真水稔生の『ソフビ大好き!』


第103回 「蜘蛛の意図」  2012.8

今朝、部屋の掃除をしていて、ふと、或る事を思い出した。
それは、
以前、掃除をしていた時に、
テレビの裏にあった埃の塊から
全長2センチくらいの蜘蛛が出てきた事があり、
それを或る先輩女優に話したら、

 「もぉ、汚いわねぇ。
  ちゃんとバルサンかクモの巣ジェットで駆除しなさいよぉ」

と叱られた事である。

相手は先輩だし年上だし、
あまりに不快な表情をされたので、なんだか申し訳ない気もして、
思わずその時は素直に「はい」と答えたものの、
本心では、“異議あり” で、
違和感というか反論というか、そんなものが今でも胸の中に残っている。

なぜなら、
蜘蛛は、本来、駆除すべき害虫ではないからである。
害虫ではないどころか、
ダニとかゴキブリとかを捕食してくれる、むしろ益虫なのだ。
駆除なんて、とんでもない。
毒蜘蛛でもない限り、
家の中に現れた蜘蛛は、生かしておいた方が良いのである。
もちろん、
その埃の塊から出てきた蜘蛛も、
僕は殺さなかった(お釈迦様、ちゃんと見ててくれたかな?(笑))。
おかげで、
我が家にはゴキブリが滅多に出ない(食料がまったく無いからだ、という説もあるが(恥))。
貧しいながらも、そこそこ快適な暮らしが送れているのだ。

その先輩女優は、
おそらく、
見た目が気色悪いから、という理由で、
当たり前のように蜘蛛を殺虫剤の標的にしているのだろうが、
僕は聞きたい。

 蜘蛛が蚊のように貴女の血を吸ったンですか?
 蜘蛛がシロアリのように貴女の家を食い荒らしたンですか?
 
と。
特に人間に危害を加えるわけでもない、
むしろ人間に怯えながら、
部屋の隅っこでひっそりと生きている小さな生き物を、
見た目が気色悪いからというだけで殺すなんて、
そんな傲慢で冷酷無情な事、僕にはとても出来ない。
血の通った人間のする事ではないのだ。
しかも、
先述のとおり、蜘蛛は人間の快適な暮らしに役立つ働きをしてくれるのだから、
それを駆除するというのは、愚かな行為。
血の通った人間はもとより、
知恵と良識のある大人がするべき事では、決してないのである。


・・・え?
だからといって掃除をサボっていい事にはならない?
要は部屋が汚い事の言い訳だろ、って?
いやぁ、
バレてましたか、
蜘蛛の糸ならぬ、僕の意図(笑)。

実は、殺したりはしないけど、僕も苦手なんですよね、蜘蛛。
だって、気色悪いもん(笑)。

その埃の塊から出てきた蜘蛛を見た時も、
思わず飛び退いたし、
部屋の隅に蜘蛛の巣など張られた日には、
とても不快な気持ちになり、すぐにでも引越ししたくなってしまいます。
虫とか爬虫類とかが大好きだった子供の頃でさえ、
蜘蛛を捕まえて飼おうという気には一切なりませんでしたからね。


子供の頃といえば、母親がよく、

 「朝の蜘蛛は殺すな、夜の蜘蛛は殺せ」

って言っていたのを憶えてもいます。
家の中で、
朝に見かけた蜘蛛は吉兆であり、夜に見かけた蜘蛛は凶兆である、
という俗信からくるものなのですが、
地方によっては、
朝だろうが夜だろうが
蜘蛛は待ち人来たる兆しゆえ殺すべからず、と伝わっている場合もあるようで、
やっぱり昔の人は凄いな、と感心してしまいます。
だって、
見た目が気色悪くても
蜘蛛は益虫だから殺さぬよう、
神様への畏怖を持ち込んで
縁起を担ぐ事でその気色悪さによる嫌悪を抑え、
上手に自然と共存しながら、心豊かに生きていたのですから。
どんな生き物かよく知らないけど
気色悪いから殺虫剤かけて殺してしまえ、などという野蛮な現代人とはエラい違いです。

まぁ、
とにかく今も昔も、
蜘蛛という生き物は、ずっと、
気色悪がられながら、我々人間の身近に存在している、という事ですね。


というわけで今回は、
そんな蜘蛛がモデル・モチーフとなったキャラクターを取り上げ、
そのソフビ人形を紹介していく事にします。

蜘蛛のモンスターといえば、
ゴジラシリーズのクモンガや
『ウルトラQ』第10話「クモ男爵」のタランチュラ、
あるいは、
『仮面の忍者 赤影』に出てきた大毒蜘蛛なんかが、
僕らの世代だとまず頭に浮かぶのですが、
それらは
単に蜘蛛が巨大化しただけの容姿なので、
おそらく気色悪いからでありましょう、
子供のオモチャとしてのソフビ人形化には、いまだ至っておりません。
やっぱ、
蜘蛛は相当嫌われているようです。

