですからね。


・・・え?
濃すぎて気持ち悪い?
同世代の人でも理解出来ない?

いやいや、なんでなんで?
解かるでしょう、
『チビラくん』のゴルバだよ、
あの頃オモチャ屋さんで売ってたソフビ人形だよ。
それが、今、こんな顔して、大人になった自分を見ているンですよ。
なんで、何も感じないの?
なんで、涙腺緩まないの?

・・・信じられん。
どういう神経しとるンだっつの!
逆にこっちが理解出来ません。


・・・あ、
けど、
いいです、いいです、それでも。
だって僕には、
例の、アルバイト先のスリランカ人の女の子がいますから。

男に恥をかかせるような事は一切せず、
優しく従順に接してくれる彼女なら、
きっと、
ゴルバのソフビに対する僕のマニアックな愛を、
微笑みながら、温かく包み込んでくれるに違いありませんもの。

ちっぽけなプライドだけを支えに
ズタボロの心に鞭打って生きてる男の “健気さ” を
理屈抜きで受け入れる事が出来る彼女には、
日本人の女性が忘れてしまった、“男を敬う心” があるのです。


・・・と、
そんな矢先、
今日、その彼女が、とても暗い顔をしていたので、
体調でも悪いのかな、と気になり、

 「どうした? 大丈夫?」

って聞いたら、
なんでも、昨日、東京の彼氏と電話でファイト(喧嘩)した、との事で、

 恋人と電話で喧嘩したくらいでそんなに落ち込んじゃって、
 なんて可愛い性格なのだろう・・・、

と微笑ましく思い、

 「今日、また、電話するンでしょ?
  ごめんなさい、って言って仲直りすればいいじゃん」

ってアドバイスしたのですが、
そしたら、なんと、

 「ハァ!?
  ドウシテ ワタシ アヤマリマスカ?
  ワタシ ワクルナイデス!
  デンワ シナイ! 
  アヤマラナイ!」

と、
ギャーギャー言い返されました。


・・・夢が壊れた今日この頃です(笑)。

 






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