真水稔生の『ソフビ大好き!』


第167回「遠い目をしてみたところで・・・」 2017.12

吉本新喜劇の烏川耕一さんが好きです。
巧いし、オモシロいし、
共演者の邪魔をするような卑しい芝居を、絶対しないから。

顔の特徴である尖った口元を、

 「人と話してる時に口笛なんか吹いて、失礼やろ!」

とか

 「お好きなンですか? ちくわ。
  さっきからずっと咥えてはりますけど・・・」

とか言われてよくイジられるのですが、
その際の “返し”、
つまり、相手のボケに対するツッコミの芝居が絶品なンです。

イジられるわけですから、
お客さんから注目される、“おいしい” ところなのに、
自分だけで笑いを取りに行くような事はせず、

 イジってきた相手とイジられた自分の両方がオモシロい、

っていうふうに見せるンです。

なんというか、こう、
自分がいちばんウケたい、とか、
誰よりも目立ちたい、とか、
そういう浅ましさが全く無いンですよね、立ち居振る舞いに。そこが素敵。

 「いいえ、口笛なんか吹いてませんよ」

あるいは

 「は? ちくわなんか咥えてませんけど・・・」

って否定して、それが唇の形である事が判明(笑)すると、
そこからも更にイジり倒されますが、
そのやりとりは、

 「・・・って事は、あなた、ひょっとこ?」

 「誰がひょっとこやねん!」

 「ひょっとこして・・・」

 「それを言うなら、“ひょっとして”やろ!」

 「ひょっとこいしょ、っと」

 「“よっこいしょ”や!」

 「まぁまぁ、落ち着いて。どうです?ひょっとコーヒーでも・・・」

 「“ホットコーヒー”!」

という、
いつも同じパターンの、
いわゆる “ワンセット” になっているものであるにもかかわらず、
決して “段取り” にはせず、
丁寧かつ自然な演技で、
さも初めて言われたかのように、
常に、
いちいち驚いて、いちいち怒って、いちいち言い返します。
しかもテンポ良く。

顔をイジられるけど、その顔で笑わせるのではなく、
あくまでも、
相手との掛け合い、つまり “芝居” で、笑わせてくれるンですよね。

時にそれは、相手の魅力までも引き出してしまうので、
絶妙に面白い空気を作り出します。

役者としての見事な “技術” はもちろん、

 “みんなの力で良い舞台を作る”

という、
烏川さんの芝居に対する高潔な “精神” が為せる業、なのでしょう。
それゆえ、
毎回、大爆笑しながらも、
感服して、見入ってしまいます。


・・・なんて、
いきなり語っちゃってますが(苦笑)、
なにもべつに、今回は芝居とか役者とかについて述べたいのではなく、
現在、チャンネルNECOで再放送中の
『戦え!マイティジャック』を観ていたら、
ふと、『吉本新喜劇』の事を思い出したので、こんな書き出しになってしまったのです。

好きなンですよねぇ、『吉本新喜劇』・・・。

でも、
なんで『戦え!マイティジャック』を観ていて『吉本新喜劇』を思い出すのか、
といいますと、
それは、今から40年前、僕が中学生だった頃に、話がさかのぼります。

ここ名古屋では、
もう何十年も前から、土曜のお昼には『吉本新喜劇』が放送されています。
一時期、放送されていなかった頃もありましたが、
まぁ、

 土曜のお昼は『吉本新喜劇』、

と言っても過言ではないくらい、名古屋では当たり前のように浸透しています。

中学生時代の僕は、
以前、第105回「夢物語 ~幻のウルトラマン先生~」の中でも述べたように、
通っていた中学校に野球部が無い事に脱力してフテくされ、
いわゆる “帰宅部” に甘んじていたので、
半ドンだった土曜日には、
自宅でお昼御飯を食べながら、いつも、その『吉本新喜劇』を観ていました。

当時は、
今では大ベテランである池乃めだかさんがまだ入団したて、という時期で、
岡八郎さんと花紀京さんの全盛期、
いわゆる “吉本新喜劇黄金時代” の真っ只中でした。
毎週毎週、それはそれは腹を抱えて笑わせてもらったものです。

でも、僕には、
そんな大爆笑必至の『吉本新喜劇』よりも、実は目当てのものがありました。
それは、
『吉本新喜劇』が始まる前に流れる『天気予報』。

その『天気予報』、
ちょっと変わってまして、
バックで流れる映像が、
よくある、山とか海とかの風景の映像ではなく、
レオタード姿のかとうかずこ(現・かとうかず子)さんが
スタジオの中で無数の風船と只々たわむれる、というものだったのです。

当時、かとうかずこさんはデビュー間もない頃で、おそらく二十歳くらい。
そんな年頃の美人のお姉さまが、
レオタード姿で、
風船に抱きついたり、お尻で風船を弾き飛ばしたりしている映像は、
中学生の僕には、
それはそれはエロチックに映ったものです。

たとえ予報は “晴れ” でも、
僕の股間には、毎週、某かの警報が出ていました(笑)。
いや、ホントに。
たまりませんでした。

・・・で、
そんな嬉しい『天気予報』の提供スポンサーが、
“クロスタニン” でお馴染みの日健総本社でして、
CMには、
『戦え!マイティジャック』で天田隊長を演じられた南廣さんが
出演されていたンです。

南廣さんは元々ジャズドラマーでしたので、
それを活かし、
CMでは華麗なバチさばきが披露されていて、
そこに、

 「OH!クロスタニン!」

という南廣さんの台詞が2、3回被せてありました。

ただ、最初に観た時は、

 なんじゃ、このダッサいCM・・・、

って思ったンです。
だって、
オッサンがドラムを叩いている映像に
オッサンの声で商品名が連呼されているだけなのですから(笑)。

ところが、
何度も観るうちに、

 ・・・あれ?
 どっかで見た事あるなぁ、この人・・・、あ、あの人だ!

