真水稔生の『ソフビ大好き!』


第171回 「時計じかけじゃないオレンジ」  2018.4


 届きましたーっ! 




 何のこっちゃ?

と思われた方は、誠に恐縮ながら、
前回(第170回「オレンジ」)からお読みいただけると幸いですが、
僕は、今、
ウイーン出身の双子姉妹で
現在はリヴァプールを拠点に活動中のミュージシャンである、
モナリザ・ツインズ(monalisa twins)に夢中でして、
Amazonで注文した彼女たちの最新アルバム『ORANGE』が我が家に届くのを、
今か今かと首を長くして待っていたところ、
それがようやく届いた、という次第なのであります。

ようやく、といっても、

 1~2ヶ月以内で発送、

との事だったのが2週間ちょっとで届いたので、
結果的には
めっちゃ早かったわけですが、
もう、
早く手にしたくて、早く聴きたくて、それはそれは待ち焦がれていたのです。

その渇望を治めるべく、
前回、
 
 オレンジ色のソフビ(ブルマァクのナックル星人人形)を改めて愛でる、

という行為で、
悶々とした性的欲求を部活にぶつける中高生の如く処理してみた(笑)のですが、
もしかしたら、
そんな健気な祈りが天に届いて、
CD発送を予定より早めるよう、神様が手配してくれたのかもしれません(感謝)。

いやぁ、嬉しいっ!
そして、やっぱサイコーです、モナリザ・ツインズは!

多くのYouTube動画と
先に入手した2枚のアルバム
(『When we're together』と『Monalisa Twins play Beatles & more』)で
すっかり恋におちていた僕ですが、
この最新アルバムで、更にまた惚れ直しました。

彼女たちの魅力は、
なんといっても清らかさで、
60年代の音楽に対する愛と敬意が、
カバーのみならずオリジナル曲においても
一点の曇りも無くそのパフォーマンスに表れるところが
たまらなく素敵なのですが、
『ORANGE』では、
その “純一無雑なスピリット” がより一段と洗練されて、
もはや迫力すら放つ域に達しているのです。

“成熟” が薫る1枚、とでも言いましょうか、
収録された1曲1曲、
皆、メロディーが繊細かつしっかりしていて、
澄んだ歌声・ハーモニーを、
耳に心に、この上なく優美に届けてくれるし
(3曲目の『CLOSE TO YOU』なんて、胸がキュンキュンします)、
アルバム全体の構成も見事で、
ビートルズの音楽性や実験精神へのリスペクトと、
それをルーツに構築した自分たちの音楽を鮮やかに表現出来る彼女たちの才能を、
これまで以上に強く、濃厚に感じました。
感服です。

彼女たちをビートルズに目覚めさせ、
彼女たちとともにイギリスへ移住し、
彼女たちのためにスタジオを作り、
彼女たちの曲作りにも参加し、
彼女たちの音楽活動を
全面的にサポートしている音楽家のお父様(ルドルフ・ワグナーさん)の
愛とバイタリティーの結晶でもあるのでしょうけれども、
彼女たち自身に、
それを感受する汚れなき精神と特異なセンスが無ければ、
決して実現しない事ですから、
やっぱ、凄い女の子たちだと思うンですよね。
素晴らしいです、ホント。

カッコよさと美しさに
更に磨きがかかった “モナリザ・ツインズ” が味わえる最新アルバム『ORANGE』、
超おススメです。
この『ソフビ大好き!』を読んで下さっている方にも、
是非、聴いてみてもらいたいです。
60年代の音楽の良さが解かる方なら、
たぶん僕が言ってる事には頷いていただけるはずですし、
特にビートルズがお好きでしたら、もう、秒殺だと思います。 
 
 
では、そんなわけで、
今回も、
“オレンジ(ORANGE)” をキーワードに、
オレンジ色をしたソフビ怪獣人形を紹介していきましょう。

ただ、
前回は、
先述のとおり、

 『ORANGE』が手元に届くのを待ち焦がれる気持ちを昇華させるため、

という理由でしたが、
今回は、

 届いたその『ORANGE』が
 待ち焦がれた甲斐のある非常に優れたアルバムだった悦びを噛み締めるため、

です。

・・・どーでもいい? ハハハ。
まぁ、
この連載は
僕のマスターベーションみたいなものですから、
まさにその真骨頂な前後編、というわけでございます(笑)。


まずは、これ。
 
   ジャイガー
   日東科学教材製 スタンダードサイズ、全長約26センチ。

昭和45年公開の映画『ガメラ対大魔獣ジャイガー』に登場した古代怪獣です。
人形の発売は映画公開の半年後だったようですが、このように2種、流通していた模様。
  どちらのオレンジ色も、
劇中のジャイガーのイメージを損なわない程度に
その体色が
見映え良く美化されており、
オモチャとしての “カラーリングの妙” を感じます。
また、造形も、
この日東ガメラシリーズ随一のリアルな仕上がりで迫力があり、
ガメラを苦しめた強敵ぶりが
しっかりと伝わってきます。

