真水稔生の『ソフビ大好き!』


第120回 「青空のように(追悼 大瀧詠一)」  2014.1

 「皆さん、あけましておめでとうございます!」

という新年の挨拶で始まる、
大瀧詠一さんのアルバム『NIAGARA CALENDAR』・・・、
大好きなレコードです。

『A LONG VACATION』や『EACH TIME』のような商業的成功は収めなかったものの、
このアルバムは、
音楽に対して深い愛情を持つ大瀧さんの
資質やセンスが堪能出来る、僕の中のミリオンセラー。
何回聴いても、
何十年聴き続けても、全然飽きが来ません。

その、間違いなく一般ウケはしない世界観(笑)は、
目先の利益や自身の名声などには目もくれず、
只々純粋に “研究と表現” に精力を傾ける大瀧さんの音楽活動の象徴であり、
また、そんなスタンスこそが、
僕が大瀧詠一という音楽家を崇拝する、いちばんの理由であったりもします。


その大瀧詠一さんが亡くなりました。
昨年末、12月30日の事です(享年65歳)。

たぶん、
ビートルズのレコードを聴いた回数より、
僕は大瀧さんのレコードを聴いた回数の方が多いと思います。
この世の中で
最も僕の生理に一致する、
とても心地よい音楽を作って下さる方でした。
また、
FMラジオの、
毎年恒例だった山下達郎さんとの新春ビッグ放談や
ライフワークとして最近取り組んでおられた『大瀧詠一のアメリカン・ポップス伝』なども
むさぼるように聞いていました。
日本のポップスの祖であり、
その偉大なる功績と
音楽・芸能に関する幅広い知識において
多くのミュージシャンや音楽関係者から尊敬され続けている大瀧さんの、
視点や思想に触れる事が、たまらなく楽しかったのです。

だから、
大瀧さんの新譜を聴く事も、
大瀧さんが出演されるラジオ番組を聞く事も、
もう一生出来ないのかと思うと、悲しくて寂しくてたまりません。
本当に残念です。

あまりに突然の訃報でしたので、
最初は驚きしかありませんでしたが、
年が明けて幾日が経った今、
こうやって実感としてこみ上げてくる悲痛に胸を責められ、
哀惜の念に堪えません。


ただ、
いつまでも悔やみ続けていたくない気持ちも、強くあります。
“死” は誰にでもやってくるものだし、
暗く沈んだ感情は、大瀧さんの音楽に合いませんから。
悲しみや寂しさに心が負けていては、
音楽で僕の人生を豊かにしてくれた大瀧さんに失礼というものです。

なので、
そういった僕の思いを、
この『ソフビ大好き!』で何かカタチに出来ないだろうか、と考えました。
大瀧さんを偲び、
大瀧さんに敬意を表し、
かつ、哀傷を昇華させられるような、
そんな内容のものを僕なりに表現したい、そう思ったのです。

そこで、ふと浮かんだのが、
冒頭で触れた、
大瀧さんの『NIAGARA CALENDAR』。

ファンの方には説明不要ですが、
その名の通りカレンダー形式のアルバムで、

 1曲目(1月)は『Rock'nRoll お年玉』、
 2曲目(2月)は『Blue Valentine's Day』、
 3曲目(3月)は『お花見メレンゲ』
            ・
            ・
            ・
 12曲目(12月)は『クリスマス音頭〜お正月』

と、各月のテーマに沿った曲が1年分12曲、順に収録されています。

オープニングの、

 「皆さん、あけましておめでとうございます!」

を聞くと、
今年からは大瀧さんがそんな新年の挨拶をする事も無いのか、と
また切なくなってしまいますが、
このアルバムは、
聴く度に、
“人生を楽しく生きよう” という思いを再認識させてくれる、僕の元気の素。

大瀧さんのご冥福を祈りつつ、
こんな愉快な名盤を作ってくれた大瀧さんに感謝して、
明るく元気よく、
これの “『ソフビ大好き!』版” を作る事に決めました。
題して、
ソフビ大好き!カレンダー(そのまんま(苦笑))。

