真水稔生の『ソフビ大好き!』


第10回「僕が愛したウルトラセブン」 2004.11

『ウルトラセブン』・・・。
円谷プロ・ウルトラシリーズの最高傑作、
いや、日本の子供向けテレビドラマの最高傑作、と呼んでも異論は無いだろう。

“子供向け” とは言っても、
番組の内容は、ソフビ怪獣人形で遊んでいた僕ら子供にはちょっと難解な部分もあったが、
大人になってから見直してみて、
その重厚で深いストーリーや芸術性の高い演出に、誰もが感服した事だろう。
僕らはとっても高品質なテレビドラマを観て育ったのだ。

 ウルトラセブンが地球人を守るために宇宙人を殺すのは正義なのか?

そんな葛藤や迷いと戦いながらチーフライターをつとめた金城哲夫氏をはじめとする、
脚本家や演出家の方々の
鋭い感性と異質なセンスが生み出した独特の世界観は実に素晴らしく、
月日がどれほど経っても決して色褪せたりしない。

昭和42年のテレビドラマを今観ても古臭さを感じない、というのは凄い事だ。

ウルトラホークやポインターに代表されるメカのデザインや特撮もお洒落でカッコよかったし、
とにかくイカした番組だった。

予算が足りなくて怪獣が登場しない回も何度かあったが、
僕にはそれがまた魅力的に映った。
大人の世界をのぞいたような気がしてワクワクしたからである。

『怪奇大作戦』や『マイティジャック』など(つまり、怪獣が登場しないドラマ)を、
心ときめかせながら観る事が出来たのも、
そんな『ウルトラセブン』の怪獣が登場しない回に惹かれた思いがあって、
実写ドラマというものが大好きになっていたからかもしれない。

嘲笑われるかもしれないけど、
僕はいまだに、
隣の家に住んでいるのは宇宙人じゃないだろうか、とか、
夜遅く帰宅する時、ドアを開けたら家族に「どちらさまです?」って聞かれやしないだろうか、とか、
真剣に考えてドキドキしたりする。

セブンや怪獣たちからだけではなく、
ドラマそのものからも、強烈な印象を僕は幼心に受けているのである。
    
また、
そんなシリアスなSFタッチの雰囲気の中、
ほのかに香るダンとアンヌの恋愛も、
この作品が根強い人気を誇る要因のひとつだろう。

二人の関係がはっきりと描かれたシーンは多くはなかったけど、
アンヌがダンの事を好きなことくらい、ソフビ怪獣人形で遊んでいた僕ら子供にもわかった。
ダンの事を好きなアンヌが、僕は好きだった。

自分に子供が出来た時、女の子だったら絶対 “アンヌ” と命名しようと、
僕は子供の頃から決めていた。
最終回で、
ウルトラセブン(宇宙人)である正体がバレそうになり逃げ出して行方不明になったモロボシ・ダンを
見つけ出した時、アンヌは、

 「なぜ逃げたりなんかしたの?」

と笑顔で声をかける。
僕はあのシーンにものすごくシビれていた。
普通なら、怒って厳しい表情で逃げた理由を問いただすと思うのだけれど、
アンヌはあそこでやさしく微笑んでいる。
なんて素敵なんだろう。
アンヌが僕の永遠の憧れの女性になった決定的瞬間だ。

だから、
自分の娘にはアンヌと名付けようと、ずっと思っていた。
アンヌのような優しい女性になってほしい、という願いを込めて。

最初は妻や妻の両親から、

 「カタカナの名前はおかしい」

とか

 「怪獣番組からの引用なんてやめてほしい」

とか言われて反対されたが、
アンヌを愛する僕の情熱で説得し、最終的には了解を得る事が出来た。

生まれてきた僕の子供は2回とも男の子で、結局 “アンヌ” という命名は出来なかったけど、
“アンヌ” は世界一素敵な名前だと、今でも思っている。

そんなわけで、
単なる子供の頃見ていたヒーロー番組というだけではなく、
『ウルトラセブン』は、
僕の心に、初めてそして永久に、テレビドラマのおもしろさを植付けてくれた番組なのだ。
人生において多大な影響を受けた、それはそれは特別な作品なのである。


