真水稔生の『ソフビ大好き!』


第126回 「愛しの最高傑作」  2014.7

子供の頃、
どうして『キングコング対ゴジラ』は『ゴジラ対キングコング』じゃないのか・・・、
って考えた事がありました。

ゴジラシリーズの映画にキングコングが出る、
つまり、
ゴジラが主役でキングコングがゲストなわけですから、
『ゴジラ対ヘドラ』とか
『ゴジラ対ガイガン』とか
『ゴジラ対メカゴジラ』とか、
そういった他作品と同様に、ゴジラの名前が先に来なければおかしいではないか、と。

ほかにもう1本、
『モスラ対ゴジラ』も、ゴジラの名前が先に来ないものでしたが、
こちらは、
モスラが善役でゴジラが悪役だから、とか、
最後はモスラが勝つから、とか、
そのタイトルの理由を
幼い勝手な想像ながらも見つけられていたので、納得していました。
でも、
『キングコング対ゴジラ』の方は、
どちらが善役でどちらが悪役ってわけでもないし、
バトルの結果は引き分けだし、
どれだけ考えてもそれらしい答えが得られず、

 日本が戦争でアメリカに負けたからじゃないか?

なんて思って、
不快に感じたりもしたものです(笑)。


けれど、今では、

 『キングコング対ゴジラ』って、素敵なタイトルだなぁ・・・、

って思っています。

だって、美しいじゃないですか。
怪獣の大先輩に対する礼儀でしょ? これ、って。

キングコングの誕生が1933年であるのに対し、
ゴジラの誕生は、昭和29年(1954年)。
たとえ、日本で製作されるゴジラシリーズの映画と言えど、
先駆者への敬意を忘れてはいけませんからね。
そういう精神が、
素敵で美しいと思うのです。

円谷英二さんだって、
『キングコング』を観て衝撃を受けたからこそ
特撮の世界を志す事になったわけですから、
キングコングあってのゴジラ。
名前を先に配置するのは当然の事だったと思います。

物心付いた頃には
怪獣映画が当たり前のように何本も存在していた、という世代の僕ゆえ、
幼い頃は、

 “ゴジラが、あのキングコングと闘う”

っていう特別な価値が解らなかったし、
『キングコング対ゴジラ』が
怪獣同士の闘いをエンターテイメント化した初めての映画だった事も知らなかったので、
大人になってから
タイトルのそういった意味合いを理解して、ますます怪獣映画が好きになった次第です。

         


というわけで
今回のテーマは、『キングコング対ゴジラ』。

この映画は、
昭和37年に東宝創立30周年を記念して作られた、ゴジラシリーズ第3作目。
観客動員数は1,255万人を記録しました。
今日に至るまでの
日本で公開されたすべての映画の中で、
10本の指に入るか入らないか、という驚異的な数字であります。
ゴジラ映画(≒怪獣映画)の中では、もちろん、ぶっちぎりの1位。
そして、
それだけの大ヒットになった事に大いに頷ける、
実に見応えのある作品であり、
怪獣映画の最高傑作だ、と僕は思っています。

巧みに伏線が張り巡らせてある優れた脚本、
次から次へと見せ場が訪れる贅沢な特撮、
そして、
キングコングを自社の広告に使おうと企画する、
製薬会社のエキセントリックな宣伝部長を演じる有島一郎さんを筆頭に、
テンポのある小気味いい芝居で物語を引っ張る豪華役者陣・・・、
何度観ても、飽きる事はありません。
特撮ファンならずとも、

 怪獣映画って面白いなぁ・・・、

と思える作品ではないでしょうか。

公開時は、日本映画の絶頂期。
東宝だけでも、
大看板だった黒澤明監督の作品はもちろんの事、
森繁久彌さんの社長シリーズが最盛期を迎え、
クレージキャッツの無責任シリーズや
加山雄三さんの若大将シリーズがスタートして一世を風靡、
さらには、
文芸作品や戦争映画なども軒並み大ヒット連発・・・、と
凄まじい時期でした。
そんな頃の映画なので、
作品そのものに、なんだか躍動感があります。

 もう、あんな時代は来ないでしょうねぇ・・・、

なんて言いながら、
その時はまだ、
僕は生まれていないンですけどね(笑)。

先述のとおり、
物心着いた頃には怪獣映画が満ち溢れていた世代の僕ですから、
『キングコング対ゴジラ』を観たのは、
昭和45年、
『東宝チャンピオンまつり』におけるリバイバル上映で、になります。