って、
それが、
『マイティジャック』と『戦え!アイティジャック』で
天田隊長(『マイティジャック』の時は副隊長)を、
『ウルトラセブン』で宇宙ステーションV3のクラタ隊長を
それぞれ演じられた、
南廣さんである事に気づいて、
そうしたら、
急に、

 なんかカッコいいなぁ、このCM・・・、

って思えました(笑)。

程無く、
レオタード姿のかとうかずこさんの『天気予報』と同じくらい、
そのCMが好きになった次第。

『吉本新喜劇』も
もちろん楽しみでしたが、
その直前に流れる『天気予報』とCMを観るために
急ぎ足で下校する、
そんな、僕の中学時代の土曜日だったのです。


・・・と、
これが、
『戦え!マイティジャック』から『吉本新喜劇』を思い出した理由であります。

思えば、

 土曜のお昼、
 学校から帰宅して、
 明日は日曜(休み)という解放感の中、
 お昼ご飯を食べながら、
 レオタード姿のかとうかずこさんを観て、思春期の股間を刺激され、
 CMに出ている南廣さんを観て、マイティジャックやウルトラセブンに夢見た幼少の頃を思い出し、
 更には『吉本新喜劇』で大笑い・・・、

なんとも平和で愉快なひとときを、毎週過ごしていたものです。

もう、40年も昔の事かぁ・・・(遠い目)。

けど、考えてみれば、
現在でも、
ソフビコレクターとして
マイティジャックやウルトラセブンには夢見てるし、
もちろん、レオタード姿のお姉さまも大好き(笑)、
んでもって、
烏川耕一さんをはじめとする、
一流の喜劇役者・お笑い芸人が活躍する、
土曜お昼の『吉本新喜劇』を毎週楽しみにしているわけですから、
あの頃と
なんら変わっていません。

やっぱ、
僕の精神年齢、10代で止まってるンですよね。・・・実感(苦笑)。

MJ号
マルサン製、全長約26センチ。 
  色焼けによって、
機体後部のシールの絵柄がほとんど消えてしまっていますが、
そこがまたいいンですよねぇ・・・。
時の経過を感じさせる妙味がありますし、
本体の、
すべて手塗りで行われていてる塗装の味わいも相まって、
なんだか、
ほっこりと、やさしくノスタルジーに浸らせてくれるンです。
アンティークソフビに興味の無い人には解ってもらえないかもしれませんけど・・・。
   
  造形は、
昭和のソフビにしてはリアルな出来ですが、
怪獣と違い、メカは生き物ではないので、
可愛らしくデフォルメする必要も無いですし、
迫力の裏側にある弱さや哀しみなんてのもありませんので、
円谷プロから提供された資料に基づき、
只々、忠実に、テレビに登場する実物を玩具化したものと思われます。
ソフビに限らず、
プラモデルなんかもそうで、
当時のMJ号のオモチャは、どれもカッコいいですからね。 
 
  なので余計に、
シールの色褪せた感じや手塗りによる塗装の温もりが “味” として際立つのかもしれません。 
  それはまるで、
ふと、妻の寝顔を見て、

 しわが増えたなぁ・・・、

って気づいた時の、しみじみとした感覚に似ています。

若くて綺麗だった頃を身を持って知っているだけに、
老いた哀愁を実感、
と同時に、
自分と一緒に人生を生きてきてくれた感謝も湧いてきて、
その、しわが増えた妻をより愛おしく想う・・・、
そんな気持ちです。


とはいっても、
僕には一緒に人生を生きてきてくれた妻なんていないので、
あくまでも想像ですけどね(苦笑)。
 
 
  まぁ、でも、
妻がいてもいなくても、
こんなカッコいい万能戦艦に乗り込んで、
空を飛び、海に潜り、悪者をやっつけるMJ隊員に、
心底憧れた幼い日の熱い思いが、
このソフビを手に取り見つめる度に甦って胸がジーンとなる事に、変わりはありません。
思い出の空間を飛び回る、まさに “夢の乗り物” です。 
 
 
ただ、
こういうゼンマイ走行のオモチャは、
子供の頃の僕は、あまり好きではありませんでした。

夢を見るのにギミックが邪魔、
と言いますか、
なんだか、
無限であるはずの空想が、
その決められた動きによって制限される気がして・・・。 
 
  特に、これはMJ号なのですから、
当時、もし買ってもらえたら、
地面を走らせて遊ぶよりも、
銭湯に持って行って、
冨田勲さん作曲の、あの主題歌をイントロから口ずさみながら、
着水・潜水・離水のシーンを再現したい、
と思ったはず。
金属のパーツが付いていては、それが叶いませんからね。 
 
   
 
・・・そうだ!
時々、ゼンマイのギアボックスがゴソッと無くなってしまっている欠損品のMJ号ソフビを
見かける事がありますが、
今度見かけたら、コレクションとは別に、“お風呂で遊ぶ用” として買おうかな。

・・・ん?
精神年齢、10代以下か?(笑) 



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