ただ、
12ヶ月分を一気に綴ってしまうと、
さすがに量が多すぎて長くなってしまいますので、
4ヶ月分毎、3回に分けてアップしていこうと思います。
大瀧さんの魂の力を借りて、
寒い冬を乗り切り、晴れて清々しい春の青空を迎える・・・、
そんな気持ちで取り組みます。

それでは、
今回は、まず、1月から4月まで。


一月、睦月、JANUARY  

『ゴメスは天然色』

  大瀧さんが日本のポピュラー音楽の先駆者なら、
  日本の特撮テレビ番組の先駆者は、
  昭和41年の1月2日から放送が始まった『ウルトラQ』。
  この作品が、
  続く『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』・・・といったウルトラシリーズのみならず、
  すべての特撮テレビ番組の原点、と言えます。

  その記念すべき第1話に登場したのは、古代怪獣ゴメス
  48年前のお正月、
  この怪獣の出現から、すべての歴史が始まったのです。

     
     
マルサン製、全長約24センチ。 
 

     
 





ブルマァク製 スタンダードサイズ、
全長約24センチ。
   










ブルマァク製 ミニサイズ、
全長約10センチ。

  上の4体は、僕が子供の頃のゴメス人形。
  幼い子供が見ても泣き出さないように愛嬌を持たせていながらも、
  ゴメスという怪獣の怖さや迫力を
  決して軽視していないマルサンのデフォルメ造形の絶妙さが、
  ただ懐かしいだけでない優良な玩具として、僕を永遠に魅了します。
  そして、
  下の4体は、現在のゴメス人形。
  実物の姿を忠実に再現したこのリアル造形もまた、絶対的なカッコよさで僕を魅了します。
  モノクロだった番組の映像に合わせた、
  “モノクロ塗装版” なるバージョン(向かって左下)もあって、そのこだわりぶりが面白いです。

       
       バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約18センチ。 
       

  劇中、
  古文書に描かれたゴメスの絵を見て、
  西条康彦さん演じる一平が、

   「このグロテスクなヤツは?」

  と、古生物学に詳しい少年に尋ねるシーンがあり、
  僕はそれで “グロテスク” という言葉を知りました。
  でも、
  すぐさま母親に「グロテスクって何ィ?」と尋ねて
  返ってきた答えは、

   「気持ち悪い、って事」

  だったので、
  その時点ではピンと来ませんでした。
  こんなカッコいい怪獣を指して「気持ち悪い」だなんて、
  一平さん(大人)ってセンス無いな、と思ったものです(笑)。



  放映45周年を迎えた平成23年には、
  『総天然色ウルトラQ』として、
  モノクロだった本作を着色したDVDとBDが発売されましたが、
  僕と同世代なら、
  カラーになったゴメスを見ても、それほど驚かなかった人も多いのではないでしょうか。
  大人の目には白黒テレビに映ったグロテスクなゲテモノでも、
  幼い僕らには、最初から、
  強烈なまでに鮮やかで美しい夢の生き物に、ゴメスは見えていたはずですから。

       



   


 ニ月、如月、FEBRUARY

『恋するダルニア』

  春の季語に、“猫の恋” というのがあります。
  春、と言っても、
  厳密には初春(2月)の季語です。
  そんな時節になると、
  さかりのついた猫の声が聞こえてきますが、
  猫にとって2月は、まさに恋の季節なのでしょう。

  ただ、
  子供の頃、
  初めてあれを聞いた時、僕はそれが猫の鳴き声だとは思いませんでした。
  まるで常軌を逸しているようで、
  普段の鳴き声とは全然違いますからね。

  雄猫が牝猫に求愛しているのだそうですが、
  脅しているような迫力の中に、どこか甘えているような響きもあり、
  猫の世界も人間の世界と同じで、
  恋した男は
  理性がどこかへ吹っ飛び、冷静さを欠き、おかしな感情になってしまうのでしょうか?

