真水稔生の『ソフビ大好き!』


第19回 「爽やかな光沢」 2005.8

みずみずしいファンタジーこそ怪獣の棲む世界である、と
僕に教えてくれた、素敵な怪獣映画がある。
それは、ゴジラでもガメラでもなく、
昭和47年に
円谷プロが創立10周年を記念して、
東宝と提携して製作した『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』。
笑いあり涙ありの感動的物語、
気持ちのいい大胆な特撮、
子供から大人まで楽しめる、僕がいちばん好きな怪獣映画であります。


【ストーリー】

 原子力潜水艦の爆発事故により、
 水面下数千メートルの海底で太古の地層に埋まり眠っていた怪獣が
 目を覚まし、暴れ狂う。
 やむなくミサイルで攻撃してその怪獣を殺してしまった日本政府は、
 罪滅ぼしのつもりで、
 その怪獣の赤ん坊をダイゴロウと名付けて孤島で育てていた。

 しかし、
 成長して全長何十メートルという怪獣になっても
 まだまだ育ち盛りのダイゴロウの食欲は
 とどまるところを知らず、
 エサ代が、予算内ではとても賄い切れなくなってしまっていた。

 満足に食事がとれず腹ペコの毎日を送らされているダイゴロウに、
 なんとかして充分な食事をさせてあげようと、
 子供たちは募金運動を行い、
 発明家のおじさんは一獲千金を狙って人力飛行機を作り、
 大工の熊五郎は大好きなお酒を絶ってお金を貯めようとするが、
 どれもうまくいかず、
 ついにダイゴロウは、
 体の成長を止める薬・アンチグロウが入ったエサを
 食べさせられる事になる。

 ダイゴロウを我が子のように見守り世話してきた飼育係の斎藤は

  「そんな事は出来ない」

 と涙を流して猛反対するが、
 環境衛生省の役人・鈴木が

 「ダイゴロウが生きていくためには、これを食べるしかないんだ」

 と必死で訴える。
 それを見ていたダイゴロウは、
 全ての事情を察したかのように、おとなしく、
 アンチグロウ入りのエサを
 その大きな口へと運ぶ(このシーン、めちゃくちゃ泣けます)。

 そんな時、
 宇宙からやって来た大星獣ゴリアスが、日本に上陸して暴れまわる。

 人間は勝手だ。今度はダイゴロウにたくさんエサを与えて、
 ゴリアスを退治させようと考える。
 健気にもダイゴロウは、
 そんな人間のために必死で戦ってゴリアスを倒す。
 そして、
 その御褒美として、晴れて、
 毎日お腹いっぱいの食事が出来る生活を保障される事になるのだった。
 めでたし、めでたし。

“現代童話” というキャッチフレーズで公開されたこの異色の怪獣映画は、
金城哲夫さんと並んで
『ウルトラマン』をつくった男として名高い飯島敏宏監督が、
洗練された軽快なタッチで、
ペーソスにあふれた諷刺を前面に出しながらもコミカルに、
そしてドラマティックに、
怪獣メルヘンの世界を描いた傑作である。

下町風の人情味あふれる話でありながら
生活臭を出さないスマートな演出は、
英文科の学生だった時代にむさぼり読んだハードボイルド系ミステリーのペーパーバックから
アメリカ独特の乾いた情感の影響を受けた、
という飯島監督ならではのもの。

『ウルトラQ』の、
「地底超特急西へ」や「2020年の挑戦」、
『ウルトラマン』の、
御存知バルタン星人が登場する「侵略者を撃て」などを見てもわかる通り、
アメリカナイズされたユーモアをベースに
“テンポの良さ” で精彩を放つのが、飯島監督の作品の特徴である。

そもそも、
このような飯島監督の感性は、ウルトラマンの魅力そのもの。
巨大化しながらぐんぐんとウルトラマンが迫ってくるあの変身カットも、
“シュワッチ” という掛け声も、
スペシウム光線のポーズも、
みんなみんな飯島監督のアイデアによるものだ。
表情の無い謎の宇宙人に、
躍動感あふれる生命と魅惑的な性格を与え『ウルトラマン』の基調を作ったのは、
スピーディーで飽きのこない映像の名手・飯島監督のバイタリティである。

そんな飯島監督が真骨頂を発揮した怪獣映画が、面白くないわけがない。
『ウルトラマン』は誰もが好きなのだから、
『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』だって、見たら絶対誰もが好きになるに決まっているのだ。