美しくてカッコいいソフビ、と言えますね。 






 
なので、
こうやって2体並べると、
美しくてカッコいい双子、って感じで、
我が愛しのモナリザ・ツインズと、
イメージが被ります(笑)。 
映画公開時、僕は幼稚園児でしたが、
母親と、
この映画を観るために出かけたのものの、
オモチャ屋の前を通りかかった際に
『ウルトラセブン』のアギラのソフビ(ブルマァク製 スタンダードサイズ)が
目に入り、
なんか急にめちゃくちゃ欲しくなっておねだりしてしまい、

 「映画を観に行くか、怪獣買うか、どっちかにしなさい」

と言われ、
悩みに悩んで、アギラ人形を買ってもらう事を選び、
映画を観るのをあきらめた記憶があります。

もう、当時から、
“ソフビ入手優先” の生活スタイルが出来ていたようです(笑)。 

それゆえ、
僕が『ガメラ対大魔獣ジャイガー』を観たのは、
映画公開から少し遅れて、テレビ放送された時でしたが、
もう、
ジャイガーはカッコいいし、ガメラとのバトルは見応えたっぷりだし、
お話自体も面白いし
(ジャイガーの幼虫に寄生されて
 仮死状態になってしまったガメラを助けるため、
 子供たちが
 大村崑さん演じるお父さんが作った小型潜水艇に乗り込んで、
 ガメラの口から体内へ進入するくだりなんて、
 めちゃくちゃ夢があって、胸が躍りました)、
改めて、
映画館の大きなスクリーンで観られなかったのを
口惜しく思った事を憶えています。
 
ただ、
かといって、アギラ人形の入手を選択した事は後悔しませんでしたし、
しばらく時が経ってから、
ジャイガー人形(この、明るいオレンジ色の方)も
執念で(笑)買ってもらいましたので、
先に述べた、
当時から出来上がっていた “ソフビ入手優先” の僕の生活スタイルは、
かなり強固で、徹底したものであったようです(苦笑)。 
 
 
続きましては、こちら。 
第58回「尻フェチはアンティークソフビを愛す」の中でも紹介した、ゴロー
『ウルトラQ』に登場した巨大猿です。

番組が放映されていた(昭和43年)頃の商品で、
マルサン製、全長約23センチ。 
ゴローは、
青葉くるみ(特殊栄養剤)を食べてしまった副作用で
甲状腺に異常をきたして巨大化しただけで、
元は普通のニホンザル。
要は、“お猿さん” です(笑)。

このソフビは、
全身をくるむように吹かれた銀色の塗装の下から
オレンジ色の成形色が、チラチラ覗いたり、ぼんやり浮かんで見えたりして、
それが、
人形全体に優しい “ぬくもり” をもたらし、
お茶目な顔の表情から受ける “ほのぼの感” を、より際立たせています。 

それゆえ、
一見、単なる “お猿さん” の人形であり、
怪獣である事は一切無視されているように思われますが、
実はそうではありません。 

なぜなら、
“お猿さん” のゴローが巨大化してしまった事に対して、
ゴロー自身には何の罪もありませんので、
人形が “お猿さん” としての愛嬌を発揮すれば発揮するほど、
怪獣になってしまったゴローの哀しみが、かえって強く感じられるからです。
『ウルトラQ』を観ていた僕らにとって、
このマルサン製ゴローのソフビは、
まぎれもなく、“怪獣” の人形なのであります。


深いのです。
怪獣という生き物も、
ソフビで出来たその人形も・・・。


最後に、
もう1体、愛嬌たっぷりのヤツを・・・。 



ゴーストロン

ブルマァク製 ミドルサイズ、全長約12センチ。
『帰ってきたウルトラマン』に登場した怪獣で、
人形は番組放映時(昭和46年)に発売されたものです。  
サイズが小さい人形ゆえ、
“ゴーストロンの赤ちゃん” をイメージして商品化されたか、
顔の表情や両腕の形状が
なんともあどけなく、
『可愛い怪獣ソフビコンクール』なんてのがあれば、入選する事間違い無しの一品。
そこへもってきて、
こんな、濃厚な甘みを感じるオレンジ色。
まさに、

“食べちゃいたいくらい可愛い”

って表現がピッタリの、心なごむ怪獣ソフビです。 
実物のゴーストロンは、
もっと厳つい顔で、黄金色の体で、
ギラギラした精力的な印象を受ける見た目ながら、
基本的に、
悪さはしない、ただボーッとしてたり居眠りしてたりするだけの
おとなしい怪獣ですので、
このソフビは、
そんなゴーストロンの
のんびりおっとりした内面的性質が、
デフォルメ造形とオレンジ色の彩色で更に愛らしく感じられる人形、と言えます。