  ウルサイと感じてしまう時もありますが、
  なんだか身につまされて(笑)、
  季節を感じるだけでない、妙な味わいがそこにはあります。


   猫耳が可愛い、花の精・ダルニア
   『アクマイザー3』に登場した、女性アクマ族です。
         
   向かって左側の人形が全長約13センチ、
   右側の人形が全長約11センチ。
   メーカーは、
   どちらも、製造元がタカトクで、発売元がブルマァク。

  このダルニア、
  物腰や何気ない仕種に
  ちょっぴりエッチな香りが漂う可愛らしさがあり、
  それがなんともにチャーミングに感じられ、
  放映当時、
  小学校の高学年という、
  そろそろ異性に興味を持ち始める年頃だった僕の感受性を、妙に刺激してくれました。

  それに、
  アクマ族とは言え、
  卑怯な行為が嫌いだったり、
  ザビタン(主人公のヒーロー)に恋心を抱いていたり・・・、と
  好感度の高いキャラクターでしたので、
  アクマ族を裏切って
  途中から人間の味方になる事は最初から予想出来ました。

  恋するカレン、ではなく、
  恋する “可憐(かれん)”、な女性でしたね(笑)。


    猫の恋やむとき閨(ねや)の朧月

  松尾芭蕉の句です。
  つい今しがたまで騒がしく聞こえていた、求愛する雄猫の声が止んで静寂が戻ってきた際、
  ふと気づけば月明かりが部屋に差し込んでいる・・・、
  そんな情景を詠んだものだそうですが、
  芭蕉さんも、猫に刺激されて人恋しくなったのでしょうか?(笑)

  そんな、なんとなく孤独を感じる淋しい夜には、
  このソフビを肴に熱燗でもやりながら、僕も一句ひねってみようかな。
  幼い頃ダルニアに抱いた、淡い恋心を思い出して・・・。


 三月、弥生、MARCH   

『すこしだけおかしく』

  木草弥や生ひ月(きくさ いや おひ づき)・・・。
 
  3月は、
  草木がいよいよ生い茂る、という月ですから、
  植物の怪獣で行きましょう。
  
 
   超巨大植物獣・クィーンモネラ
    バンダイ製、全長約13センチ、幅約25センチ。
    セット売り(商品名:ティガ&ダイナ ファイティングバトルセット) の中の1体。

  平成10年の3月に公開された映画、
  『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』に登場。
  植物が進化した知的生命体であるモネラ星人が複数集まり、
  彼らが宇宙船として使用していた宇宙生物・モネラシードと同化・融合した怪獣です。

  超巨大、というだけあって、
  身長が、
  258メートル、と
  ティガやダイナの約5倍もある設定でしたが、
  セットになっている人形4体を並べると、
  ティガやダイナの方がクィーンモネラより背が高いです(笑)。
  向かって左から、ウルトラマンティガ、ウルトラマンダイナ、モネラ星人、クィーンモネラ。

  実物の姿に忠実な造形のソフビなのに、
  大きさの対比まではリアルな再現が意識しきれていない、という、
  そのちょっとだけ残念な感じが、
  造形がカッコいいだけに、
  余計に気になる、というか、妙に滑稽に映ります。
  でも、
  きっと、それで良いンだと思います。
  オモチャの造形がデフォルメからリアルへと移り変わり、
  怪獣映画にCGが使われるような時代になっても、
  子供がソフビ人形を手に取り遊ぶ際にはやっぱり想像力が必要、って事ですから。


四月、卯月、APRIL   

『ほらふきマーチ


  大林宣彦監督の映画に、『四月の魚(ポワソン・ダブリル)』という作品がありました。

   高橋幸宏さん演じる、
   有名女優の夫にして売れない映画監督、という男が、
   以前撮影で訪れて世話になった南の島の酋長から

    「日本に行くので、4月1日にお宅に立ち寄る」

   との手紙を受け取り、
   友情の証として妻を一晩提供する、というその島の風習に合わせるため、
   開放的なセックス観を持つ若い女性(妻の替え玉)を用意して迎える、

