真水稔生の『ソフビ大好き!』


第6回 「仮面ライダーソフビ讃歌」 2002.12

『仮面ライダー』放送当時(昭和46〜47年頃)に
バンダイ(ポピー)から発売されていた仮面ライダーやショッカー怪人たちのソフビ怪獣人形は、
スタンダードサイズが約40種、
ミニサイズが約60種、
キングサイズが約10種、
という、作品の人気の白熱ぶりを物語る驚異的な商品化数であったにもかかわらず、
その存在は地味である。

なぜなら、
ソフビ怪獣人形と言えば、
やはりマルサンやブルマァクから発売されていたゴジラ怪獣やウルトラ怪獣の人形を思い浮かべてしまうし、
『仮面ライダー』の玩具、という観点から見ても、
“光る!回る!変身ベルト” や “ポピニカのサイクロン号”、
あるいは、“カルビー仮面ライダースナックのおまけカード” という爆発的ヒット商品の陰に隠れて、
今ひとつインパクトに欠けるからである。

しかし、
『仮面ライダー』最大の魅力は、
なんといっても
仮面ライダーと怪人たちの血わき肉おどる、命をかけたバトルアクションの迫力であり、
その手に汗握る興奮を、最も熱く再現し、最も楽しく表現出来る玩具は、
何を隠そう、ソフビ怪獣人形たちに他ならない。
ソフビ怪獣人形こそ『仮面ライダー』玩具の王者なのだ。

今回は、
そんな仮面ライダーやショッカー怪人たちのソフビ怪獣人形の魅力を、
スタンダード、ミニ、キングのサイズ別に探ってみたいと思う。


人形バトルの真骨頂、スタンダードサイズ

ソフビ怪獣人形は、戦わせて遊ぶオモチャである。
テレビや映画の一場面を再現したり、オリジナルのストーリーや設定を考えて演出したり、
空想をふくらませる事でその楽しさは無限大に広がっていく。

ガメラ対ゴジラ や ゴジラ対ウルトラマン、といった夢のバトルを
わずか4歳か5歳で監督(笑)していた僕は、
仮面ライダーとショッカー怪人のソフビ怪獣人形で遊ぶ頃はもう小学生で、
幼い心ながらも、より完成度の高いストーリーや設定をその夢見る世界に意識し、
リアリティのある人形バトルを演出したい、と思うようになっていた。
そんな年頃だった。

“第2次怪獣ブーム” が別名 “変身ブーム” と呼ばれる事から考えても、
当時の数ある特撮作品の頂点が『仮面ライダー』であった事は明らかな事実である。
ゴジラやウルトラマンといった絶対的存在をおさえて
我らが仮面ライダーが天下をとったその最大の要因は、
ヒーローや敵キャラクターが等身大であった事による “リアリティ” にあったと思う。

改造されたとはいえ仮面ライダーも怪人も人間である。
恐竜の生き残りや身長が40メートルもある巨大な宇宙人よりも、感情移入しやすく、
しっかり実感出来たのは当たり前の話だ。

しかも、
その仮面ライダーや怪人を改造手術によって作り出した悪の秘密組織ショッカーは、
日常に根づいた恐怖で、とても魅力的だった。
あの頃、
雑木林の側を通ったり
団地の階段なんかで遊んでいたりした時に、
今にも戦闘員や怪人が現れそうな気がした事があるのは、僕だけではないだろう。
テレビの中のお話が絵空事である事くらいはわかっていたはずなのに、
僕ら子供たちは、
普段の生活の中にもショッカーを感じていたのだ。

デパートの屋上などで催されるアトラクションのショーにしても、
巨大であるはずの怪獣が
まわりの大人たちとたいして変わらぬ身長だったりして
ガッカリしたり馬鹿らしく思えたりする怪獣ショー(それはそれで楽しいけど)よりも、
テレビで見ていたものと全く同じものが目の前に現れる仮面ライダーショーの方が、
圧倒的に迫力があった。

当時、
サニーワールド長島という所で開催された仮面ライダーショーに連れていってもらった際、
駐車場の近くをかまきり男が歩いているのを目撃して、
心臓が口から飛び出そうになった。
思わず駆け寄ったはいいが緊張して声も出ない僕に、かまきり男はとても優しかった。
左手の大きなカマで頭を撫でてくれた。
嬉しいのか恐いのかよくわからなかったけれど(笑)、めちゃくちゃ興奮した。
思えば、
僕にとって、あれが生まれて初めての、テレビスターとの遭遇であった。
下はその時の写真。