でも、
蜘蛛の姿形そのものではなく、
蜘蛛の要素を取り入れてデザインされたモンスターは、
そのカッコいい造形美によって
蜘蛛の生々しい気色悪さが少しは薄れるのか、ちゃんとソフビ人形になっています。
代表的なのは、
なんといってもコレ、蜘蛛男
『仮面ライダー』の記念すべき第1話に登場したショッカー怪人です。

      バンダイ製 スタンダードサイズ、
全長約27センチ。


   
   
                        バンダイ製 ミニサイズ、全長約11センチ。

    これは海賊版。
全長約11センチ。
御覧のように正規品のミニサイズとよく似ていますが、
よく見ると型が違うし、サイズもやや小さいです。

    更に小さい人形もあります。
タカトク製、 全長約9センチ。

チープでマイナーな存在ながら、
マント背面のしわや
内腿の体毛がモールドしてあり、
躍動的なポーズ共々、
なかなかカッコいいです。


顔の中央に六角形の目が三つ集まったこの怪人を、
初めて見た時の戦慄の激しさは、
今でも忘れられません。震え上がりました。

当時は、
子供番組において “怪人” という存在が、
まだ確立されていませんでしたので、
怪獣や宇宙人とは違う、また、妖怪でもロボットでもない、
という、
新しい敵キャラクターの登場には強烈な衝撃が走ったし、
しかも
その新感覚のモンスターには、
以前にも述べた事がありますが、
怪獣の持つ力強さや迫力、
宇宙人(等身大の星人)の持つスマートな存在感、
妖怪の持つ不気味さや身近に感じる恐怖、
ロボットの持つお洒落な未来感、
と、
すべての既知モンスターの要素が備わっていて、
とても魅力を感じました。 

怖いけどカッコよくて、
逃げ出したいのに心はどんどん惹かれていく・・・、
あの独特なときめきの感覚は、
少年期にリアルタイムでショッカー怪人を体験した者にしか、おそらく解らないでしょう。


  下の2体は、平成ソフビ。
  向かって左の人形が平成14年、右の人形が平成16年にそれぞれ発売されました。

     
バンダイ製
仮面ライダー怪人シリーズ、
全長約16センチ。
   
 バンダイ製
 プレイヒーロー(食玩)、
 全長約11センチ。

  劇中の蜘蛛男を忠実に再現して造形・彩色された上の2体を見ると、
  蜘蛛男の恐怖がリアルによみがえり、鳥肌の立つ気すらします。
  と同時に、
  先に紹介した放映当時の蜘蛛男人形の、
  丸みのある顔の造形やオレンジ色の成形色が醸し出す、
  なんとなく穏やかで温かみのある雰囲気が、
  多くの子供たちから愛されるオモチャとして、いかに効果的に働いていたか、という事がよくわかります。

       

  3歳年下の従弟がいて、
  もちろん『仮面ライダー』が大好きだったので
  二人でよくライダーごっこをして遊んでいたのですが、
  一緒に仮面ライダーショーを観に行った時、
  ショッカー怪人たちを実際に見たら、彼は「怖い」と言って大声で泣き出しました。
  にもかかわらず、
  帰りに蜘蛛男の人形をおねだりして買ってもらっていたし、
  それを毎晩のように抱いて寝てもいました。
  今思えば、あれは、
  ショッカー怪人に対する、
  当時の子供たちの感覚の、サンプルのような所作。
  そんな、
  拒絶と傾倒のはざ間で揺れる僕らのニーズに、
  絶妙なデフォルメ表現で見事に応えていた昭和ソフビの偉大さを、改めて痛感します。



    この怪人は、
蜘蛛男の登場から約1年後、
『仮面ライダー』第57話に登場した、
土ぐも男・ドクモンド

ポピー製 ミニサイズ、全長約11センチ。


    すでに、
“怪人” というキャラクターも広く認知されていたし、
第13話以降、
番組の大ヒットと引き換えに
ショッカー怪人の怖さは
緩和されていったので(第102回「再生 〜我が心の『仮面ライダー』〜」参照)、
同じ蜘蛛の怪人でも、
このドクモンドには、僕ら子供たちは、それほどの衝撃や恐怖を覚えませんでした。
失敗ばかりして地獄大使に叱られる、
という、カッコ悪い場面も印象的でしたし・・・。
ただ、それでも、
ライダーキックに散った栄光のショッカー怪人の一人。
僕としては、
やはり、愛してやまぬ存在であります。

