真水稔生の『ソフビ大好き!』


第75回 「ザニカの花散るとき」  2010.4

今、昭和歌謡がブームらしい。
5年前に公開された映画『ALWAYS 三丁目の夕日』が大ヒットして、
“昭和レトロ” の人気が大いに高まったので、
その影響を受けての事だと思いますが、
現在の世の中に殺伐としたものを感じていて、
夢や郷愁のあるものをひと際愛しく思う人がたくさんいる、という事でしょうか?

僕はというと、
ブームが来ようが去ろうが、どんな世の中になろうが一切関係なく、
昭和の歌謡曲は大好きであります。

ただ、
ブームのおかげで、今はいろんな歌謡曲のCDが発売されるようになったので、
現在の風潮にはとても感謝しています。
以前、この『ソフビ大好き!』の中でも
奥村チヨさんや由紀さおりさんのCDを購入したエピソードを書いた事がありますが、
あんな素敵なアルバムが今でも手軽に聴けるなんて、本当に嬉しい事です。

やはり、
そういった奥村チヨさんや由紀さおりさんをはじめとする、
自分が生まれた年(昭和39年)以降の歌を好んでよく聴きますが、
生まれる前の歌も、結構好きだったりします。

高校の修学旅行のバスの中で、
三橋美智也さんの『石狩川悲歌』をウォークマンで聴いていたのを隣の席の子に気づかれ、
思い切り嘲笑された、なんて事もあったし、
彼女とドライブ中、
岡晴夫さんのベストアルバムをかけて、
『青春のパラダイス』をノリノリで気分よくテープと一緒に歌っていたら、
 「あなたとは価値観が違う」
と真顔で言われ、
それを理由に突然フラれそうになった、なんて事もありました(笑)。

まぁ、そんな感じで、
昔から好きで本当によく聴いていたので、
日々の暮らしは、バックで常に歌謡曲が流れている感じでした。

学生時代のお小遣いの使いみちも、
大半が歌謡曲のレコードの購入費だった気がします。
廃盤になっていたような古いレコードも、
中古レコード店や古本屋で見つけて買ってきては、とにかくよく聴いていました。

社会人になって
ソフビ怪獣人形の蒐集に目覚めてからは、
歌謡曲よりも惹かれるものに出逢ってしまったわけなので、
レコードを買わなくなったり、
ソフビ購入資金調達のため、持っていたレコードもすべて処分したりして、
趣味が、いや生活が、まったく変わってしまった感がありましたが、
それでもやはり、
音楽の好みまで変わる事はなく、
レコードからダビングしたカセットテープで、ではありますが、
やはり、毎日のように歌謡曲を聴いていました。

遠方にオモチャ探しに出かける際の車の中は
決まってキャンディーズかピンクレディーだったので、
今でも『あなたに夢中』とか『S・O・S』とかを聴くと、
歌が流行っていた当時よりも、
オモチャ探しに出かけていた時の光景やその時の気持ちの方が、先に思い出されてしまいます。
帰宅後、
長時間運転の疲れをいつも癒してくれたのは、松田聖子さんの歌声だったし、
収穫ゼロで帰ってきた日などは、
『ドリフのほんとにほんとにご苦労さん』をかけて、
独り、部屋でよく笑い飛ばしたものです(・・・明るいのか暗いのか、ようわからん性格だなぁ(笑))。

そういえば、
新人サラリーマン時代、
中日ビル(名古屋市中区栄)の裏辺りに
DanceHallっていうディスコ(今で言うクラブ)があったのですが、
そこには、
レゲェやハウス、あるいは当時流行ってたユーロビートなどに紛れて、
ザ・ピーナッツの『恋のフーガ』や
おニャン子クラブの『かたつむりサンバ』を
かけてくれるDJがいたので、
毎週末、踊りに出かけていました。

中学、高校、大学を通して、
歌謡曲を馬鹿にする友人が多かった事もあり、

「そらみろ、歌謡曲はカッコいいだろ!?」

って、心の中で叫びながら、溜飲を下げる思いで踊りまくったものです(笑)。

数年前の、
キャバクラ店員だった時も、
お店で弾き語りをする女性ピアニストの方に、
庄野真代さんの『飛んでイスタンブール』や
ペドロ&カプリシャスの『五番街のマリーへ』なんかをリクエストして、
洋楽のスタンダードナンバーの合間に無理矢理歌ってもらったりしていました。
さすがに、
青江三奈さんの『伊勢佐木町ブルース』をリクエストした時は断られましたが(笑)。

