真水稔生の『ソフビ大好き!』


第135回 「守り神は心の中に」  2015.4

今から8年前の或る夏の日、
自宅の洗面所に立った際、
ペタッ、という、
何か粘着性のある音が聞こえたので、

 ・・・何だ?

と見回してみると、
洗面所の上部を通っている排水管の上に
全長5センチくらいの小さなヤモリ(ニホンヤモリ)が乗っていました。
聞こえたのは、
そのヤモリが天井か壁から排水管へ飛び移った際の音だったのでしょう。

一瞬、

 気持ち悪っ!

と思って鳥肌が立ちかけたものの、すぐに治まりました。

 ヤモリの棲む家は栄える、

という言い伝えを思い出し、
これは幸運な事だ、と思い直したからです。

ヤモリは、
まるで “座敷わらし” のごとく、縁起の良い生き物。
しかも、
漢字で “家守” とも書き、
家を守ってくれる神様である、ともされています。

ちょうどその時、
2週間ほど家を空ける仕事に出かけようとしていたところでしたので、

 「留守を頼むよ」

と、僕はその小さな守り神に声をかけ、そのまま部屋を出ました。

まぁ、“家を守る” といっても、
留守番してくれるわけではなくて(当たり前)、
害虫を食べてくれる、
人間の生活にとって有益な生き物である、ってだけの話なンですけど、
部屋を住みよい環境に整えてくれて
おまけに運気も上げてくれるなら、やはり、神様のようにありがたい存在です。

おかげで、気分良く仕事場へ向かう事が出来ました。

あの時の、
“プチハッピー” とでも言いましょうか、
ちょっとくすぐったいような嬉しさの感覚を、
僕は今でも憶えています・・・
ってか、
忘れていたけど思い出しました。
というのも、
昨夜、部屋にまたヤモリが現れたからです。

今度は寝室。
寝室の窓にペタリと張りついていました。
大きさは15センチくらい。
8年前の夏に洗面所で見かけたヤツの、倍以上ある大きさでした。

例によって、また、

 気持ち悪っ!

と思って鳥肌が立ちかけましたが、やはりすぐに治まりました。
しかも、
ヤモリは10年くらいは余裕で生きるそうですので、
もしかしたら、
あの時の小さなヤモリが成長した姿かもしれず、

 8年間、我が家を守ってくれていたのか・・・、

と感慨深い気持ちにもなりました(・・・ロマンチストだなぁ、僕(笑))。


ただ、今回は、
出かける間際でもないし、
場所が寝室でもありましたので、
そのままにしておくわけにはいきません。

 寝ている時に顔の上にでも落ちてこられたら・・・、

なんて考えたら、とても安眠出来ませんからね。

“プチハッピー”、なんて言ってる場合ではないのです(笑)。


そこで僕は、
手元にあった定規を使って、そのヤモリを部屋の外へ出す事にしました。

子供の頃は
昆虫や爬虫類が大好きだったにも関わらず、
なぜか現在では、
情けない事に、
そういった生き物を
素手では触れないものですから(・・・大人になる、って哀しい(笑))。

で、
定規の端で恐る恐るそっと突いたら、
彼はおとなしく、ピョコンと定規に乗ってくれました。

ホッとしたと同時に、
僕の胸はジーンと熱くなりました。
部屋から追い出そうとしている僕を
決して責めない彼のその健気な所作に、感動してしまったからです。

 この寛大さ、本当に神様なのかもしれない・・・。

そう思いました。

 「・・・やっぱりお前、あの時のチビヤモリなのか?
  8年間も我が家を守ってくれたのに
  見た目で気味悪がって追い出す僕を、どうか許してくれよ」

そう心の中で話しかけながら、
僕は窓を開け、彼をベランダに放しました。

 なぜ、ベランダか?
 それは、
 寝室にはいてほしくないけど
 家守なので敷地内にはいてほしいから・・・。

僕は、そんな自身の器の小ささを恥じながら、
つくづく、

 人間って身勝手な生き物だなぁ・・・、

と実感したのでありました。


一夜あけて、

 そうだ、この事を『ソフビ大好き!』に書こう、

と思いつき、
ヤモリの写真を撮ろうと
今朝、ベランダを探してみたのですが、
残念ながら、そこに彼の姿はもうありませんでした。
身勝手な僕に愛想つかして
我が家から去っていったのかもしれません。

これで僕の運気も下がっていくのかな・・・。
まぁ、
自業自得だから、仕方ないですね。


・・・ん?
運気が下がっていく?