その当時は、
“日本映画の絶頂期” とは正反対の、“日本映画の斜陽期”。
東宝も、深刻な興業不振に喘いでいた頃です。
しかも、
特撮ファンの方なら御存知のとおり、
この『東宝チャンピオンまつり』で上映されたものは、
無残にもオリジナル原版にハサミを入れて編集してしまった短縮版。
東宝の黄金時代に
オリジナル原版の『キングコング対ゴジラ』を観た方々からは
馬鹿にされて鼻で笑われそうです。

けれど、
それでも僕は、
映画館でムチャクチャ興奮したものです。
2大怪獣の対決シーンのみならず、
先述した有島一郎さん演じる製薬会社の宣伝部長が、
キングコングではなくてゴジラばかりをマスコミが取り上げている現状を
怒り嘆いているシーンなんかも、
印象強く憶えています。
“胸が躍る” という感覚を実感しながら、スクリーンに釘付けでした。

映画界の諸事情も
お話の細かな内容もわからない幼稚園児でしたが、
日本映画の絶頂期に作られた映像の “脂ぎった勢い” を、ちゃんと感じていたのです。

脚本と演出の完成度の高さや、
役者陣の演技の面白さを理屈で認識し、

 こんなに優れた映画だったのか、

って感動したのは、
もちろん大人になってからですが、
子供の頃に映画館で興奮した実体験が自身に有るのと無いのとでは、
その感動の度合いも違っていたと思いますので、
“チャンピオンまつり” の存在には、とても感謝しています。

ただ、
原版にハサミを入れてしまったおかげで、いまだに完全なる復元版での上映が出来ない、
という犠牲の上に成り立っている事なので、
怪獣映画のファンとして複雑な心情ではありますが・・・。

  (現在、流通しているDVDなどは、
  カットした部分をレンタル上映用の16ミリフィルムから継ぎ足し、
  今日の高度なデジタル加工によって、色調を統一して対処したものだそうです)



また、
この『キングコング対ゴジラ』は、
僕が幼稚園に通っていた頃に脱腸を患っていた事と関係した思い出があり、
個人的に特別な映画でもあります。
以前、第34回「幸せの青い鳥(ギャオス)」の中でも述べた事ですが、
その脱腸、
最終的には手術で治したものの、
最初の頃は、
通院して睾丸の部分に注射を打ってもらう、
という治療をしていました。
恐怖や痛みで、その注射の際には毎回大泣きしていた僕に、
或る時、母が、

 「今日、泣かなかったら『キングコング対ゴジラ』に連れてってあげる」

と言ったのです。
ずっと、「観たい、観たい」とねだっていた映画だったので、
僕は思わず飛び跳ねて喜びました。
でも、ダメでした。
僕はやっぱり泣いてしまったのです。

ところが母は、
映画に連れてってくれました。
よその子がしなくて済んでいる我慢を強いられて
毎回泣いている可哀想な我が子に、

 せめて観たい怪獣映画くらいは・・・、

と思ったに違いありません。
僕はそんな母の気持ちを身に沁みて感じて、
今度こそ泣かない強い子になろうと誓ったものです。

そのおかげで
次の注射の際には頑張って泣かずにいられて、
自分でも「これからは大丈夫だ」って自信が持てたのですが、
結局、入院・手術で治す事になり、
もう注射は打たれなくなってしまったので、
“泣かない強い子” を母に見せる事が出来たのは、その1回限りとなってしまいました。

 怪獣映画に連れて行ってくれたら、僕はこんなに変われるンだよ、

っていう絶好のアピールが、
その後何度も出来たはずなのに、残念でした(笑)。

そんな思い出のある愛すべき怪獣映画が、
先述したように
内容も興行成績も素晴らしい、歴史に残る傑作であった事が、
僕は、誇らしく幸せなのであります。

『キングコング対ゴジラ』、バンザーイ!


それでは、
キングコングの人形を、
新旧、紹介させていただきしましょう。
まずは、“旧” の方、マルサンのソフビから・・・。

     
       ジャイアントゴリラ マルサン製、全長約21センチ。 
          
      昭和40年代のはじめ、第1次怪獣ブームの頃に発売されていたソフビです。
      キングコングの人形として開発されながらも、
      版権が取得出来なかった為この商品名になったのは、ソフビコレクターの間では有名な話。
      でも、
      この圧巻の造形美には、そんな裏事情など吹っ飛ばされてしまいます。
      見て下さい、この腕、この足、このお尻・・・。

        マルサン、って凄いメーカーだったンだなぁ、

      って、改めて実感します。   
   
 



 


      僕は、
ゴジラが放射熱線を吐くのを見て驚いた時の
キングコングの表情が
なんとも愛くるしくて大好きなのですが、
この人形の顔は、それをまるで再現したかのよう。

そもそもキングコングは、怪獣と言えど、ただの巨猿。
口から火を吹く生き物なんか見たら、驚くのは当然の事です。
つまり、その愛くるしい表情は、リアルな反応がもたらした自然な表情。