とにかく、歌謡曲が大好きで、愛し続けてきたのです。


なぜ、こんなに昭和の歌謡曲が好きなのか、改めて考えてみると、
自分が子供の頃から聴いていた音楽なので
馴染み深くて懐かしい、ってのはもちろんですが、
J−POPなどという、
今どきの、なんだかアク抜きされたようなものには無い、
濃厚と言うか、煮えたぎったと言うか、
時に毒気さえ感じるくらい過剰な “味” に
僕はとても惹かれるのだなぁ、と認識するに至りました。

ソフビと同じですね。

例えばマルサンの造形なら、
歪みや捻れによって実物の怪獣を変形させていますが、
その異常なセンスこそが、
怪獣という異形なるものの魅力を解き明かした術であり、
何十年もマルサンソフビが愛され続けている所以ですし、
実物の怪獣の着ぐるみを綺麗に再現する事に挑んだブルマァクの、
あの洗練された造形でさえ、
現在のバンダイのものと比べれば、その表現法は、勢い余る程アグレッシブです。

それに、ブルマァクは、
そんなに売れるとは思えない不人気なキャラクターまでも
続々とソフビ化していたので、
そういった意味でも “過剰” であり、時代を感じさせます。

僕はやはり、
そんな昭和ならではの濃い味・強い味がする、ソフビ怪獣人形や歌謡曲が大好きなのです。

ずっと以前にも述べた事があると思いますが、
例えば、
コロッケさんがやる野口五郎さんのものまねが、なぜ面白いのか、という事です。

本物の野口五郎さんは、
歌っている途中で
ハナクソをほじったり食べたり、なんて事は絶対にしません(当たり前です)。
つまり、
コロッケさんのやる野口五郎さんのものまねは、
もはや原形をとどめていないくらい、過剰な表現なわけです。
でも、
やっぱりあれは野口五郎さんに見えるし、
何回見ても飽きないし、
コロッケさん自身が野口五郎という歌手をいかに愛しているか、という事も伝わってきて、
すごく好感が持てます。
顔や声が野口五郎さんに似ている単なるそっくりさんのものまねよりも、
数倍楽しい “深い芸” であると、僕は思うのです。

あの表現の “妙” こそが、
マルサンやブルマァクに代表される昭和ソフビの魅力であり、
僕が愛する昭和歌謡の味わいであります。

きれいに上手に塗られたぬり絵よりも、
描いた人の魂の叫びを感じるような絵画が好き、って事ですかね。


ところで、
今回の「ザニカの花散るとき」というタイトルですが、
これには、特に意味はありません。
好きな怪獣の名前を、
西田佐知子さんの『エリカの花散るとき』ってヒット曲にひっかけただけです。
昭和歌謡について書こうと決めたものの気に入ったタイトルが思い浮かばず、
面倒くさくなって、
仮で付けておいたものをそのまま採用してしまいました。スミマセン(笑)。

  ※余計なお節介かもしれませんが、
   御存知ない方のために説明しますと、
   西田佐知子さんというのは、
   現在では関口宏さんの奥さんになられている方で、
   『エリカの花散るとき』のほかにも、
   『コーヒー・ルンバ』、『女の意地』、『アカシアの雨がやむとき』などのヒット曲で知られる、
   昭和の時代の人気歌手であります。
   西田さんが歌う清酒・菊正宗のCMソングは、
   現在でもラジオを聞いていると時々流れてくるので、
   西田さんをよく知らない世代の人でも、その魅力的な歌声は聴いた事があるかもしれません。

怪獣ザニカについて述べる前に、
まず、
この『エリカの花散るとき』という曲についてですが、
歌詞やメロディーの切なさが、
西田さん独特の、ビブラート無しで歌い上げる歌唱法に見事にマッチしていて、
とてもカッコよく、僕は聴くたびにシビれてしまいます。
特に、サビの、

 ♪エ〜リカぁ〜

に行く前のブレスは、実に魅力的です。
サビの直前だけあって、ほかの箇所のブレスよりも若干力が入るのですが、
それが、なんとも切なくて色っぽくて、
たまらんのです。
ノンビブラートでブレスまで持ってきている事もあり、
感情が素直に表現されている気がして、
悲しい恋に生きる女性の心情が、リアルな情感として、痛いくらい伝わってきます。
ただ息を吸い込んでいるだけの音が、
まるで心の泣き声のように聞こえるのです。