平成のソフビでは絶対出ない味。 癒されます・・・。 



ところで、
“オレンジ(ORANGE)” というアルバムタイトルの由来について、
モナリザ・ツインズの二人は、

 映画『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』を観てインスパイアされた、

というような事をインタビューで答えていました。

“時計じかけのオレンジ” とは、
“機械じかけの人間”、つまり、自分の意思で生きていない人間を
比喩したものですから、
そこから
“時計じかけ” を外して “オレンジ” だけを持ってきたという事は、

 “時計じかけじゃないオレンジ(機械じかけじゃない人間)” 、

の意で、
人間が自分の意思で生きる事の大切さ・素晴らしさを、謳っているのだと思います。

 人生は自由に楽しむべき、

というメッセージが、
収録されたすべての曲に込められているわけですね。

以前にも述べた事がありますが、
僕は、

 人生は見切り発進で良い、

と思ってます。
頭の中でいろいろ考えたって、
どっちみち、思い通り・予定通りには物事は運ばないので、
“やりたい”・“行きたい” と思ったら、即、行動を起こすべきなのです。

世間の目とか他人の評価とか、
そんなものは自分の人生には本来関係ありません。
自分自身の意思で、
好きなように生きれば良いのです。
それが心身を健康にさせ、幸福や充実に繋がっていくのですから。

そんな僕の人生観とも、
『ORANGE』のコンセプトは一致しているわけで、
まったくもって、
良く出来たアルバムです(笑)。

また、
これも以前述べた事ですが、
僕はゼンマイや電池で動くオモチャが子供の頃から好きではありませんでした。
それゆえ、
動かない(=自分の想像力で自由に動かせる)オモチャであるソフビ人形が好きなのです。

前回と今回紹介したものをはじめとする、オレンジ色をしたソフビ怪獣人形たちは、

 ソフビ怪獣人形が、
 時計じかけじゃない事、
 夢と空想で自由に伸び伸び遊べる素敵なオモチャである事を、
 象徴しているカラーリングである、

と言えるのではないでしょうか・・・。

オレンジ、って、
本当に本当に、いい色だと思います。 



余談ですが、
実は、僕、新婚旅行の行き先が、
モナリザ・ツインズの出身地・オーストリアのウイーンでした。
30年近く前ですので、
彼女たちが生まれる以前の事ですが、1週間、滞在しましたかね。

いろんな宮殿を観たり、ウイーンの森へ行ったり、
映画『第三の男』のプラーター公園に行って、あの観覧車に乗ったり・・・、
なんて事もしましたが、
基本的には、

 “観光名所を回るよりも、
    ウイーンの町に浸って、ウイーンの町を味わおう”

というのが、
妻と決めたコンセプトでしたので
(その頃は気持ちが通じ合っていたので常に意見が一致してました(苦笑))、

 カフェーで
 お茶したりワインを飲んだりしながら
 町中を只々ぶらぶらしたり、
 なんでもない普通の公園にボーッと1日いたり・・・、

って感じで、
のんびりゆったり過ごしました。

今行ったら、
 
 ここが、モナリザ・ツインズが生まれ育った地かぁ・・・、

などと感慨深く思いながら、
彼女たちが吸っていた空気を思い切り吸おうと
深呼吸ばかりするでしょうから(笑)、
更にもっと、のんびりゆったり過ごす事になるかもしれません。

・・・あ、そうそう、
なんでもない公園にボーッと1日いた、と言いましたが、
本当に、
緑があって、池があって、ベンチがあって・・・、
ていう、
日本にもあるような、なんでもない公園だったのですが、
夕方になったら、
なんだか人が増えだして、

 ん? 何?

と思ってたら、
ヴァイオリンやフルートを持った人たちがやってきて演奏をし始め、
突然、野外舞踏会が始まりました。

たまたま何かのイベントの日だったのか、
それとも
日常フツーに行われている事なのか、
まったく解かりませんでしたが、
当たり前のように演奏が始まって、
当たり前のように周りの人たち全員が踊りだしたので、
僕と妻も、
正しいステップとか
マナーやルールとか何も知らないのに、
雰囲気と気分だけで、生演奏の前でワルツを踊りました(笑)。

 「やっぱ、日本とは違ってたね」

と、ホテルの部屋へ戻ってから、妻と笑い合ったのを憶えています。

そんな、
新婚旅行の思い出とともに
ヨハンシュトラウスとかモーツアルトとかがイメージだったウイーンですが、
今では、
もちろん、モナリザ・ツインズのウイーン。

あぁ、なんか、
また行きたくなってきたなぁ、モナリザ・ツインズを感じに・・・。

・・・あ、でも、
もし行くとしても、息子たちには内緒で行こう。
僕が独りでウイーンに行った事が
息子たちから別れた妻の耳に入って、
いまだに結婚生活に未練があると勘違いされても胸クソ悪いので・・・。

・・・本当に余談でした(苦笑)。スミマセン。




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