  というコメディでしたが、
  来日する南の島の酋長を演じていたのが丹波哲郎さんで、
  紹介されたその若い女性を一目見て気に入り、
  “この女を今晩抱ける”
  という期待の中、
  デレデレ・イチャイチャしながらフランス料理の接待を受けるシーンは、
  演技やストーリーに関係なく、
  只々、丹波さんが “地” で楽しんでいるように見えて、
  思わず吹き出してしまった記憶があります。
  とても印象的でした。

  そこで、
  その、丹波さんが演じた南の島の “酋長” に因んで、
  怪獣酋長ジェロニモンのソフビを紹介しましょう。  


    バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)   
       
      昭和59年に発売された初版、
全長約20センチ。
         
     
 
              リニューアル版です。
        向かって左側の人形は
        このシリーズが袋売りで販売されていた時期(昭和61〜63年頃)の商品で、
        右側の人形は、
        このシリーズの価格が500円から600円に値上げされた平成3年の商品。
        どちらも、
        型は初版と同じのカッコいいものですが、
        全長約17センチ、とサイズが小さくなってしまって残念です。
         
       





平成6年発売のリニューアル版。
初版の頃から
ずっと不満だった “手抜き塗装(笑)”が、
改められました。
全長約18センチ。
         
       



平成19年発売の、新造形によるリニューアル版。
全長約18センチ。

カッコいいです。
 
         
        これは、
同じくバンダイ製の、
セット売りミニソフビの中の1体です。
全長約11センチ。

発売は平成18年で、
メフィラス星人やブラックキングなど、人気怪獣8体のセットでした。
 





  ジェロニモンが
  死んだ怪獣を超能力を使って生き返らせ、
  60匹の怪獣軍団が人類に総攻撃をしかけてくる、という
  『ウルトラマン』第37話「小さな英雄」は、
  ウルトラシリーズ史上最高の視聴率(42.8%)を誇る名エピソード。
  でも、
  “60匹の怪獣軍団が登場” と言いながら、
  実際にジェロニモンが生き返らせたのは
  テレスドンとドラコとピグモンの3体に留まり、
  都合4匹の怪獣しか登場しない、という、
  詐欺みたいな(笑)回です(それでもムチャクチャ興奮したけどね)。

  まぁ、
  本放送の日付を調べると、
  3月26日、とありますので、
  1週間早いエイプリルフール、とでも解釈して、許しましょう(笑)。
  物語も良かったし・・・。


  ちなみにこれ↓は、僕が子供の頃のジェロニモン人形。

         



















ブルマァク製、全長約20センチ。
      ソフビの造形までもがエイプリルフール(笑)、ってくらい、
実物に全然似ていません。
酷いです。
もはやデフォルメの域を超えてますので、
“デフォルメ造形” ならぬ、“デタラメ造形”、といったところでしょうか。
子供の時、
オモチャ屋の店頭で見かけても一切欲しいと思いませんでした。

       

だけど、
第27回「名作ドラマの迷作人形」でも述べたとおり、
今では、
このデタラメさが放つ、笑ってしまうような哀しみがたまらなく愛しく、
超お気に入りの人形になっています。

ソフビの魅力は、奥深く、不思議なものなのであります。

そういえば、
“四月の魚(ポワソン・ダブリル)” って、フランスでいう “エイプリルフール” の事。
ジェロニモンはこの映画と
“酋長つながり” であると同時に
“エイプリル・フールつながり” でもあるのです(笑)。

    エネルギッシュな幸せに満ちたこの顔が、
丹波さんが演じた、
若い女性をあてがわれてゴキゲンな酋長の
スケベオヤジ丸出しの笑顔に、
なんとなく見えなくもない(笑)。


“ソフビ大好き!カレンダー”、今回はここまで。
こんな感じで、
大瀧さんの遺した名曲たちをリスペクトしつつ、次回は5月〜8月を綴ります。

また、読みに来て下さいね。よろしくです。
ではでは。

つづく

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