これは、
一番最初に買った記念すべきコレクション第1号、ブルマァクのゴドラ星人。
御存知の通り、『ウルトラセブン』に出てくる宇宙人である。

コレクションも、
やはり、『ウルトラセブン』から始まったわけです。

見学するだけのつもりでふらっと入ったアンティークTOYショップで見つけて、
懐かしさのあまり、つい購入。
嬉しかったので、帰宅後すぐに写真を撮ってみた。写真はその時のもの。
今から15年以上も前の事だ。

コレクターになる気などなかったので、
古いオモチャをひとつ机の上にでも飾っておいたらお洒落かな、なんて考えての購入だった。

だけど、毎日このゴドラ星人を見るうち、
子供の頃、ゴドラ星人よりもメトロン星人の方が好きだった事を思いだし、
どうしてもメトロン星人の人形が欲しくなった。

アンティークTOYショップだけでなく、
昔からやってるオモチャ屋さんを訪ねて、
当時の売れ残り商品が残っていないか倉庫の中を見せてもらったり、
各地の骨董市へ出かけたりして、
マルサンやブルマァクのソフビ怪獣人形を探す生活が始まった。

それはまるで宝探しにでも出かけるようなときめきを覚える日々で、
僕は夢中になった。
なかなかお目当てのメトロン星人には出逢えず空振りに終わる事が続いたけど、
それでもなんだかとても楽しい気分でいられた。
探すという行為自体が、夢の方角へ歩いていく事だったからだろう。

そして或る日、ついに見つけた。
出張で東京へ行った際(当時、僕はサラリーマンだった)、
帰りに立ち寄った、古本や廃盤レコードを売ってるお店に昔のオモチャも少し置いてあり、
そこでメトロン星人の人形を偶然見つけたのだ。
メトロン星人だけに幻覚かな、などと思いながら(笑)、僕は歓喜の中、購入した。

帰宅して早速飾った。
ゴドラ星人の隣りに、大好きなメトロン星人を置く事が出来て、
毎日仕事から帰って自分の部屋に行く事がとても楽しみになった。

ところが、
やがて、ゴドラ星人とメトロン星人がいて主役のセブンがいないのは
どう考えても変だと思うようになり、
今度はセブンの人形が欲しくなった。

或る古い商店街で見かけた、という友人からの情報のおかげで、
これはすぐに入手出来た。
ゴドラ星人とメトロン星人の間、
つまり真ン中に、セブンを置いた瞬間、胸の奥の方で何かが動き出す音がした。

僕の尊敬する美輪明宏さんが

 「赤は生命の色」 と

おっしゃってたけど、
あの時セブン人形の赤いボディからは、
まさに、活気にあふれた魂を生み出す強い波動のようなものが出ていた気がする。

『ウルトラセブン』に対する記憶や感情が、
赤い色に後押しされて、
僕の中に眠っていた収集癖を呼びさましたのだ。心が走り出した。

そして、
セブンがいるのにカプセル怪獣のウインダムやミクラスがいないのは淋しい、
という思いに駆られだし、
模型雑誌に掲載された広告などで知った東京や大阪のアンティークTOYショップに
電話をかけまくり、入手した。

何を何処に飾ろうか、どう並べようか、そんな事を考えながら自分の時間を過ごす楽しみを発見した。
 
すると次は、
やっぱエレキングとキングジョーはファンとして外せないだろう、
という思いが湧きあがり、またまた探し回った。
 
そんな調子で、
その後もどんどん怪獣が増えていった。

気がつけば、部屋は怪獣だらけ。
僕はソフビ怪獣人形コレクターになっていた。

買いたい洋服や欲しいCDを我慢して、
時には昼御飯を抜いて食費を浮かせてたりしながら、
薄給の中からお小遣いを絞り出し、コレクションの充実を図った。

無意識だったけど、
ゴジラ怪獣やウルトラマン怪獣を揃えるよりも
明らかにハイペースでセブン怪獣を揃えていった。

 やっぱ僕はセブンが好きなんだなぁ、

って、今しみじみ思う。

イカルス星人のバリエーション。
怪しい隣人は1人とは限らない。
この世は怪しいヤツばかり(笑)。
怪しい隣人、大集合!
写真ではわからないが、
アギラ人形には、
ソフビに硬質・軟質の2種類が存在する。
コレクターなら両方おさえないとね(笑)。


                            

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