   

ソフビ怪獣人形で遊ぶ際にリアリティを求めた僕が、
リアリティが魅力の『仮面ライダー』の世界に触れて、歓喜しなかったはずがない。
しかも
スタンダードサイズの人形は、
そんな僕の高ぶる気持ちに応えるべく、“リアリティ” の詰まった、最高にイカしたものだった。

ソフビ怪獣人形に一番適したキャラクターは、
実は、ゴジラでもウルトラマンでもない。
敵へのとどめは己が肉体をもって成す仮面ライダーこそが、
最もソフビ怪獣人形にふさわしい対象なのである。

人形同士を戦わせる場合、
火を吐いたり光線を出したりする事は、
キックやパンチの必殺技ほど生々しく表現出来ない。
人形バトルに必要なリアリティは、
仮面ライダーとショッカー怪人が最も色濃く持っていたのだ。

それに、
仮面ライダー人形のマスクが着脱可能、というのも実に良かった。
本郷猛や一文字隼人(特にヨーロッパから戻ってきた後(いわゆる新1号期)の本郷猛)の、
素顔のヒーローとしてのカッコよさやたくましさは、
他の特撮ヒーローに変身する主人公たちのそれを
はるかに上回る強烈な印象で、
『仮面ライダー』という作品から絶対切り離す事の出来ない素晴らしい魅力のひとつだったので、
仮面ライダー人形のマスクの下に人間の顔がある、という事実は、
これまた “リアリティ” という点でとても重要な意味を持っていた。

また、怪人たちの人形にしても、
当時のデフォルメ造形が、
時に哀しく、時に滑稽な、ただ恐いだけでないショッカー怪人の魅力を絶妙に表現していて、
とても胸がときめくものだった。
外形をただ実物に似せてカッコよさを追求する現在のソフビ怪獣人形よりも、
オモチャとしての温かみや可愛らしさを大前提につくられた当時のソフビ怪獣人形の方が、
キャラクターの持つ優美な内面が滲み出て、
実はリアルだったのかもしれない。

とは言ってもモンスターなのだから、ただ愛敬があるだけでは魅力が半減してしまう。
そのへんのさじ加減が難しいのだが、
当時の人形の造形はそれを見事なバランスで調和させ、
実物の魅力を120%引き出す事に成功している。
子供だった僕は、
それを理屈では理解出来なくても、痛烈に肌で感じていたのだろう。
だからこそ、あれほど人形遊びに夢中になれたのだと思う。

      

リアリティを維持しつつ夢見る力を育む『仮面ライダー』のソフビ怪獣人形スタンダードサイズ、
最高に素敵なオモチャだ。
強いて不満な点をあげれば、
新1号(腕や足のラインが二本線)の人形は商品化されているのに、
進化したその姿があまりにも感動的な新2号(赤手袋に赤ブーツ)の人形が商品化されていない事・・・ぐらいかな。


人形コレクションの真骨頂、ミニサイズ

愛すべき異形なるものたちの、あらゆる魅力を兼ね備えたスーパーモンスター、それが “怪人” である。
怪獣の持つ力強い迫力、
宇宙人(等身大の星人)の持つスマートな存在感、
妖怪の持つ身近に感じる恐怖と無気味さ、
ロボットの持つカッコいい未来感、
それら全てが、怪人にはある。
中でも、
我らが永遠のヒーロー・仮面ライダーと戦ったショッカー怪人たちは、そのパイオニアだ。

  顔の真ん中に六角形の目が三つ、
  という、子供でなくても戦慄してしまうショッキングなデザインの蜘蛛男、
  片手が蛇になっているコブラ男、
  繭の形態を経て幼虫から成虫へとその姿を変えるドクガンダー、
  人間を毒キノコのエキスに一週間漬け込むという、
  もしかすると体を切り刻む改造手術よりも恐ろしいのではないかと思えるような方法で
  誕生させられるキノコモルグ、
  一ツ目の人喰い花(怖すぎる!)ドクダリアン・・・etc.