当時、この映画を見に行って感動した僕は、
まだ見に行っていない友達が家に遊びに来るたびに、映画のパンフレットを広げて、
ダイゴロウが赤ちゃんの時ミルクを飲ませようとした飼育係の腕に噛みついて離さなかった事や、
ゴリアスがダイゴロウの飛び蹴りをあっさりかわした事など、
面白かったシーンのひとつひとつを説明しながら、
この映画がいかに素晴らしいかを熱く語って、見に行く事を強く勧めていた。
30年以上過ぎた今でも、
強くお勧めしたい。
もしこの映画を見た事がない人がいたら、ぜひぜひビデオ等で見てほしい。
今まで見ないでいた事を、きっと後悔するはずだ。

だいたい、
出演者の顔ぶれからしても見ておかなければ損だろう。
大工の熊五郎に三波伸介さん、
熊五郎の飲み友達・八五郎に三角八郎さん、
発明家のおじさんに犬塚弘さん(平成5年に公開された映画『仮面ライダーZO』に
犬塚さんが発明家のおじさん役で出演されたのを見て、ニヤリとした特撮ファンも多いはず)、
そして、環境衛生省の役人・鈴木には小林昭二さん、
という、
良質なコメディが約束された一流のキャスティングなのだ。

ちなみに、
斎藤という飼育係の青年を好演した小坂一也さんは、
私生活では僕と同じソフビ怪獣人形のコレクターだった。

もう10年以上も前の事だけど、
庄野真代さん司会のトーク番組に小坂さんがゲストで出られて、
地方の古いオモチャ屋さんで
マルサンやブルマァクの未開封のソフビ怪獣人形を見つける醍醐味について語られたり、
クリスマスの度にお子さんから
 「ダイゴロウの人形を買ってほしい」
とせがまれるというお話をされたりしていた。

庄野さんの力みの無い大人しやかな話の聞き方が、
小坂さんの
ソフビ怪獣人形をいつくしむ気持ちを上手に引き出していて、
小坂さんの温かい人柄が伝わってくる、
実にほのぼのとした良い番組だった。

小坂さんみたいなコレクターになりたいと思った。
この『ソフビ大好き!』の連載でお世話になっているゲイトウエイのオーナー・杉林さんも、
東京の或るアンティークTOYショップで小坂さんとお会いした事があるとの事。
とてもやさしい表情でソフビ怪獣人形を見つめていらっしゃったそうな。
亡くなられてしまったのは、本当に残念だ。
でも、
そんな小坂さんが『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』で見せた心のこもった素敵な演技は、
映画を見た人々の胸の中で永遠に生き続けるだろう。

このような、
優れた監督や魅力的な出演者によって、
『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』は、怪獣映画の歴史において孤高の輝きを見せる作品である。
怪獣映画としてはユニークな存在でありながら、
怪獣映画の素晴らしさを明快に表現しているところが凄い。
見終わった後に感じる、心が洗い清められたような爽快感は、ビデオ等で何度繰り返し見ても新鮮で心地良い。

ソフビの人形も、
そんな映画の清々しさを伝えるかのように光り輝いている。
ダイゴロウもゴリアスも、そしてダイゴロウの母も、
ソフビの表面の艶がとてもきれいなのだ。
『アタックNo.1』の上戸彩さんのおでこみたいに美しい(笑)ので、
“爽やかな光沢” と密かに名付けている。

コレクションの棚は気分で時々並べ替えをするけど、
この3体の人形は、
常に、いちばん先頭のよく見える位置に飾っている。
“爽やかな光沢” を、
いつも眺めていたいからである。
素敵な映画の分身のような、その輝きを。


            ダイゴロウとゴリアスだけでなく、
            ダイゴロウの母まで商品化されていた事は、
            コレクターにとって嬉しい限り。
            でも、当時はあまり売れなかったンじゃないかなぁ(笑)。

腹ペコのはずなのに、
満腹のように膨れたダイゴロウのお腹。
武士は食わねど高楊枝、
というわけではないだろうが、
ダイゴロウの高潔な心を表す、
立派な張りと艶である。
  生々しい造形が鮮やかな、ゴリアスの握り拳。
  殴られたら痛そう。
  宇宙からやって来た大星獣、
  という未知の生き物の
  冷たい生命感の表現に、
  成形色の水色が効果をあげている。

                           

                  前回へ       目次へ       次回へ