おかしくないか?
僕の運気なんか、べつに上がってなかったぞ。
この8年間、
我が家が栄えた、なんて事は決して無い。

あの野郎、
ろくに仕事もしないで、8年間、タダ飯喰らってやがったな(笑)。



    ヤモゲラス
バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約28センチ。

『仮面ライダー』第12話「殺人ヤモゲラス」に登場した怪人で、
物理学者・白川博士が開発した、
生き物を白骨化させる光線・デンジャーライトの悪用を企む、ヤモリの改造人間。

でも、
赤と黒の彩色は、ヤモリと言うよりイモリ(アカハライモリ)。
たぶん、
スタッフは
ヤモリとイモリをゴッチャにして認識していたンだと思われます。
そして、
この人形の顔の全体的な歪み、
特に、左右の位置が微妙にズレてる目からは、

 俺って、ヤモリの怪人? イモリの怪人?

という人形自身の
その困惑が感じられて、実に味わい深いです(笑)。

何を思って
こんなふうに目の位置をズラしたのでしょう?
原型師の方は “天才” ですね。

   
  僕は子供の頃この人形を持っていましたが、
  我が家に遊びに来た従弟に、

   「顔が似とらんで、なんかカッコ悪い」

  と言われた事を憶えています。
  僕としては、
  欲しくて買ってもらった人形ですし、
  その従弟ほど否定的な印象は抱いていませんでしたが、

   そう言われてみるとそうだなぁ、

  って確かに思いました。 
   
  でも、
  大人になってから、
  そのカッコ悪さに “ソフビ造形の妙味” を感じるようになるのですから、
  アンティークソフビは、ホント、奥が深くて面白いものです。

   コレクターになって良かった、

  と、つくづく思います。
     
   
  そもそも、
  ヤモゲラスという怪人自体、
  不気味ではありましたが決して “強敵” ではありませんでしたし、
  ショッカー怪人最後の見せ場でもある死に様も、
  ライダーキックで倒されるのではなく
  白川博士が放ったデンジャーライトを浴びて消滅、
  という地味なものでしたので、
  この人形の
  顔がカッコ悪い事によるちょっと残念な感じは、
  そんな、
  ヤモゲラスという怪人の身性や劇中から受ける印象を絶妙に表象していたわけで、
  誠にもって愛すべき造形である、と言えます。

  前回紹介した、
  さそり男人形や蝙蝠男人形の、
  実物の怪人の怖さ・無気味さを緩和した裁量もそうですが、
  “似せる事だけを是としていない” 昭和ソフビのデフォルメ造形は、

   オモチャとは何か?
   オモチャは誰のものか?
   オモチャは何のためにあるのか?

  を改めて認識させてくれます。


    バンダイ製 キングサイズ、全長約37センチ。

当時のバンダイ製のショッカー怪人ソフビは、
この大きいサイズになると、
スタイルに
洗練されたスマート感が出るのが特徴です。
このヤモゲラス人形も、
このとおり例外ではありませんし、
顔も、
スタンダードサイズに見られた “歪み” が無くなり、
実物に近いイメージで整っていて、カッコいいです。

それら全てが、
“デラックス感” を導き出し、
お金持ちの子しか買ってもらえなっかた高価なオモチャとしての、説得力になっていました。

しかも、
近所の商店街にあったオモチャ屋では、
このヤモゲラス人形をはじめとする大きなサイズの怪人人形は
スタンダードサイズの怪人人形とは別の場所に置かれていたので、
最初から

 “買ってもらえる対象外”

って感じで、
納得してあきらめていた憶えがあります。
      特に、
  これまで何度か述べていますように、
  『仮面ライダー』放映時は、

   もう小学生になったのだから、

  という理由で、
  母親は、ソフビ人形からの卒業を促してきていましたから、
  そんな空気の中、
  より高価なソフビ人形など
  とても「買ってほしい」なんて言えませんでしたし・・・。

  なので、
  大人になって、
  さらに 0 の数が増えて高価になっていたこの絶版人形を
  自分が働いて得たお金で買った時の達成感・満足感は、
  堪えられないものでした。

   やっぱり、

    コレクターになって良かった、

   と、つくづく思います。 
                   
                  どこ見てるの?
何か見つけたの?

実物に近い造形の顔になっても、
子供のオモチャとしての愛嬌は健在。
素敵です。 











昆虫や爬虫類が大好きだった子供の頃と同じようには
ヤモリを愛せなくなってしまった僕ですが、
その分、
ヤモリの怪人人形を、子供の頃以上に愛せる大人になりました。

だから、
たとえ神様に見放されて、運気も上がらず家も栄えず乏しい日々がこのまま続いても、
心までは貧しくならないので、全然平気です。

強がりじゃないですよ。
僕の本当の守り神は、ソフビを愛する心の中にいるのです。

奥深い魅力のアンティークソフビに、感謝。











 
 



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