真水稔生の『ソフビ大好き!』


第24回 「ブースカ慕情」  2006.1

ブースカが好きだ。
その愉快なキャラクター性と、物語のホッとやすらぐような世界観に、
とても惹かれる。

ソフビ怪獣人形をコレクションするだけにはとどまらず、
車の中にはブースカのぬいぐるみ、
携帯電話にはブースカのストラップ、
部屋の鍵にはブースカのキーホルダー、
枕元にはブースカの目覚まし時計・・・、と
生活のいろんな所にブースカを配置している。
いつもそばにいてほしいのだ。

最近ではお腹が出てきて、
自分自身もブースカみたいな体形になりつつある(笑)。
もう何から何までブースカだ。

自分の子供にも知り合いの子供にも、
時間があれば必ず『快獣ブースカ』のビデオを見せる。
日本語を話す等身大の怪獣が
自分の家に同居して喜怒哀楽を分かち合うなんて、
子供にとってこれほど胸がときめく夢の世界はないだろう。

昭和41年の冬から翌年の秋まで放送され、その後も何度か再放送されたが、
僕は全ての放送を見た。
早朝に再放送されていた時も、それを見るためだけに早起きをした。
まだ寝ている両親を起こさぬよう、
イヤホンで音声を聞きながら見ていたのを憶えている。

毎回毎回、夢いっぱいの、そして心が温まる素晴らしいエピソードばかりだったが、
中でも、
人類の未来を担い宇宙へ旅立つブースカを
大作少年が別れの淋しさを笑顔で隠して見送る最終回は、
子供番組の歴史に残る名作と言って良い。何度見ても泣けてしまう。

上原正三さんとの共作でこの最終回の脚本を担当した市川森一さんのコメントを
以前何かで読んだ記憶があるが、
『快獣ブースカ』の最終回は、

 “子供に夢を見させた者には子供を夢から醒めさせてあげる義務がある”

という信念の下、
ブースカなんてものは本当はこの世にはいないンだ、という現実を
視聴者の子供にはっきりと認識させるために、
あえて大作少年とブースカの別れを描いて、
怪獣と人間の共存する夢の世界を断ち切るラストにしたそうである。

子供の時あの最終回を見て、
いつまでも夢見ていたい気持ちをなんだか裏切られたような淋しさが
正直なところあったのだが、
だからこそ余計に僕はブースカを恋しく思うようになってしまった。
美しい夢物語としての完結が、
大作少年とブースカが一緒に過ごした日々を強く深く心に残すこととなり、
『快獣ブースカ』は忘れられないテレビドラマになったのだ。

涙なくしては見られないあの最終回は、ブースカを永遠に愛する決定打だったのである。

また、
主題歌を歌い、ブースカの声も担当されていた高橋和枝さんは、
亡くなられる直前までされていたTVアニメ『サザエさん』のカツオの声で有名な声優だが、
僕にとって高橋さんの声は、
カツオの声というよりも、やはりブースカの声であり、
今でも、耳に心に響いている。

ブースカの声は無理して出していたのでアフレコ時には体力をかなり消耗した、と
高橋さんは後に語っておられたが、
そんな御苦労は、あの楽しく心地良い声からは微塵も感じられない。
ブースカの顔や体形から滲み出る愛らしいイメージにピッタリの声だった。

個性的な声を違和感なく聞かせ、
物語の中へ自然に感情移入させてくれる高橋さんの力量や感性は、
間違いなく尊敬に値する。
たとえば、最終回で、
大作少年との別れが20日ではなく20年である事を知らないブースカが、
宇宙へ旅立つ前夜に星空を眺めながら、
  
  「それにしても20日間は長いなァ」

という言うが、
あれなんかは、たまらない。
心が瞬く間にお話の中に吸い込まれて、思わずブースカを抱きしめたくなる。
もちろん脚本や演出も優れているのだが、
明らかに高橋さんの声と表現力によって切なさが倍増されている。
何気ない独り言のようなセリフを、心に残る名セリフにしてしまう、高橋さんの凄さがよくわかるシーンだ。

・・・お話も姿も声も、ブースカの全てが、僕は愛しい。







ブースカの当時の玩具は非常に多い。
メーカーをマルサンだけに絞っても、
ソフビにブリキにプラモデル、更にはぬいぐるみまであった。
怪獣のような異形なものに憧れる男の子と、
可愛らしいものが好きな女の子の
両方をターゲットにして、幅広く販売が展開されたためであろう。
ひとつのキャラクターで
玩具のあらゆるジャンルに立体物が存在するという点では、ゴジラやウルトラマンをも超えていた。
これはキャラクター玩具史上、注目すべき事態ではないだろうか。