書いてるだけで、ドキドキワクワク、そしてゾクゾクしてくる。
そんな魅力的な怪人たちが、
ミニサイズでは、冒頭で述べたように60種類近くも商品化されていて、
当時、夢中で集めたものだった。
机の上にミニ怪人たちを並べて、
映画『仮面ライダー対ショッカー』の名場面(地獄谷に勢ぞろいした復活怪人たち)を再現しては、胸躍らせた。

また、
商店街のオモチャ屋やデパートのオモチャ売り場だけでなく、
路地裏の駄菓子屋などでも売られていたような安価な人形だから、
入手しやすかった(買ってもらいやすかった)し、
スタンダードサイズの人形ほどしっかりと品質管理がなされていなかったが故であろう、
カラーリングのバリエーションなども豊富で、とても楽しかった。
当時、
僕が持っていたサラセニアンのミニ人形と
従弟が持っていたサラセニアンのミニ人形とでは
成形色の緑が微妙に違っていて、
お互いに、
相手のサアセニアンの方が “隣の芝生” のように綺麗な緑色でカッコよく見えたりしていた。

そして今コレクターとなって、
その二つのサラセニアンは成形色だけでなく大きさも微妙に違っていた事や、
その2種類の緑以外の成形色のサラセニアンも発売されていた事を知り、
たまらなくその妙味にシビれている。
どの怪人が何色存在するのか、正確な資料は誰も持っていない。
まだ僕の知らないカラーリングの人形があるかもしれないし、蒐集活動や研究は果てしなく続くロマンなのである。

僕ら子供たちを当時夢中にさせ、大人になった今もなお夢中にさせる、
コレクション性に富んだ『仮面ライダー』のソフビ怪獣人形ミニサイズ、最高に素敵なオモチャだ。
強いて不満な点をあげれば、
戦闘員の人形まで商品化しているのに、
ゾル大佐、死神博士、地獄大使の三大幹部のうち、なぜかゾル大佐の人形だけが商品化されていない事と、
『仮面ライダー』には欠かす事の出来ないFBI特命捜査官・滝和也とオヤっさんこと立花藤兵衛の人形が、
これまた商品化されていない事・・・ぐらいかな。


人形ディスプレイの真骨頂、キングサイズ

キングサイズの人形は、
大きい人形であるがゆえに、値段も650円と高価で、簡単に買ってもらえる代物ではなかった。

けれど、
近所のお金持ちの家の子はちゃんと持ってた。
その子の家へ遊びに行くと、
いつもキングサイズの仮面ライダー人形がピアノの上に飾ってあった。
ほかの人形はオモチャ箱の中にしまってあるのに、どうしてこれだけ飾ってあるのか尋ねると、
一言、「カッコいいから」。

そう、キングサイズの人形は、
スタンダードサイズの人形よりも造形的に高い完成度を誇る、カッコいい人形なのである。
時々、ピアノの上から降ろして
ブルマァクのジャイアントサイズの人形(たとえばレッドキングなんか)と戦わせて遊ばせてもらったけど、
買ってもらえなかった負け惜しみではないが、
大きい仮面ライダーの戦いはなんだか違和感があって、
どうもピンと来なかった(20年後、巨大化する仮面ライダーが本当に出現したけど(笑))。

だから、
そのお金持ちの家の子が、
「カッコいいから」という理由でキングサイズの仮面ライダー人形をピアノの上に飾っていたのは大正解で、
造形がカッコいいキングサイズ人形は、
戦わせて遊ぶより、飾って楽しむ事によって真面目を発揮する人形だったのだ。
中でもコブラ男人形の迫力は素晴らしく、
僕はこのお気に入り人形を、ちょうど巳年だったので21世紀の幕開けの年賀状に使用した。


仮面ライダーもショッカー怪人も、
僕らの心の聖域で気高く光り輝く存在だ。
プロポーション良くデフォルメされたキングサイズの人形たちは、そんな僕らの憧れの象徴なのである。

     

仮面ライダーやショッカー怪人に憧れる僕ら子供たちの気持ちを
美しく具現化した『仮面ライダー』のソフビ怪獣人形キングサイズ、最高に素敵なオモチャだ。
強いて不満な点をあげれば、
スタンダードサイズやミニサイズに比べて、極端に商品化数が少ない事・・・ぐらいかな。
トカゲロンやエイキングあたりがキングサイズで出てたら、さぞかしカッコいいものだったろうなァ。

仮面ライダーを超えるヒーローや
ショッカー怪人を超える敵キャラクターは、もう現れないだろう。
僕が熱弁するまでなく、
それは歴史によってすでに証明されている。
そして、
ソフビ怪獣人形を超えるオモチャも、もう現れないだろう。
僕らは、玩具史上最も優れた、最も夢のあるオモチャで遊んだ、とても恵まれた世代である事を痛感する。

                              

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