真水稔生の『ソフビ大好き!』


第161回 「ダメだ、こりゃ」  2017.6

先月の中頃、
朝日新聞に掲載された或る投稿が発端となり、
ネット上で、

 喪服で飲食店に入るのはマナー違反か?

という議論が巻き起こりました。

投稿の内容は、

 投稿者(70代の男性)が、
 親族の告別式が終わった後、
 喪服姿のまま、
 近くの寿司屋に立ち寄ったところ、
 店長から異様な視線を向けられ、
 不審に思いながらも食事を終えて店を出た途端、
 店内から、

  「塩をまいておけ!」

 と、その店長が怒鳴っている声が聞こえた、
 
というもの。


・・・何なのでしょう?
こんな寿司屋、本当にあるンでしょうか?
信じられません。

寿司屋の店長ともあろう人が
“通夜振る舞い” や “精進落とし” を知らないはずがないので、
喪服を着た客が寿司屋でこんな目に遭うなんて、
常識では考えられない事です。

ってか、
来店客に対して、
睨みつけたり、怒鳴り声をわざと聞かせたり、塩をまいたり・・・、
そんなの、
客商売として、そもそもありえません。

『ドリフ大爆笑』の
“もしものコーナー” じゃあるまいし、
実在する寿司屋の話とは、到底思えないのです。

投稿者の男性の思い違いじゃないンですかね?
そうであってほしいです。

でも、
こんな寿司屋が現実に存在して、
投稿者の男性がされた事が事実なら、
天国のいかりや長介さんも、
下界を見下ろしながら、

 「ダメだ、こりゃ」

と、本気でつぶやいた事でしょう。

ただ、
番組と違って
大爆笑とはならないどころか、誰一人として笑いません。

 喪服姿で寿司屋に入ったら
    店の人に嫌がられて塩をまかれた、

なんて話、洒落にはなりませんから。
嘆かわしいだけです。

でも、
なんと、驚く事に、
この寿司屋の店長の行為を、非としない人がいるンですよね。

冒頭で述べたように、
この投稿が発端となって
賛否両論の議論が巻き起こりましたので、

 喪服姿で寿司屋に行った投稿者の方が悪い、
 喪服姿で飲食店に行くなんてマナー違反だ、

と主張する人が、世の中に何人もいたわけです。

思わず、

 「は?」

と声が出てしまいました。
もう、嘆かわしいのを通り越して、脱力してしまうような意見です。

 マジで言ってるの?

って思いました。

その人たちは、

 喪服姿で飲食店に入ってはいけない、

なんて素っ頓狂なマナーを、
いったい、どこで誰から教わったのでしょうか?

いや、仮に間違って教わったのだとしても、
ちょっと考えれば、
そんなマナーはおかしい、って自分自身で気づくはずですから、
そのまま信じ切っちゃってるのが、不思議。
理解不能です。
ネット上における匿名の意見ゆえ、
いたずら半分で無責任な事を言っているとしか思えません。

だって、

 喪服姿は縁起が悪いので
     店やほかの客に迷惑がかかる、

というのなら、

 告別式の帰りに、
 飲食店に入るのだけがNGじゃなくて、
 コンビニに寄ってタバコやコーヒーなどを買うのも、
 ガソリンスタンドで給油するのも、
 バスや電車やタクシーに乗るのも、
 何から何まで全部NG、

って事になるじゃありませんか。

 自宅と告別式会場間の移動は
          テレポーテーションで行え、

とでもいうのでしょうか? 馬鹿馬鹿しい。

だいたい、
喪服を着た人を見かけたら、

 あぁ、誰か亡くなったんだなぁ・・・、

って思って、
遺族や近親者の人たちの心痛を察し、
亡くなった人の冥福を祈り、心の中でそっと手を合わせるものでしょう。
それを、
縁起が悪いといって忌み嫌うなんて、

 人としてどうなの?

って思います。
その喪服の人にも、亡くなった人にも、失礼じゃありませんか。

自分の身内に不幸があった際に、
喪服を着ているから、と
他者から邪険にされたらどう思うか、
我が身に置き換えて考えれば解るはずです。

そもそも、
なぜ喪服を縁起が悪いと思うか、っていうと、
喪服を着た人と遭遇したら我が身に災いがふりかかると思ってる、からですよね?
って事は、
見ず知らずの故人から祟られたり呪われたりする事を恐れてる、
って事ですから、
嘲笑してしまうほど低劣で歪んでますよ、死生観が。
幼稚すぎます。

人は、死んだら悪魔にでもなるンですか?
喪服を着てる人は、その悪魔の使いなンですか?