御存知無い方は、
ぜひ一度、聴いてみて下さいませ。
これぞ、昭和歌謡の真髄と言える1曲です。


・・・で、
ザニカについてですが、
ザニカは、
蟹座の星からやってきた、蟹の形をした怪獣です(笑ってはいけない)。
そして、
数あるソフビ怪獣人形の中で、
僕が最も可愛らしい人形だと思うのが、
このブルマァク製スタンダードサイズの、ザニカ人形(全長約19センチ)なのです。

マルサンの造形とは一線を画す、
“実物の着ぐるみに似せて綺麗にまとめあげる造形” をほぼ完成させていた時期でありながら、
そのシャープな造形力をまったく活かさない、
こんな長閑な造形(笑)の人形も世に送り出している所作は、
またしても、
“なんでもいいからやってしまえ” のブルマァクらしい粗雑さを感じるところですが、
このザニカ人形に限って言えば、
それだから残念、という感想は持てません。
むしろ、気が利いているくらいです。

なぜかというと、
登場エピソードや設定からくるザニカという怪獣のイメージが、
この人形の、
愛嬌重視の造形や
生き物としての生々しさを一切無視した彩色による、
オモチャとしての可愛らしさと、偶然にも一致しているからです。

可憐で、夢があって、
まるで “未来のペット” のようで、
僕はこの人形が愛しくて愛しくて仕方ありません。
こんな原稿書いてないで、このまま只々この人形を見つめていたいくらいです(笑)。

ザニカが登場する『帰ってきたウルトラマン』第23話「暗黒怪獣 星を吐け!」は、
宇宙を高速移動しながら
天体を吸収しては無限に大きくなっていく怪獣・バキューモンが登場する回。
ザニカは、
自分が棲んでいた星をそのバキューモンに呑み込まれてしまったため、
地球に逃げてきた怪獣です。

最初はザニカと戦う帰りマンでしたが、
ザニカは別に悪い怪獣ではない事に途中で気づいて、
宇宙へ飛び立ってバキューモンに戦いを挑みます。
そして、
バキューモンを倒し、呑み込んだ星を全て吐き出させるのです。
自分の棲む星が無事元に戻ったザニカは、帰りマンに感謝の一礼をして地球を去り、
めでたしめでたし、となります。

そんな、
大人になってから見直すと、思わず吹き出してしまうような内容ではありますが、
そもそもこの回は、
地球から何十光年、何百光年と離れている星々が消えたり元に戻ったりする様子が
リアルタイムで観測出来てしまう、という科学的にはナンセンスなお話。
SFドラマというよりは、
幼い子に読み聞かせする “おとぎ話” のような趣旨で描かれた作品なのです。

それに、
ザニカという怪獣が、
蟹座の星から来たから蟹とそっくりな姿をしている、という点や
蟹座(カニザ)を後ろから読んでザニカ、
なんていう解りやすいにも程がある名前になっている点からしても、
作り手の目線が
幼児に向けられていた事がうかがい知れます。

だから、
ザニカの人形が、
こんな、幼児がお風呂で遊ぶ玩具のような雰囲気に仕上がっている事が、
僕には、とても心地よく思えてしまうわけです。
昭和ソフビならではの醍醐味である、とも言えますね。

 目玉の銀色の塗装が枠からはみ出しているため、
 涙が溢れ出ているように見えます。
 自分の星をバキューモンに食べられてしまい、
 悲しくて泣いているのか、
 それとも、
 帰りマンのおかげで自分の星が無事に元に戻ったので、
 嬉しくて泣いているのか・・・。
 ジーッと見つめていると、
 なんだかこっちまで泣けてきてしまいます(笑)。


また、
そんなスタンダードサイズのザニカ人形とは対照的に、
ミドルサイズザニカ人形が、
実物の姿をしっかりと意識した、シビれるほどカッコいい造形(下の写真参照)になっているので、
ブルマァクの造形力の高さが疑われる事はありません。


全長約12センチ。
向かって右側の未塗装の人形は、
工場に残っていた未出荷品。

甲殻類ならではのキチン質の外皮の感じも、
見事に表現されています。
素晴らしい。


このように両サイズ並べれば、
ザニカという怪獣一匹で、
ブルマァク造形の
デフォルメ表現とリアル表現が
両方堪能出来ます。

・・・やっぱ、歌もオモチャも、昭和のものは味が濃いなぁ。

       

先日、事務所の先輩たちと飲んだ後、カラオケに行きました。
45歳の僕が最年少というメンバーで、
加齢臭が尋常ではない(笑)集団だったのですが、
歌うのも聴くのも昭和歌謡ばかりで、めちゃくちゃ盛り上がりました。