『仮面ライダー』では、
この後、
ゲルショッカー編において、クモライオンという怪人が登場したし、
『仮面ライダーX3』にはドクバリグモ、
『仮面ライダー]』にはクモナポレオン、
『仮面ライダーアマゾン』にはクモ獣人、
『仮面ライダースロトンガー』にはクモ奇械人、
『仮面ライダー(スカイライダー)』にはクモンジン、
『仮面ライダースーパー1』にはスパイダーババン、
『仮面ライダーZX』にはクモロイド、
『仮面ライダーBLACK』にはクモ怪人、
と、
昭和のライダーシリーズには、各番組に必ず蜘蛛の怪人が登場し、
人々の平和を脅かしては、ライダーに退治されていきました。
蜘蛛の気色悪さと身近さが、
いかに子供番組の悪役にもってこいの素材であったかが、よくわかるというものです。

そんな中でも、僕はこの、
『仮面ライダーアマゾン』に登場したクモ獣人が特に好きです。

    バンダイ製 プレイヒーロー(食玩)、
全長約9センチ。

仮面ライダーシリーズ第4弾にして、
ドラマの怪奇性や主人公の孤独感など、
『仮面ライダー』(旧1号編)への原点回帰を図った『仮面ライダーアマゾン』ゆえ、
やはり第1話の敵は蜘蛛の怪人で・・・、
という事になったのでしょうが、
蜘蛛男とはまた別な切り口で蜘蛛の気色悪さが表現されたその造形に、
実に見事だなぁ、と
当時10歳ながら、感服した事を憶えています。
アマゾンライダーとの
野性味溢れる激しいバトルにも、完全に魅了されました。

なので、
平成14年にこの食玩人形が発売された時は
その放映時のときめきが甦り、
もう嬉しくてたまらず、コンビニまで走って買いに行った次第です(笑)。


また、
昭和のライダーとは別次元の世界が描かれている平成ライダーシリーズでも、
蜘蛛の気色悪さは健在で(笑)、重宝がられています。

なんたって、
記念すべき平成ライダーシリーズ第1弾『仮面ライダークウガ』では、
最初の敵が、
この、ズ・グムン・バ、という、
やっぱり蜘蛛の怪人でした(もはや伝統の域(笑))。

       
      バンダイ製 仮面ライダー怪人シリーズ、全長約17センチ。

    バンダイ製 プレイヒーロー(食玩)、
全長約11センチ。


    ディスパイダー リ・ボーン

バンダイ製
ミラーモンスターシリーズ、
全長約10センチ。

これは、
平成14年の『仮面ライダー龍騎』に登場した、
ミラーワールド(鏡の中にある世界)に棲む怪人で、
ライダーに倒された後、その破片が集まって蘇った、再生体です。

       
    上半身が人間型モンスターで
下半身が巨大な蜘蛛、
という、
これまた強烈なインパクトを持った姿でした。


このように、
蜘蛛男に始まり、平成ライダーの敵に至るまで、
その気色悪さを武器に、
悪役怪人として圧倒的な存在感を示してきた蜘蛛ですが、
平成16年、
『仮面ライダークウガ』から数えて5作目の『仮面ライダー剣』では、
また別の、新しい可能性を見せてくれました。
なんと、
蜘蛛の怪人ではなく、
蜘蛛の仮面ライダーが登場したのです。
仮面ライダーレンゲル

 「ついに蜘蛛がライダーになったか・・・」 と、

思わず独り言を発してしまいました。
子供の頃から
約30年にわたり、
“蜘蛛は悪者、蜘蛛は怪人、蜘蛛は仮面ライダーの敵”、
と刷り込まれた僕としては、
実に衝撃的な出来事だったのであります。

    バンダイ製 ライダーヒーローシリーズ、
全長約17センチ。

     
 ポピー製 ツインヒーロー、
 全長約14センチ。
   
 バンダイ製 プレイヒーロー(食玩)、
 全長約9センチ。

     
      バンプレスト製
  一番くじコレクションリアルソフビフィギュア、全長約13センチ。


    バンプレスト製
ビッグサイズソフビフィギュア、
全長約35センチ。

このレンゲル、
最強の仮面ライダー、という設定ながら、
スパイダーアンデッドという、
遥か太古から存在する不死なる蜘蛛が融合しており、
その意志の力が強いために、
装着者(変身した人)は邪悪な心に支配される、という危険を伴ったヒーローでありました。

ヒーロー・仮面ライダーでありながらも、
蜘蛛のイメージのせいで不安定な精神のキャラクターだったこのレンゲルに、
益虫とわかっていても
気色悪いからと蜘蛛を嫌悪してしまう自分自身の心が映し出されたような気がして、
妙な愛着を感じました。
と同時に、
蜘蛛をライダーのモチーフに用いる事に対する、作り手側の配慮や工夫・こだわりを感じて、
決して “何でもあり” 的な軽いノリで生まれた新ライダーではない事に、
好感を持ったりもしました。