ブースカという怪獣は、
玩具となっていつも子供と一緒にいるにふさわしい、
実に健全で優良なキャラクターなのである。

どのジャンルのブースカ玩具も、そんなキャラクターの魅力に応える素晴らしいものだったが、
ソフビは特に良い。
怪獣人形の造形におけるマルサンのセンスやコンセプトが、
ブースカの性質と見事なまでに一致していたからだ。
怪獣だけどやさしい、
怪獣だけどお友達、
ブースカはマルサンのソフビ怪獣人形そのものだ。
温かみのある人形で子供の夢を育もうという作り手の魂を、
これほどまで解りやすく伝えてくれるソフビ怪獣人形は、ほかにはないだろう。

サイズは、
スタンダード、ミニ、ジャイアント(ポリエチレン製の廉価版もあった)、
デラックス(ジャイアントよりも更に大きく、肘が可動する)、と4種類あり、
それぞれに素敵なエッセンスを感じる。

初期のスタンダードサイズは、
マルサンならではの微妙にシンメトリーを崩す造形美はもちろん、
着ぐるみのたるみを表現したリアルなタッチも堪能出来るし、
後期のスタンダードサイズは、
はちきれんばかりに膨らんだ風船みたいな丸っこさがキャラクターイメージにピッタリで、
とても可愛らしい。

また、
手足の爪が丁寧に塗装されているジャイアントサイズや
足の裏まで造形されているデラックスサイズの、
その心のこもった仕上がりの優美さには、感嘆のあまり言葉も出ない。

しかも、
それぞれのサイズに様々なバージョン違いが存在し、実に奥が深いのだ。
型の違い、成形色の違い、前歯やお腹などの塗装色の違い、斑点の数や吹き付け方の違い・・・、
気にすればするほど、その味わいは魅惑の光りを強くしなやかに放つ。
いまだに未知のバージョンと出逢う事もあり、驚かされる。
お菓子の景品のミニサイズ人形にも、
いくつか種類がある。
スタンダードサイズでしか発売されなかった弟のチャメゴン人形にも、
まつ毛の有無などのバージョン違いが存在する。
これでもかというくらい果てしないのだ。

コンプリートしているコレクターはおそらくいないと思う。
だけど、コンプリートしてなくたって、
ブースカの人形がひとつでもあれば、心は和む(コンプリート出来ない負け惜しみじゃないよ(笑))。
コレクターのコレクションの棚に限らず、
アンティークTOYショップなどのショーケースの中にでも、
ゴジラ怪獣の人形やウルトラ怪獣の人形に混じってブースカ人形が1体でもあれば、
それだけでなんだか落ち着いた感じがする。
ブースカというキャラクターの持つ郷愁によるやさしい癒しのパワーは、それほど強い。

ジャイアントサイズのブースカ(マルサン)。全長約40センチ。
子供の頃めちゃくちゃ欲しかったけど、
値段が高い事がわかっていたので(当時1,200円)、
「買ってほしい」と親に言えなかった。

大人になってからもめちゃくちゃ欲しかったけど、
プレミアがついて、
当時の100倍以上もする値段になっていたので、
「買っちゃおう」となかなか自分に言えなかった(笑)。

タイトルは忘れてしまったけど、
何年か前のテレビドラマで、
ソフビ怪獣人形コレクターである夫(演じるは吹越満さん)に
愛想を尽かした妻(演じるは田中美佐子さん)が、
夫の大切なコレクションであるこのブースカ人形を持ち出し
家出してしまう、
という実に恐ろしい(笑)物語があったのを憶えている。

ブースカは可愛い。ブースカはやさしい。ブースカは温かい。
ブースカ人形を手に取り見つめる時、僕はとても穏やかな気持ちになれる。
辛かったり淋しかったり腹が立ったりした時の心の痛みは、
いつもブースカ人形がそっと治してくれるのだ。
ブースカ人形は
僕にとって心の常備薬のようなもの。
そばにあれば安心、すぐに効くとても良い薬。
懐かしさのあまり思わず涙してしまう、という副作用があるけど。


僕が幼稚園の頃、
『月の砂漠』が好きだった父親が
頼みもしないのに(笑)買ってくれたレコード(『月の砂漠』をはじめ
『おつかいありさん』や『お猿のかごや』などが収録されていたLP)の、
袋に貼ってあったシール。
プレゼントのブースカ人形、って何だったのだろう?
もしかしてマルサンのソフビだろうか?
だとしたら、どのサイズの、どのバージョンだったのだろう?
今となっては、何もわからない。
御存知の方がいらっしゃいましたら、是非御一報を。

昭和63年の夏、円谷プロの怪獣倉庫にて。

 「そんなにブースカが好きなら
      一緒に記念撮影してったら?」

って、円谷プロの社員の方が
わざわざブースカの頭を倉庫の奥から出してきて
撮って下さった、思い出の写真。

我ながら嬉しそうな表情である(笑)。
バラサ!バラサ!


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