いかりや長介さんでなくても、

 「ダメだ、こりゃ」

って、つぶやきたくなります。


・・・さて、
そんな悲憤慷慨の中ではありますが、コレクションの紹介であります。

実は、この投稿にまつわる一連のニュースを知った時、
パッと、2人の怪人が、
僕の頭に浮かンだのです。
なので、今回はその2怪人のソフビを紹介します。

  まずは、こちら、
カビビンガ

ポピー製、全長約12センチ。

『仮面ライダー』第44話「墓場の怪人カビビンガ」に登場した、カビの怪人です。
人間を養分にして育つ殺人カビを培養して町にばらまき、大混乱を起こす事が使命。 

放映時の商品ですが、
顔の造形がテキトー過ぎて、
実物のカビビンガよりも不気味です(笑)。
  物語の冒頭で、
お墓参りをしていた男性に
カビビンガが殺人カビを投げつけるシーンがあるのですが、
当時それを観て、

 なんてひどい事をするんだ・・・、

と唖然とした事を憶えています。

罪もない人を襲うのはショッカーの常ですが、
そのシーンは、
襲われたのがお墓参りをしている人でしたので、
自分がお墓参りしている時の事を思い出し、
そんな、
清浄で繊細な心でいる最中に、
横からカビなんかを投げつけてくるカビビンガの無神経さ・非道さが、
幼心にリアルに響いたンです。 
  投げつけられたカビは殺人カビですので、
当然の事ながら、
そのお墓参りをしていた男性は養分を吸われて死んでしまうわけで、

 なんてイヤなヤツで、なんて悪いヤツなんだ・・・、

と、カビビンガに怒りと憎しみを強く覚えました。

そのお墓参りをしていた男性は、
確か普通の背広を着ていて、喪服姿ではなかったと思いますが、

 お墓参りの最中にカビを投げつけられた、

って事が、

 告別式の帰りに塩をまかれた、

って事と僕の心の中で重なったンです。

しかも、
このカビビンガの回の翌週がナメクジラの回だった事も憶えていたので、
ナメクジから “塩” も連想し、

  罪もない人(それも、身内の方を亡くした悲痛な人)が
  悪意で塩をまかれた、

という事から、
カビビンガとナメクジラの2怪人を思い出した、というわけなンです。 




 
カビビンガの回の翌週、
『仮面ライダー』第45話「怪人ナメクジラのガス爆発作戦」に登場した、
軟体怪人ナメクジラ
ポピー製、全長約12センチ。

これも放映時の商品ですが、
カビビンガ人形とは打って変わって、
顔の造形も、昭和のミニソフビにしては丁寧に作ってあるし、
お腹や腕の筋や下半身のモールドなど、
ちゃんと実物に似せようとした作り手の意思が感じられます。       
               
           
ナメクジの怪人ゆえ “塩” を連想したものの、
実は、このナメクジラ、
狭い隙間も通り抜けるナメクジならではの能力を有するだけで、
“塩に弱い” という特徴は、劇中一切語られません。

せっかくのナメクジモンスターなのですから、
海に落ちて海水の塩分で溶解してしまった『ウルトラQ』のナメゴンみたく、
子供でも知ってるナメクジの駆除方法を活かしたラストにした方が
面白かった気もしますが、
ライダーキックとライダー二段返しの連続技で爆死、
という、見応えのある派手な最期でしたので、当時は観てて大満足でした。
                                     





 ・・・あぁ、懐かしい。



喪服に対する偏見や失考に嘆いて書き始めた今回の原稿ですが、
こうやって、
ソフビを通して子供の頃を思い出すと、
やはり、
てき面に気持ちが穏やかになりますね。
コレクションの癒しの力を、今、改めて感じております。


それにしても、

 喪服で飲食店に入るのはマナー違反か? 

なんていうネット上の話題からも
ショッカー怪人を瞬時に思い出すなんて、
僕の頭の中は、
どんだけ “仮面ライダー” に支配されているのでしょう?
我ながら呆れてしまいます(苦笑)。

幼稚すぎると嘲笑され、

 「ダメだ、こりゃ」

とつぶやかれるのは、僕の方かもしれませんね(笑)。 




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