怖い怪獣をただ可愛らしくアレンジしただけの人形では、
自然な表情は出せません。
デフォルメで愛嬌を持たせながらも、
ちゃんと怪獣の内面性を造形している人形だからこそ、
実物が劇中で見せる一瞬の表情に似てしまう奇跡が起きるわけです。

やっぱりマルサンの造形力は凄い。
   
 それにしても、
 いくら怪力の持ち主だからといって、
 ただの巨猿が、
 “口から火を吹く怪獣” などというとんでもない生き物と、互角に闘えるはずがありません。
 なので、
 高圧線に触れて帯電体質となり、
 落雷を受けて
 手から電気エネルギーを発せられる能力を得てリベンジ、って展開は、
 幼い子供にも解りやすい説得力があり、、
 巧いアイデアだなぁ、って改めて思います。
 
   
 ところで、
 子供の頃にこの人形を、
 オモチャ屋で見かけた記憶も
 友達や従兄弟の誰かが持っていたという記憶も、
 僕にはありません。
 存在自体を知りませんでした。

 僕が『東宝チャンピオンまつり』で『キングコング対ゴジラ』を観た頃はマルサンは倒産していたので、
 もうすでにオモチャ屋には置いてなかったか、
 あるいは、
 タグにも袋にも “キングコング” とは書いてなかったでしょうから、
 ただのゴリラの人形だと思ってスルーしていたか・・・、
 とにかく、
 この人形で遊んだ記憶が無いのです。
 コレクターになってから、
 これが事実上のキングコング人形である事を知った次第です。

 でも、
 子供の頃から
 これをキングコングと認識して、
 こうやってゴジラと闘わせて遊んでいた子、いたのかなぁ・・・。



続きましては、“新” の方、バンダイのリアルなソフビです。

       
      キングコング バンダイ製 ゴジラシリーズ、全長約19センチ。 
        
    平成5年(1993年)に、
    バンダイが
    “キングコング生誕60周年記念” の限定版権を取得して
    開発・販売したソフビです。
    唯一の『キングコング対ゴジラ』版キングコングの正規品ソフビとして、
    貴重な存在です。 



奇しくも、今年は、
ゴジラの方が生誕60周年。
ハリウッドで再び映画が製作され、今月、日本でも公開の運びとなりましたね。

もちろん劇場で観てきましたが、
とても面白かったです。
怪獣バトルはド迫力で文句無しだし、
家族の絆を描いた人間ドラマも、熱く、そして丁寧に描かれていて、素敵でした。
何より、
前作と違って、
“ゴジラ” に対する敬意が作品全体から感じられるので、
日本のゴジラファンとして好感が持てます。
恐怖、悲壮感、スター性・・・etc.
そんな、
恐竜ではない、怪獣・ゴジラの魅力が、しっかりとおさえてありました。
しかも、
音楽までもが、
ちゃんと伊福部サウンドを意識したものになっていたので、嬉しかったです。
やっぱ、
良いゴジラ映画を作るには、“敬意” が鍵を握るのであります。

『ゴジラ』のリメイク、
という観点で強いて言うなら、
核兵器の怖さ・愚かさを訴える、いわゆる “反核” のメッセージ性が、薄いかもしれませんが、
第2次世界大戦における原爆投下を
国民の半数以上が肯定・支持する国・アメリカが作る映画ゆえ、
そこは仕方ないのかな、って思います。
・・・ってか、
最初に “ゴジラ” から “反核” のイメージを消したのは日本なんですけどね。
皮肉にも、
アメリカの怪獣王を招いて撮った作品、そう、『キングコング対ゴジラ』で。
つまり、
『ゴジラ』だけが “ゴジラ” ではない、という事です。
チャンピオンまつり世代の僕としては、特にそう思います。

なので、僕は、
このハリウッドの新作ゴジラ、断然支持します。
面白いものは面白いのです。
そもそも、
“ゴジラ” なんていうスーパーキャラクターを使ってきちんと撮れば、
世界中で大ヒットするのは当然の事。
好評につき早くも次回作の製作が決定した、というニュースも頷けます。

それに、
今度は、ラドンやモスラやキングギドラも登場するとかしないとか・・・。
期待に胸が膨らみますね。

でも、
ハリウッドなのだから、
いっその事、
再びキングコングと闘うのも、面白いンじゃないでしょうか。
キングコングをも復活させてくれたゴジラに敬意を表していただき、
今度は

 『ゴジラ対キングコング』

ってタイトルで・・・(笑)。

           






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