カラオケには、
実はあまり楽しいイメージがなく、プライベートでもあまり行った事がありませんでした。
20年近く過ごしたサラリーマン生活の中で、
接待とか社員旅行の宴会とか、
そんな嫌々参加しているような席で歌わされたり聴かされたりした印象が強かったし、
現在でも、
芝居の打ち上げの二次会なんかで “流れ的” に行く事はあっても、
そこにはいろんな世代の人がいるため、
よく知らない歌を何曲も聴かなければならないので、それほど愉快に感じた事がなかったのです。

なので、
気の合う仲間と知ってる歌ばかりを歌ったり聴いたりする事が、
あんなに楽しいものだとは思いませんでした(笑)。
太川陽介さんの『LUI−LUI』や
殿様キングスさんの『恋は紅いバラ』なんかも初めて人前で歌いましたが、
近年稀に見る爽快な気分を味わいました(笑)。


世の中がどんどん近代化し、合理化され、
洗練されていく中、
それについていけない、いや、ついていきたくない自分がいます。
懐古趣味、と言ってしまえばそれまでですが、
自分が好きなものを、自分が良いと思うものを、僕はもっともっと味わっていたいのです。

昭和、と言っても、
60年以上ある月日の後半、わずか20年余りしか、僕は体験していません。
戦争だって知りません。
なので、
僕が言う昭和、
僕が愛している昭和は、
歌番組や子供番組を見ながら夢見て過ごした時期の事であります。
つまり、
自分の生きてきた日々を愛している、という事。
歌謡曲やソフビ怪獣人形を愛する事の根底に、
この国のこの時代に “生” を受けた事への感謝の気持ちも、
僕の中に土台としてあるのだと思います。

だからこれからも、
僕は昭和の歌謡曲と昭和のソフビ怪獣人形を、感謝の気持ちを持って愛して生きていきます。
ザニカの花が散る時は、永遠に来ません。
僕の心の中で
その花はいつまでも、過剰なまでに咲き誇っている事でしょう。






☆☆☆☆☆☆ おまけ ☆☆☆☆☆☆

ふと、
昭和歌謡に関連して紹介したい平成のソフビもある事に気づいたので、最後に載せておきます。
歌謡曲は昭和に限りますが、
ソフビは平成のものも好きな僕なのです(笑)。

仮面ライダー(旧2号)
全長約17センチ、バンダイ製。
これは、
たのきんトリオのヨッちゃんこと、
野村義男さん率いるロックバンド・RIDER CHIPSが平成18年に発売したCDに、
特典として付いていたソフビ人形。
平成15年に発売された人形の、塗装を変更したものです(下の写真がその比較)。
お菓子のオマケのソフビ人形はよくありますが、
CDにソフビ人形が付いてくる、というのは珍しいです(笑)。
野村さん自身が仮面ライダーのファン(僕と同年齢なのだから当たり前)、という事で
実現した企画のようですが、
個人的には、
RIDER CHIPSのCDにではなく、
野村さんがアイドル時代に結成していたTHE GOOD−BYEのベストアルバムをCD化して、
それに付けてほしかったものです。
やっぱ、
昭和歌謡が聴きたいし、
THE GOOD−BYEは、
アイドルバンドという偏見から当時は正当な評価を得られなかったものの、
発表した楽曲のクオリティは、とても高いものだったと思うので。

って言うかさぁ、
なんでもソフビ付ければいいってモンじゃないよ、まったく。・・・買うけどさァ(笑)。



次は、
昨今の昭和歌謡ブームに一役買ったとも言える半田健人さんが演じた、
乾巧が変身する仮面ライダーファイズの、ソフビ。

向かって左側は、
京本コレクションのガチャポン人形版・京本セレクションの中の一品。
ファイズの必殺キックであるクリムゾンスマッシュを放つ直前の、
“溜め” のポーズが再現されていて、カッコいいです。
『仮面ライダー555』が放映されていた、平成15年の発売です。
全長約10センチ、バンプレスト製。

右側は、
同じくバンプレスト製で、コレクタブルズというシリーズの中の1体です。
フォンブラスターを持った、なんでもない立ち姿なのですが、
スマートでカッコよく、
いかにも平成ライダー、って雰囲気で、とても気に入っています。
全長約15センチ。


それにしても、
半田さんは僕より20歳も若いのに、
昭和歌謡に対するあの造詣の深さには感嘆するものがあります。
御自身はこんな近代的な仮面ライダーでしたが、
あんなに “昭和” が好きなら、
本心では、
“バッタの改造人間” になりたかったかもしれませんね(笑)。



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