しかしながら、
蜘蛛のヒーローと言えば、
やはり、
一般的にはこちらでしょう。御存知、スパイダーマン
レンゲルどころか、
蜘蛛男よりもずっとずっと歴史の古い、
僕が生まれる前から存在するキャラクターであります。
最後は、
この、世界的に有名なヒーローで締めくくりましょう。


     
 ポピー製 スタンダードサイズ、
 全長約22センチ。
   
 ポピー製 ミニサイズ、
 全長約13センチ。


スパイダーマンは、
元々は、アメリカン・コミックスに登場するヒーローで、
僕が幼稚園に通っている頃(昭和40年代前半)に、
彼を主人公にした、
その名もズバリ、『スパイダーマン』という海外アニメ作品が、テレビで放送されていました。
内容はまったく憶えていませんが、
スパイダーマンが糸を使ってビルの谷間を行き来するオープニング映像だけは、
記憶に残っています。
ただ、この人形は、そのテレビアニメではなく、
昭和50年代に放送されていた実写版『スパイダーマン』の商品であります。
東映がアメリカのマーベル・コミック社と契約を結び、
日本で作られた特撮ヒーローであるスパイダーマンの、放映当時のソフビ人形です。

アニメに馴染めず、
特撮・実写作品を偏って愛する僕なので、
番組の存在を知った時は、大いに喜びました。
スパイダーマンが、
まさに蜘蛛のごとく、
天井にへばりついたり、ビルの壁をスルスルとよじ登ったり、
糸(と言うよりロープだったけど)を使って飛び回ったりする映像を、
絵(アニメーション)ではなく実写で見る事が出来た事に、いたく感銘を受けたものです。


また、
この実写版『スパイダーマン』には、
レオパルドンという巨大ロボットが登場します。

     
 ポピー製 スタンダードサイズ、
 全長約23センチ。
   
 ポピー製 ミニサイズ、
 全長約12センチ。

スパイダーマンがこれに乗り込み、巨大化した敵の怪人と戦うのですが、
そのフォーマットが、
今日の児童文化をリードする、
スーパー戦隊シリーズの巨大ロボバトルの元祖なのですから、
実写版『スパイダーマン』は、
日本の特撮ヒーロー史において特筆すべき作品である、と言えるでしょう。


    バンダイ製
ソフビ魂シリーズ、
全長約15センチ。
    この人形は、
超合金魂レオパルドンとセットになって、
平成18年に発売されたものです。
先に紹介した放映当時の人形では省略されていた、左手首のスパイダーブレスレットも
ちゃんと再現されています。
このブレスレットをしてるかしてないか、が
日米スパイダーマンの最も判りやすい外見上の違いであり、
言うなれば、
このスパイダーブレスレットこそが、
日本のスパイダーマン・東映のスパイダーマンの証なのに、
それを省略するとは、
昭和のオモチャ、ってワイルドだなぁ・・・(笑)。


そういえば、
『スパイダーマン』、『スパイダーマン2』、『スパイダーマン3』、
そして先ごろ公開された『アメイジング スパイダーマン』、と
ここ10年余りの間、
CG時代のスパイダーマン映画がハリウッドで製作されていますが、
いまだにレオパルドンは登場しませんね(笑)。

まぁ、東映が作った(デザインしたのはバンダイ)日本独自のキャラクターなので、
当たり前と言えば当たり前なのでしょうが、
何作も作っていくのなら、
異国のスタッフも、
それくらいの洒落っ気を見せてくれてもいいのでは、って本気で思います。

見たいなぁ、CGによるハリウッド版レオパルドン・・・。

         


怪奇な悪の怪人も
カッコいい正義のヒーローも、
その魅力的なキャラクター性は世界共通。
蜘蛛という生き物の姿形・特性が、
我々人間の神経をいちいち刺激するようです。
気色悪い、というその嫌悪感の中に、
ファンタジーの世界を暴れまわる、大いなる能力を秘めている、というわけですね。
蜘蛛、って凄い。



現在、午前11時過ぎ。
極楽ももう午(ひる)に近くなったのでございましょうか(笑)。
今日は、仕事もバイトも無い完全なる休日。
掃除で汗をかいたからシャワーを浴びて、あとはビール飲んで昼寝でもしようかな。

ちなみに、
今朝の掃除の際には
蜘蛛は見つからなかったので、今日は特に良い事は起きない模様です。残念。
でも、
たとえ良い事が起きなくても、
悪い事さえ起きなければ、
極楽とまではいかなくとも、この世だって、僕としてはもったいなくらいの幸せ。
午後からも、
穏やかな時間が流れる平和な1日でありますように・・・。

とりあえず、
明日の朝まで蜘蛛が現われない事を祈る(笑)。


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