真水稔生の『ソフビ大好き!』


第14回 「地球からの贈りもの」 2005.3

半年前に打ち上げられた火星探査ロケットのカプセルが、
或る日地球に戻ってきた。
カプセルの中に入っていた金色の球体は、
地球人の乱暴な宇宙開発に対する威嚇を目的として、火星人が送りつけてきた怪獣ナメゴンの卵だった。

・・・御存知『ウルトラQ』の第3話「宇宙からの贈りもの」である。
僕は幼い頃
この回を見て強烈な衝撃を受けた。
その単純明快にして奥深いストーリーの鮮やかさは、
そのままナメゴン自体の魅力に置き換えられて、僕の記憶の中に楔の如く打ち込まれ、
“三度の飯より怪獣が好き” という僕の性質を決定づける事になった。

ナメクジみたいな怪獣ゆえ塩分に弱く、海に落ちて海水に溶かされて死んでしまう、という展開が、
見事によく出来たお話だなぁ、と感心したのも束の間、
今度は海水をも飲み込んでしまう怪獣が現れるかもしれない、という内容のナレーションが耳に届き、
『ウルトラQ』って恐い世界だなぁ、と
ブラウン管の前で体が震えたのを憶えている。
画面はモノクロで
なんだか暗い印象だし、
ウルトラマンが助けに来てくれるわけでもなし、
だいたいオープニングからして、
明るい主題歌が聴けない代わりに
恐怖以外何もイメージ出来ない無気味な音楽が流れてくる。
見ていてとても不安な気持ちになる番組だった。

でも大好きだった。
幼稚園の年長の時、再放送が水谷豊さん主演の『バンパイヤ』と同じ時間でぶつかり、
どちらを見ようかいつも迷ってた記憶があるけど、
そんなナメゴンにガツンとやられたダメージのせいで、
結局毎回『ウルトラQ』にチャンネルを合わせていた気がする。


僕は8年前、
このナメゴン人形を分割払いで購入した。
マルサンの傑作と名高いナメゴン人形は、
その希少性と存在感から、コレクター垂涎の貴重品となっている。
よって、
入手するには破格の見返りを要求される。
30代前半の一般のサラリーマンが簡単に買える代物ではなかったのだ。
しかも、
当時の僕には扶養家族がいたし、
マイホームを建てる事が決まって資金繰りを考えている真っ最中だったので、
高価な怪獣のオモチャなどとても買ってる余裕は無かった。

それでも買った。分割払いにしてもらってまで買った。家族からの批判を承知の上で。
僕をそこまで駆りたてたのは、
ナメゴン人形の価値を重視するコレクターとしての物欲ではなく、
『ウルトラQ』を見て幼い心に受けたナメゴンの呪縛のせいである。
石坂浩二さんの、
あの、恐ろしい世界を達観したような静かで落ち着いたナレーションが、
まるで呪文のように耳の奥に聞こえていて、
僕の気持ちを操りつづけていたのだ。

『バンパイヤ』が見たくても『ウルトラQ』にチャンネルを合わせてしまっていた幼稚園の時と同じように、
怪獣のオモチャなんか買ってる場合じゃないのに、買ってしまったのである(笑)。


写真で見てもよくわかる通り、
僕が買ったナメゴンは、首がやや後ろに寝ている。
どこかの家の物置の片隅か押入れの奥で、長年この態勢で保管されていた為であろう。
口の悪い友人は「寝違えたナメゴン」などと言って僕をからかうが、
自分の目線より低い位置に置いて見下ろすと、
なんだか首を傾げて僕に甘えているようにも見えて、とても可愛らしい。

今では扶養家族もマイホームも失ってしまった(涙)が、
このナメゴン人形だけは僕の手元に残っている。
少年時代の夢や驚きは、何があっても消えたりしない、って事かな。・・・違うか(笑)。

ソフビ怪獣人形が大好きな僕は、
今日もナメゴン人形を手に取り、いろんな事を思い出したり夢見たりして、ティータイムを楽しむ。
BGMは、
やはり、心やすらぐクラシックがいい。
パッフェルベルのカノンなんか、ナメゴン人形にピッタリだ。
紅茶は
ブランデーと苺ジャムを入れてロシアンティーを気取ってみよう。
ソフビの温かい質感や甘いにおいが、音楽や紅茶とともに僕を癒してくれる。
ソフビ怪獣人形は実に素敵なオモチャだと、心から思う。

考えてみると、
ソフビ怪獣人形は石油製品。
石油は地中に埋没された古代の動植物が分解して地層中にたくわえられたもの。
となれば、
ナメゴンが “宇宙からの贈りもの” であるのに対し、
ナメゴン人形は言わば “地球からの贈りもの” だ。
ナメゴン人形に限らず、すべてのソフビ怪獣人形がそうなのだ。
 
 “モノいわぬ友”
 “夢とロマンのオモチャ”
 “時間を止め、ドラマティックに生活を彩る、時代を超えた夢の伝道師”
 “小さなタイムマシン”
 “毎日倒れる東京タワー”
 “夢で動かすオモチャには、錆びも故障も電池切れも無い”
 “大切な思い出は怪獣の形をしている”
 “火を吹き暴れるオサナゴコロ”
 “夢見る怪獣人形”
 “空想無法地帯”
 “時の彼方の夢玩具” 

僕は、ソフビ怪獣人形のコピーで気に入ったものや自分で思いついたものを
ノートにメモしているが、
この紅茶を飲み終えたら、新しく付け加えておこう。

 “地球からの贈りもの” を。

                         

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